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十一月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part4

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

今月の文字は「保」。

11月30日までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローいただくと更新のお知らせが通知されます。

応募作(11月20日〜26日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

11月26日

秋透清太(サイトからの投稿)
時々職場にくる保険屋のおばちゃんはいつも飴をくれる。保険は親戚に任せているので加入できないと言っても、笑顔で飴をくれる。そんなおばちゃんの笑顔が大好きで、僕は保険を解約する決意をした。それから一年弱、おばちゃんはまだ現れない。デスクの引き出しには、最後に貰った紅い飴が入っている。

峰庭梟 @sss_books
「変わらなきゃいけないのかな」という私の言葉に「別に変わらなくてもいいよ」と保健室の先生は答えた。「でも、社会には保健室なんてないからね」私は俯く。ここが好きだったのにな。それに、窓の向こうに見えるあの夕陽も。「先週よりも少し日が長くなったみたい」先生はそう言って、寂しく笑った。

石森みさお @330_ishimori
平静を装った表情の裏で潮が満ちはじめていることなど貴方は知らないでしょう。寄せ来る波に、いつまで水際を保てるかわからないなんて。私の海は懸命にうねり、いまにも貴方の眼前にうちよせようとしています。別れの響きに耳をふさぐと海鳴りが聴こえました。遠雷とともにあふれる、ひとしずくの海。

川瀬千紗(サイトからの投稿)
アナウンスが電車の到来を告げた。
「じゃあ、また」「うん」彼と短い言葉を交わす。そのときだった。
彼の手がかすかに、でも確かに私の手に触れた。電車が目の前を流れていく。手は保たれたままだ。止まらないで、と願う。強く強く、そう願う。
やがて電車は動きを止め、手は行き先を失った。

友川創希(サイトからの投稿)
眩しいくらいの夕日がまるでこの世界に俺らしかいないかのように、俺らの周りだけを強く照らしている。今日も、終わりを告げる。この夕日をこの保護犬と見たのは何回目だろうか。太陽がまた明日昇るように、俺とこいつの生活も続いていくんだろうなと思う。

友川創希(サイトからの投稿)
お腹が空いた。グーと大きな音を立てて鳴る。お腹の中がまるで空洞になってるようだった。リビングからほのかに心を温めてくれるような匂いがする。僕はリビングに向かう。そこには妻が作っていたハンバーグがあった。このハンバーグが僕の命脈を今日も保つことになる。

友川創希(サイトからの投稿)
私の夫は目玉焼きを作っても大胆に焦がしてしまうし、砂糖を買ってきてほしいと頼んでもいつも塩を買ってきてしまう。家事がろくにできない夫なのだ。なにもできない夫だ。でも、本当に優しい、それだけは私が保証する。だってそれが君を好きになった理由だもん。

友川創希(サイトからの投稿)
『きょうはおりがみでつるをおりました』『きょうはともだちとすなばでおおきなとんねるをつくりました』『きょうはわたしののおたんじょうびで、みんながうたをうたってくれました』そんなことが私の保育園児のときに書いた一言日記に書かれていた。なんか懐かしい温かい風が吹いてくるみたいだった。

カプセルコーヒー @cp_coffee_W
財布の中に見覚えのない真っ白なカードが入っていた。なんだっけ。そのまま忘れ、駅でタッチしたら改札を通った。レジで決済もできた。会員証や保険証にもなった。およそできないことはなかった。誘惑より恐怖が勝り警察に届けたが、それがはたして正解だったのか、退屈な日々の中でふと考えてしまう。

夏見有 @you_natsumi
保健室は穏やかだけど、そのぶん余計なことまで考えてしまうから苦手だった。でもわからない授業を受けるよりはマシに思えた。
みんなみたいにがんばれない私に価値はない。そのまま浅い眠りにつき、チャイムで起きた。教室に戻れば友だちが寄ってくる。今だけは自分の空けた穴の大きさに安心できた。

若林明良(サイトからの投稿)
鈴木保奈美と鈴木杏樹って姉妹やねんで。東京ラブストーリーが大流行だったころ姉が言った。苗字同じだし確かに顔も何となく似てる。そっかぁ~。私は得意になって色んな人にこのトリビアを喋りまくった。1991年、ネットが普及する前の時代。みんな信じてへぇ~って顔をした。みんなごめんなさい。

.kom(サイトからの投稿)
「やっとだね。」君の優しい声がそう告げた。「うん。やっと。」僕はそう返すのが精一杯だった。本当にやっとの思いで書きあげた文章は、今まで書けていた物には程遠い。自分が一番分かっていた。それでも君の優しい声が、崩れそうな心をなんとか保ってくれていた。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
その美術館には大切に保管された一冊の本がある。質素な表紙には題名が無く著者が誰かも分からない。一日に一人、美術館でのみ読むことができるのだ。読者は、かつて存在し人々が愛したとされる『四季』を知り、紡がれる物語に想いを馳せる。今日も一人、胸を焦がして人工色の夕日の中を帰っていく。

松浦照葉(サイトからの投稿)
昔々神々が雲上から地上に降りてくる時、寿命が人間と同じになってしまうという大きな問題が持ち上がっていた。問題の解決にあたり、神としての寿命を保ち続ける薬酒開発を計画し人間に作らせることにした。これで安心して神々は人間界に紛れ込めるようになった。これが広島の保命酒かは定かではない。

トガシ @Togashi_Design
幸福と不幸、嬉しい事と悲しい事、全ては半々で均衡を保っているとは言うけれど、現実は不均衡だ。だって、たい焼きを半分にすると、尻尾の方にあんこが少ない。でも、頭の部分を彼女にあげると「ありがとう!」って笑顔になったから、まぁ不均衡でも良いかな。何より、僕の心の平穏が保てるから。

11月25日

彩湖あにぃ @ayako_annie
この先にはなにもないよ。農民のその言葉は、正解でも誤りでもなかった。人の気配がする。子供たちの笑い声が聞こえる。この地に生まれ、死にゆく人々の暮らしの残り香が漂う。旅人は、風が保管した記憶に身を委ね廃墟に立つ。戦が街の日常を奪ってから、既に50年が経っていた。

Jasmine(サイトからの投稿)
私は、人に飽きられるくらい寝ている。時間の許される限りずっと。ある人からみたら、もったいないと思われるかもしれない。しかし、寝ていれば誰にも邪魔されないし、人にも迷惑かけない。最高の保養鬱散だ。もう布団の恋しい季節が始まっている。本日も私は布団の中で携帯を片手に静かに眠るだろう。

チアントレン @chianthrene
発症後に申請したもんだから配給は半月後。確保できた食糧は3食分に菓子類6食。見つからずに外に出るのは不可能で、これで14日間やり過ごすのだ。水道が生きているうちに飲み水を溜めまくり、ガスが止められる前に手当たり次第に火を通す。おっと、理性が残ってるうちは窓に曜日を記すんだったな。

へいた @heita4th
大人になったらパイロットになりたい。スーパーの帰り道に堤防でコンクリートの塀によじ登る。両手を広げてバランスを保てば僕はもう飛行機だ。向かい風が気持ちいい。「いい加減にしなさい」自転車をひきながら母さんが言う。ジャンプして、着地。「お帰り機長」母さんが言う。「無事帰還」僕が言う。

高羽志雨 @hirotan165
保育園から出て、娘が自転車の後ろの座席にまたがる。
「今、律くんのママが来てるよ。先生とお話しするって」
「律くん、いつもお迎えはパパよね」
思わずつぶやく。娘が口元に手をあてた。
「パパと先生、仲良しなの。ママ寂しいんだね」
娘の笑顔は屈託のないものだった。

冨原睦菜 @kachirinfactory
冷蔵庫の保存容器は、妻がそれぞれの中身をメモ書きしてある。「茹でほうれん草」「苺ジャム」「豚の角煮」「ひじき」。その中に「秘密」というものがある。試しに開けようとしたが、背後から「それは秘密よ」とゾッとするような声で囁かれて以来、俺は冷蔵庫を開けても、それは見ないようにしている。

ダニー @5FUmQge6xskyxmC
体育の授業中、足を捻った僕に同級生達が走り寄る。何人かは保健室に連れて行くと申し出た。しかし、それは親切心なんかではないと僕は知っている。皆、新任の美人養護教諭に会いたいのだ。僕は彼らの申し出を断り、恨めしそうに顔を歪めた彼らに背を向け、足を引き摺りながら笑顔で保健室へ向かった。

今村スイ @tsuduru_0716
保護猫だったチビが居なくなって、今日で一年になる。チビという名が似つかわしかったのは仔猫の頃だけだったのに、また小さな骨壺に納まるほどになってしまった。手向けの花は、チビの瞳と同じ色のルリマツリ。寂しくないよと呟いたが、チビに向けてなのか、自分に向けてなのかはよくわからなかった。

明里水也 @m_iya_o
愛とはどんなものであるのか?先生の問いに、わたしは答えられなかった。正確には、あれが問いではなかったからかもしれない。窓の外を向いた先生が、なにを見ていたのかわからない。わたしは、ただわからないという顔を保つのに必死だった。あれはそう、見てはいけないもので、とても見たかったもの。

タケイチ @TAKEiCHi140
電気が止まった。ガスは二日前だ。まあ、どういう状況であれ腹は減る。だるい身体を起こして台所へ向かい、棚から素麺の束を取り出す。水は出る。湯はキャンプ用のコンロで沸かせる。が、こういうときにこそ口遊める歌が必要だと思った。それはすぐそばにあった。「ふんふんふっふん揖保のふふーん」

浅羽海斗 @k_asaba
紅葉狩りの合間に拾った栗をポケットから誇らしげに出すと、元に戻しておいでと父にたしなめられた。「山で冬を越す動物はね、食料の確保が一番大変なんだ」たかが栗ひとつ、と思いながらも切り株の上に置き、来た道を戻る。振り返ると大事に栗を抱えるリスの姿。今日はご飯を残さず食べようと決めた。

右近金魚 @ukonkingyo
星のない夜、僕は光を拾いに行く。路上のピアニストが溢した涙。誰かが窓辺に置き忘れた愛の言葉。母親が戦地の息子に送ったキス。
光達は微かな息を保っていて、語りかければ忽ち輝き始める。
そうして集めた光をどうするかって?
勿論、空に蒔くのさ。
光が本当の持ち主に見つけてもらえるようにね。

11月24日

たつきち @TatsukichiNo3
ほのかに正露丸に香り漂う保健室を思い出す。中学の保健室。頭が痛くても、お腹が痛くても、保健室の森先生は正露丸しか渡してくれない。お腹が痛い時は正解かもしれないけど頭痛には正露丸は効かない…と思っていたのに、不思議と効いた。「歯痛にも効く」言っていたけどいまだに確かめたことはない。

雪菜冷 @setsuna_rei_
夫の弁当箱に銀杏の葉が入っていた。首を傾げつつ捨てる。翌日は紅葉、翌々日はどんぐりが。即座に捨てる。秋拾いは娘だけで十分だ。夫の奇行は尚も続く。娘が成長すると段々楽しみになってきた。夫婦二人の今では押し花や貼り絵にして保管している。直に結婚三十年。アルバムにして贈ってみようか。

碧乃そら @hane_ao22
カッターで切ってしまった指先に、じわりと血が浮き出た。後輩が息を呑む。俺の紫色の血液を見て。「先輩」何を言われるかと思ったら、後輩は俺と同様に指先を切ってみせた。同じ紫色が流れ出す。「俺も紫の保因者です。ああ、嬉しいな」後輩はひどく幸福そうに微笑む。「俺なら貴方と混じり合えます」

本田臨 @ayakobooklog
教室に入れなくなって半年が過ぎた頃、保健室に足音が近づくごとにベッドへと駆け込むことを覚えた。休み時間や授業中に訪れるなにものかに出会すのを避けるために。クリーム色のカーテンに蠢く影は巨大化して化け物と化し、声という声はすべて超音波の攻撃に変わった。私はいつもかなしく怯えていた。

藍沢 空 @sky_indigoblau
海を見に行く夢を見た。誰かと手を繋いで、砂浜でぼおっと曇った空を見上げていたが、いつの間にか一人になっていた。猛烈な寂しさが襲ってきて目覚めると、隣で寝ている夫は背中を向けていた。手を伸ばせば触れられるのに、その心は果てしなく遠い。保留にしていた新しい仕事、明日OKの返事をしよう。

夏見有 @you_natsumi
植物園が好きだ。特に亜熱帯に近い環境が保たれている温室。扉を開けば高めの温度と湿度、充満する植物のにおいに胸が高鳴る。人間のそれとは雲泥の差で少し笑えた。汗、脂、加齢臭。柔軟剤や香水の人工的なもの。どれもが不快だった。
深呼吸をする。この瞬間だけ、息をするのが気持ちいいと思えた。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
夕方になると決まって熱を出す。子どもが乗る自転車のタイヤがカラカラと啼く。腹を見せながら通過する飛行機がごおぉと唸る。近所の完成間近のアパートが身を削られたように叫ぶ。開けた窓から音が雪崩れ込んできて思考する頭を押さえつけるが、また筆を執り綴り始める。こうして日々を保っている。

みやふきん @38fukin
あの頃の私たちの居場所は保健室で、互いに距離を保ちながら存在だけは感じていた。再会したのは最寄駅のホームで、声をかけると美しく笑った顔が大人びていて、もう二十歳も過ぎたんだと実感した。次に会った時は互いに子連れで、あんなに綺麗に保っていた姿は影もないかわりに、一番の笑顔をくれた。

のび。 @meganesense1
韮崎家の井戸には神がいる。神は時々「まだ?」と聞く。家の者は「まだ」と答える。問いの答えを保留にしているのだ。その問いを知る者はもういないが「まだ」と答える限り家は安泰だと伝わってきた。何百年と韮崎家は栄えたが、ある時の当主が酒に酔い「いいよ」と答えた途端、人も家も消え去った。

モサク @mosaku_kansui
「モチベの保ち方…」検索窓に打ちこむと強い力に引かれた。倒れた僕を表情の無い瞳が見つめている。「誰?」尋ねると「知っているでしょう?」悲しげな声が頭の中に響く。「うん…よく知ってる」嬉しそうに笑った顔は、最初の頁の一コマ目。笑顔にしたかったはずなのに投げ出したままの僕のヒロイン。

御二兎レシロ @hakushi_tsutan
私が幼い頃に蒸発した父が数日前に死んだそうだ。それで役所の職員だとかが「金庫に保管されていました」と一冊のアルバムを持ってきた。中を確認し、酷く腹が立った。母と私の写真ばかりのそれは、どのページも散々に濡れた跡があった。……だから唯一の父の写真を今、まんまと私が濡らしてしまった。

秋助 @akisuke0
「割り勘でいいよな?」むりやり連れて行かれた居酒屋で、嫌いな上司が呟く。僕の返事を待たずに怒った話、泣いた話、納得のいかない話を延々と聞かされる。上司はひとしきり喋って平穏を保てるけれど、捌け口となった僕の不満は溜まっていく。お会計も、感情も、勝手に割られては平均化されていった。

タケイチ @TAKEiCHi140
半分まで食べてぼんやりとしていたら溶けかけたアイスクリームの、残りはまたにしようと冷凍庫を開けたら、ドアポケットに積まれた保冷剤がいくつか床にこぼれ落ちた。捨てられないのだ、コンビニのおてふきも、街頭で渡されるポケットティッシュも。あなたの顔も、声も、もう忘れてしまいそうなのに。

東方 健太郎 @thethomas3
まさか、って、上り坂と下り坂と、もうあと一つのさかでしょう。知ってますよ。でも、他にも、やぶさかとかいささかとか、いろいろあるじゃないですか。そう言って、彼は笑っていた。昨晩の明け方、彼の訃報を聞いた。何人かの友人から、電話やメールが届いていた。映写機の中に保てない面影があった。

すゞ乃 @myk714sz
クリームソーダと恋は似ている。
甘くて、蕩けて、沈んで、弾けて、溢れそうになって飲み込んでみれば、至るところに鋭く響く。
それでも何故か繰り返し、飲み干す頃には飽きている。
ではてっぺんの赤いさくらんぼは?
浮気性の友人曰く「あれはずっと保留のままの本命。変化がなければ飽きないの」。

11月23日

綺想編纂館(朧) @Fictionarys
空気感を保存できる缶詰に卒業前の放課後を詰め込んだ。あれから十数年。掃除の途中で見つけた「空気缶」を開けてみる。教室に満ちる肌寒さと夕暮れの色、しんと静まる廊下とどこか遠く聞こえる部活の声。青春の日常に戻ったようなリアルな感覚の中、懐かしい教室の空気に缶詰の鉄の匂いが混じった。

雪菜冷 @setsuna_rei_
熱したフライパンを濡れ布巾にあてひと冷まし。ぽってりした生地をたらせば厚みある円がふつふつと踊りたつ。裏を返せばきれいな薄茶色の焼き目がこんにちは。「まあだ?」小さなお嬢さんもこんにちは。頬には涙の跡。癇癪も美味しいホットケーキを前にすればほら。「まあだ!」五分と保たなかった。

椿ツバサ @DarkLivi
染みる傷口に耐えながらも静かに治療をさせてくれた。明らかに誰かに傷つけられた傷を見て保健室に拉致したのは正解だったと感じた。
「大丈夫。引き止めて悪かった。もう帰ってもいいよ」
「えっ」
「何故何も聞かないのか。それはまだ話したいと思ってないからとまた連れてくることになるからだよ」

永津わか @nagatsu21_26
きゅぽん。注ぎ口のボタン押し込むと小さな鳴き声が響いた。コップへ注げば甘酸っぱくも香ばしい湯気がふわり、深い赤と煮詰められた果物が顔を出す。そうっと口に含むと、スパイスと甘みが染み渡って体を溶かしていく。朝方アルコール無しだからと渡された水筒は、温もりを保って夜へと届けてくれた。

 @AoinoHanataba
「娘を寄越せ。それが借金の担保だ」
「は、はい! どうぞ!」
 父は取り立てにきた男に私を差し出した。自分の娘をあっさりと犠牲にする姿が、いっそのこと清々しい。奥に逃げた父を置いて、私たちは家を出た。
家の敷居を出た時、突然背中に温もりが宿った。
 
「遅くなって、すまねぇ……」

春島傑郎 @KeturoHarushima
他愛の無い挨拶に始まり、他愛の無い会話をし、今日も別れる。
気心の知れた友人、ましてや貴方になんて、僅かでも内心を明かす事は無いだろう。
気楽に傍に置いてくれたらそれでいい。
封を開けると常温保存が出来ない食品の様には、成りたくない。

11月22日

緋芭まりあ @A_Mary_geha
ベースはツヤ肌。アイシャドーはほんのり輝くモーブピンク。リップはぼんやりぼかしレッド。髪はうる艶。流行りの抜け感メイクは少し苦手。女子として生き抜くためのまるで保護色みたいだ。埋もれた私を誰が見つける? 埋もれた私を好きと言われて喜ぶ? おろかな私よ、そろそろ自分を生きる覚悟持て。

タケイチ @TAKEiCHi140
両腕を脚のように鍛え抜いた彼はその四つ脚で100メートル走の世界記録保持者よりも速く走ることができたしかし人間の身体は四つ脚で走るようには設計されていなかったから彼の走る姿はひどく不恰好で背中に乗った子どもは宙に放り出され空を見上げるその横を一匹の黒猫がしなやかに駆け抜けていく。

夏見有 @you_natsumi
「最近あの子と仲いいね?」
「そんなことないよ」
明確に、保身のための嘘だった。
鈍くさい彼女は周りからバカにされていて、見かねた担任に仲良くしてくれないかと頼まれ生まれた、計算ずくの関係。
けれど彼女よりも、顔色をうかがうをやめられない私の方がずっとおかしいのかもしれないと思った。

鈴木林 @rinhayashi_tw
手が指す。「バラ保険のお金が下りるかなって」「判断できかねます」それを耳が聞いて、口が開いた。「見てわかるでしょ。今バラバラなんですよ」「バラ保険は予期せずバラが咲いた時用のもので」「薔薇くらい漢字で書きなよ。あれっ」家にいる右目が、庭に生える真っ赤な花を見つけた。「よかった!」

11月21日

 @tatami_tatami_m
「Ctrl/⌘+S」を「保存」と称するのはなぜなのか? 少なくとも私の英和辞典における「save」の項に「保存」とは書かれておらず、代わりに「とっておく」とあった。とっておくこと。save。「Ctrl/⌘」を左手の小指で、「S」を薬指で押す。画面には小さな文字が並んでおり、私は鍵盤を再び叩き始める

足立ネコ(サイトからの投稿)
真夜中背中がドンと揺すられた。地震だ。P派だ。揺れが強くなるまで間がある。震源は遠い。NHKをつける。本棚を保持しながら考える。これが倒れてきたら死んでしまうのか。ヒヤリとする。地震のない国に住みたい。豪州はないという。時差もないので揺れてる間、本気で移住を考えている自分がいる。

足立ネコ(サイトからの投稿)
元夫が癌になり余命宣告を受けた。本人には知らされていない。生活保護を取り、棲家を変えなければならなくなった。入院中部屋を整理していた義妹が、ポンとくれたのは、結婚記念写真。こんなもの30年間も大切に保管していたなんて。最期のお別れの時、棺に入れてあげよう。一人で寂しくないように。

峰庭梟 @sss_books
ある博物館に決して開けてはならない箱が保管されており、その箱は「真実の箱」と呼ばれていました。ある日、どうしても我慢できなかった一人の学芸員が、ついその箱の中を覗いてしまったのです。中には一枚の紙切れがあり、こう書かれていました。「本当に大切なことなら、隠したりしないものだ」と。

英令目野ピイ @lmnopdesu
今年赴任したばかりの校長は、乱れた風紀を正そうと躍起になっている。「溜まり場になりがちな保健室は廃止。怪我の手当をする処置室で充分だ。病気の場合はすぐに早退させればいい」校長の案に即反対を表明したのは、保健室の先生。「保健室は『健康を保つ部屋』です。心の健康も例外ではありません」

 @AoinoHanataba
虐待児である僕は、保護される形で児童養護施設へ来た。親父の暴力から逃れられて、大好きな職員さんもできて、僕は幸せ者だった。幸せ者になったんだ。

  だから、親父が整形して職員に化けていたなんて考えにたどりつかなかった。
僕は殺してしまった親父の遺体を、施設の隅にひっそりと埋めた。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
小法師が起き上がれなくなった。弥次郎兵衛は助けようとするが「おぬしのほうが均衡を保つのは難儀だ」と遠慮する。先刻まで二人でのんびりユラユラしていたのに。右目から涙が溢れ、体が傾く。そこへ木枯しが吹いたので、グラグラと大きく揺れて弥次郎兵衛も倒れた。枯れ葉が二人の上に舞い落ちる。

はぼちゆり @habochiyuri0202
人一人暮らすのが精一杯の小さな星に引っ越した。誰からも邪魔されない隠れ家のような立地。見上げるとビュンビュン宇宙船の星間飛行が美しく、時間を忘れた。しかし、ある日を境に宇宙船をぱったり見なくなった。でも大丈夫。保管しておいたミサイルを近くの星に撃ち込めば、ほらまたビュンビュン…

11月20日

雨琴 @ukin66
「今日から僕はおじいちゃんだ」と言って祖父は私が生まれたときから母にお父さんと呼ばせなかったらしい。保健師になってはみたが私は何を背負っているだろう。桂馬が歩を背負い、歩が金になる。かつて来た道といずれ行く道の交差点で、あまり生きづらそうにされたら手を貸したくなっちゃうじゃんか。

雨琴 @ukin66
教室に居場所がなかった僕は転部してから部活の時間が居場所になった。次第に教室でも過ごせるようになった。しばらくして部活の後輩が保健室登校になった。「居場所のないつらさわかるよ」と伝えたくて会いに行ったが門前払い。つらさなんてわかるはずもない。大人になった今でも居方に悩み続けてる。

たーくん。 @ta_kun0717
外は凍るように寒い。
玄関を開けると、白い息を吐きながら迎えてくれたのは愛しい人。
彼女は俺を優しく抱き締めてくれた。
暖かくて、寒さが引いていく。
「今日もお疲れさま」
太陽のような笑顔を見て、心も温かくなる。
癒しと暖もとれ、保湿ミストを吐いてくれる便利な人型アンドロイドだ。

雨琴 @ukin66
瀧廉太郎は23歳で死んだ。楽譜は燃やされて34曲しか残ってないとか。長生きしてたらもっと多くの曲が現代に残ったかもしれないね。言葉と言葉。音符と音符にも距離がある。今日愛しい人の頬に触れることができるのも左腕にある18の痕跡のお陰。要はソーシャルディスタンスだよ。その音を十分に保って。

秋穂 悠(サイトからの投稿)
「距離を保ってお待ちください」1つ前に並んでいた人にそう言われて、咄嗟に手を離し、1mほど間を開けた。恥ずかしそうに下を向く。前を見ると皆があいだを開けて待っていた。なるほど、そういう場所か。そう思い、後ろに並び始めたカップルに声をかける。「距離を保ってお待ちください」

英令目野ピイ @lmnopdesu
料理を余してしまった。冷凍保存か…と考えながら何気なく外を見ると、窓硝子と網戸の間にハエが入り込んでいた。外に出ようともがく様子を、暖房の効いた部屋から見守る。これからの季節、どうするのだろう。食卓には余った飯。満腹で動けない俺。必死に動くハエ。網戸を揺らすのは、冷たい風だった。

夏見有 @you_natsumi
授業が終わり、昼休み。ずっしりと重たい巾着袋からおかずの入った四角いタッパーと、ステンレス製で背の低い円筒形をしたものをとりだす。丸いふたをひねれば甘い香りが漏れ出す。中には湯気の立つ白いご飯が詰まっていた。
保温機能付きの弁当箱は重たくて嫌いだけど、あたたかいから好きだった。

無糖 @kohakohabox
真冬、大好きな君と手を繋いで帰る。寒がりの君が、温かいからって唯一繋いでくれる時間。
君は知らない。私が冷え性だってこと。君の為、温かさを保とうと必死で努力してること。
着込んで、ホッカイロ貼って、ポカポカするもの飲んで。
あ、でも最後まで冷めないのは、君にドキドキしてるからかも。

無糖 @kohakohabox
モチベーションを保つには、ご褒美が必要らしい。
私だと、チョコレートやアイス、ドーナツなんかかな。うんうん。甘いものさえあれば、何だって頑張れちゃいそうな気がする。
まぁ、ダイエット以外は。
あーあ、モチベーションあがんない。

無糖 @kohakohabox
父の死後、大山脈級の書類を母と片付ける。期限切れ保証書、チラシ、私が学生時代の便りまで、出てくる出てくる。父は捨てられない人だったが、ここまでとは。
「お母さん、進んでる?」
「全然。捨てるの躊躇っちゃって」
「あ、量じゃなくてそっち……」
「全部に思い出が生きてる気がしちゃって」

無糖 @kohakohabox
保険料無料。但し死後に魂を頂戴致します。
そんな理解不能な保険を、とある会社が立ち上げた。噂によると死神が運営しているらしい。
レビューでは、ちゃんと手当が出ると書かれている。ただ、当然ながら、魂の件には誰も触れていなかった。
さて、現世優先か、死後を案じるか。迷うところだ。

カプセルコーヒー @cp_coffee_W
羅針盤に従い航路を保ち、数多の困難を超え、船は粛々と進んできた。だが今、目的地を見失い、船はただ波に揺られ流されている。時には流されるのもいいだろう。だが流れる日々は酷く怠惰で、流された先が天国だという保証もない。もう一度探し考えてみるといい。船は今どこへ行き、何がしたいのか。

桜海冬月(サイトからの投稿)
草影にまみれる飛蝗を見た。所謂保護色というものだ。
保護色とは生き物が身を守るために周囲に似せるというものだが、驚くことに環境が変わればさらにその環境の色に合わせるらしい。
そこまでして生きようとする生への渇望は何処より生まるるのか。私は保護色の美しさを知り、俄然興味を持つのだ。

桜海冬月(サイトからの投稿)
私は大怪我の保養にとある温泉地を訪れていた。閑静な街並みは美しく自然と調和し、喧騒のないなか、たまに鳥の鳴くなどはその極みである。部屋からは手付かずの原生林や保護対象となっている自然公園なども見えており、蔦などが木々に掛かる様も、見ているだけで怪我が癒されている心地を演出する。

桜海冬月(サイトからの投稿)
私は一心に逃げていた。きっとこのままでは殺されてしまう。交番で保護してもらわなくてはいけなかった。足の出血さえ気にしない。
「助けてください!」
やがて近所の交番にたどり着き、出入り口にいる人に叫んだ。
「やあ、ここにいたのかい」
そこにいたのは私を殺そうとしていたあの男だった。

タケイチ @TAKEiCHi140
「ひとりで見てる。さみしい」と、あなたが月の画像を投稿したのを見て、それが私に宛てられたものではないことを知りながら、窓を開けた。おおきな円い月があった。月はこの星との適切な距離を保ちつつも、すこしずつ離れていっているという。迎えに行きたい、たとえ何もかもを壊すことになっても。

斎藤 こかげ(サイトからの投稿)
「理性を保てないこと程無様なことはないでしょ」グラスを傾け、十年ぶりに再会した彼女が怪訝な表情で呟いた。
理性を保てない程の感情を抱いていると伝えたかっただけなのだが、それがこれ程までに彼女の神経を逆撫ですることになろうとは、恋はいくつになっても簡単なものではないのだと痛感する。

藤和工場 @factouwa
ヤスコおばさんは、いろんな事を教えてくれた。ドーナツとドーナッツの違いとか。 ある日。 「東京に行く。最後にひとつ…あんたの名前の保っていう字、あたしがあげた…ホントのママだから」 耳元から離れるその匂いは、懐かしさを教えてくれた。大きくなるまで忘れずいたら、人の森でも迷わない。

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