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十一月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part1

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

今月の文字は「保」。

11月30日までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローいただくと更新のお知らせが通知されます。

応募作(11月1日〜5日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

11月5日

月夜野出雲 @Tukiyono_Izumo
久しぶりの休日を利用して小さな船でのんびり釣りをしていた俺は、昼も少し過ぎて帰り支度を始めた

直後に竿が大きくしなり、慌てて竿を手に取っていると背後からスピーカーで「海上保安庁です、お話いいですか?」と聞こえてきた

少し待ってもらうように大声で返事した途端、大物は逃げてしまっ

月夜野出雲 @Tukiyono_Izumo
ある男が小説のアイディアを思い付いた
某官庁が異世界へ飛ばされるというもので、男は一心不乱に思い付くだけネタを書き出して見返した

しかし、これは出身がバレる、それは秘密保全の関係で出せない、あれは現実を元にしたがなぜか現実的に感じない等却下ばかり続き、男は結局小説を書く事を諦めた

よつば @Kleeblatt3939
時を経ても鮮やかさを保つ花緑青のインクは猛毒の色。この毒のインクのみを使用し、複雑な暗号で記された古い本は、解読を試みた幾人もの研究者を葬った呪いの本だった。それがこの度、有名大学の研究者チームによる万全の体制で解読された。本の内容は、愛妻家の男が綴った妻への愛のポエム集だった。

よつば @Kleeblatt3939
最近流行りの記憶保管サービスは、事前に保存した記憶を3Dで何度でも追体験できる最新型のARサービスだ。そのサービスに妻が結婚式の日の記憶を預けた。妻が言う。「私の葬式の日に使って」そりゃいいや。大好きな妻の葬式が少しだけ楽しみになった。

恋月ふみ @utakatazakura2
「そういえば保護者会そろそろだと思うんだけど……お報せの紙って、きた?」
ぎくり、と肩が揺れる。とっさに首を横に振ってしまった。
「そう? なら良いんだけど……」
おかしいなぁと首を傾げつつも、最終的に鵜呑みにしてくれた。
多分、無駄だろう。
働きづめの親に、来てくれだなんて。

久保田毒虫 @dokumu44
テレビをつけると暗いニュースばかりだ。戦争、災害、コロナ、汚職、保険詐欺、事故。明るいニュースを探す方が難しい。「世の中そんなもんだよ」と言われればそうかもしれない。でもそれで終わらせたくない。どうしたらいいのかわからない。わからないけど、とりあえず貴方を信じて生きてみるよ。

たつきち @TatsukichiNo3
「第三保管棟の第十六保管室の中にある特定保存指定物保管棚の第ハ十八保存箱の鍵を貸してください」
「第三保管棟の第十六保管室には特定保存指定物保管棚はありません」
慌てて伝達指示書を見る。「第三、第十六」担当官にも見せる。
「うん。でも、ないんだよ」
正解を知る担当官はニヤリと笑った。

橘しのぶ @kirainarasatte
生まれた時から半身が死んでいた。腐らないよう保冷剤を敷き詰め死んだ方を下にして寝た。半身のために生きる事が私の幸せだった。熱中症警戒アラートが出た夜、汗だくになりながら私は譫言を言った。「一回死んだ私はもう死なないけれど貴方は逝ってしまうのね」私と半身は恋人繋ぎで夢の淵に落ちた。

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
絹のような闇が溢れていた夜に、保温ポットから光る星屑の紅茶をコップに注ぐ。コポコポと目蓋を下ろし眺めるコップに滲む灯りが私を安心させる。今日、好きな人に「貴女には冬の菫でいて欲しい。」と言われた。その言葉は金平糖みたいに心の中を転がった。紅茶を飲む程に、その言葉が私へ溶けていく。

はぼちゆり @habochiyuri0202
怪しいやつがきた。「保険屋です」と取ってつけたような笑顔だ。「保険なら妻の仕事だ」「いえ、これは旦那様向けです」どういう事だ?「抹消プラン。奥様が突然亡くなられた時、心が衰弱しないよう奥様に関する記憶を…」なるほど。「確かに妻向きではない」「はい、不思議と女性に需要はありません」

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
母の遺品を整理していたら殊更丁寧に保管されていた物が見つかった。大切にし過ぎて当の故人すら存在を忘れていたかも知れない。風呂敷に包まれた桐箱の中にカセットテープの入った携帯型プレイヤー。電池を入れると動いた。イヤホンから聞こえる父と母の声。恋人同士の交換日記だった。天国の会話か?

黒野綯路 @High_Delight
妻に会いたい。手の届く距離で。だがもはや住む世界が違う。金が必要だ。車、家、母の形見、肺と腎臓を片方ずつ。売るものがなくなった頃、拾った新聞に彼女の顔を見つけた。脱獄犯の文字と共に。保釈金は無用らしい。いいさ、出てきてくれるなら。もうすぐだ、俺の小さなトム。パパが仇を討ってやる。

11月4日

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
冬の水を触る時、骨があった。「あれ?何の生き物だろう。」と私の両手は水の存在のカーテンを開く。すると龍の様な骨がギッシリ詰まっている。保持されていく冷たさは、この骨が正体だったと思え、それから私は水を飲む時、良く噛んで飲むようにしている。水は肌に当たると龍が這った様に赤くなった。

あめ @QzJe8ZdUJCy9Miw
花瓶に死んだ母の薬指が一輪いけてある。それを枯らさないよう、私は毎日必死にお世話をしている。爪が伸びるので、偶に切る。そして、最後に保護クリームを塗ってあげる。手間がかかるが、母とのこの時間が何より好きだ。最近、根が生えて母の薬指が喋れるようになった。私は泣いた。ずっと一緒だよ。

恋月ふみ @utakatazakura2
美しさを保つためにはどうしたら良いですか、ですって?
そうねぇ。私のイメージから勝手に、かの血染めの伯爵夫人のようなことをしていると面白可笑しく書いているヤツらもいるけど。
私のやり方は、いつだってシンプル。
食生活・睡眠・適度な運動、そして肌のケア。これの気配りに尽きるわ。

naokok @naokokngt
君は新しいスカートを身につけて、少し気取った感じで歩いている。かっ、かっ、という靴音が耳に心地よくて、僕は斜めちょっと後ろからその音に耳を傾けて歩く。君が振り向いて僕に笑いかける。隣に行きたいな。でも一歩踏み出して君のその笑顔が消えるのが怖くて、僕はこの距離を保っているんだ。

石川葉 @tecona
白いカーテンがはためいている。保健室のベッドで瑞玻は眠っている。マスクを外した頬が赤い。唇が赤い。私はその唇にキスをしようと思う。髪をかきあげ、かがんだ時に左手を掴まれた。「同意なしではいけないことよ」瑞玻の目は開かれている。私達は見つめ合う。ドアがノックされても瞳をそらさない。

藤和 @towa49666
眠すぎて人の形を保てない。昨日までは全然眠れなかったので病院で薬を調整してもらったらこのざまだ。ほんとうは、薬なんて飲まなくても寝られるのが一番良いのはわかるけれども、もう薬がないと眠れない体になってしまった。なんでそんなことになったのかわからないし、わかってもどうしようもない。

yuhi(サイトからの投稿)
「保っ保っ保っ保」
あのー、作者様ちょっとよろしいかしら? 確かにわたくし、高飛車なお嬢様の設定ですけれど、笑い声を「保」で表すのはどうなのかしら? え? あー、気品を保つって意味ですの? でしたら「ウフフ」とか可愛げのある感じはどうかしら? ね? 「ウ保保」それ、ゴリラですわ。

雨琴 @ukin66
みんなが好きと言うものは苦手だった。まな板の上で添えるように手を差し出し、「こういう匂いの者です」と自己紹介。かつて保護猫と呼ばれていた君は最初からそこにいたみたいに。世界なんて簡単に変わる。たとえば膝に感じる重さも体温も日常になって、見慣れてしまう頃には。なんて、鶏卵問答だよ。

夏見有 @you_natsumi
冷蔵庫や洗濯機をはじめとした家電が並ぶ店内を見回す。平日の半端な時間。白が反射する空間に人はまばらだ。
「何かお探しですか?」
「へ、ああ、洗濯機を少し」
鈴の音のような声と眩しい笑顔に声が上ずりそうだったが、何とか冷静さを保ちながら返す。
君を探してたなんて、言えるはずがなかった。

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
「ホ・ホ・ホ」藪の中で誰かが囁く。「保保保」今の女には全てがそう聞こえてしまう様子で、耳を塞いだ。昨日まで保育所に居た《我が子》「見付からないで」女は祈る。「ホ……」女が、声の主は泣いているのだと気付く。「──虐めていた癖に」子育て幽霊は、保育所から攫った《我が子》の手を離した。

いえろー @86001yellow
失恋した。シャワーで涙をごまかし、ママにバレないようバスタオルで顔を隠して部屋に戻ったら、幼馴染みがベッドで漫画を読んでいた。もう噂になってるんだ。化粧水の瓶を手に重いため息を吐いた。と、頬にざらりとした感触。彼が舐めたのだ。「保湿してやったぞ」「汚い!」幼馴染みは相変わらずで、

雪菜冷 @setsuna_rei_
鉛のような体、重苦しいため息。靴も揃えずソファに沈み込んだ。ご飯はどうするか。カップ麺?体はNOと叫ぶ。ご飯、チーズ、ベーコン…。保存してた材料を鍋に放り一煮立ち。とろりと溶けたチーズに唆られ味見をすればふわりと温かな心地が身を包む。安堵を噛み締める内に夜は過ぎまた朝日は登りゆく。

今村スイ @tsuduru_0716
学校の保健室にお世話になったのは、覚えのある限り一度きりだ。気分が悪くなってベッドでうとうととしていると、ごめんね、と先生が顔を覗かせる。お薬、あげられないの。おうちの人が迎えに来てくださるそうよ。はい、と私は頷く。彼女の微笑みが何よりの薬だと知るには、まだ私も幼過ぎた頃だった。

メイファマオ @molmol299
健康寿命を延ばす為、また若さを保つため、色々と努力はしたけれど。
寄る年波には勝てないのね、と皺だらけの手で夫の頬に触れると、また会えるさと優しく撫で返された。
今度は貴男と同じ人外がいいなぁと呟くと、どっちだって構わない、直ぐに見つけるからと言う。
やだな、この泣き顔は覚えてる。

黒野綯路 @High_Delight
僕らの町の保安官。朝から酒場で太鼓腹。若い夫婦の喧嘩が聞こえて、平和の敵だと早撃ちをご披露。女の黒髪に真紅の大輪、彩り添えたらもう一発。男の胸には緋の色の花、二人の姿は愛を誓ったあの日のようで。仕上げに連発、花びらの雨、仲直りを祝福だ。僕らの町の保安官、魔法の銃のピースメーカー。

 @tatami_tatami_m
その車は緩慢なスピードを保っている。屋根は無くピンクの服と帽子の女(向かって右側)と男(左側)が並んで座っている。男は自分の右頬あたりを押さえて俯いたように見える。女はそれを気にしているようだ。……男の頭から何か吹き出し、ガクンと後ろへもたれ、車の後方に飛び散ったものを女が拾う。

11月3日

成陽高校文芸部 @seiyoliterature
史上最大の戦争で、世界は崩壊した。

とはいえまだできることはある。この過去に情報を送る装置を使って、この終末を知らせるのだ。事の顛末を偉人たちの脳へ送った。

過去改変が起きたのか世界の消滅が始まった。明るい未来に変わる保証はないが、過去の人間たちへ希望を託す。後、いや前は任せた…

pokazo @pokapoka_pokazo
これがあればたったひとつの条件だけは保証してくれるらしい。手に入れるには苦労したが、私たち夫婦の遺伝子では「容姿端麗」「頭脳明晰」などのハイレベルのものは望めないようだ。まあ構わない、どうせ同じことなのだ。まだ見ぬ我が子を想い、私は「五体満足」と右手の義手でチケットに記入した。

荒金史見 @af_viz0319
急拵えの孵卵器が、ふかふかの毛布と猫のぬいぐるみを備えた保育器に姿を変えたのは、冬の始めの頃だった。正体のわからない生き物を育てるのは、これで何度目だろう。前の個体は、ぬいぐるみには関心を示さなかった。逆に、今度の個体は、ぬいぐるみのことを、まるで兄弟か友達かのように扱っている。

水沢ながる @mizunagaru
「保管期限が過ぎましたので、預かり物をお返しいたします」
そんな手紙と共に送られて来たのは、手のひらサイズの小箱だ。送り主は記憶保管会社。辛い記憶などを一時預かってくれる所だ。
記憶の主は行方不明になった友人だった。彼の失踪の理由がそこにあると知りつつ、僕は未だ箱を開けれずにいる。

藤和 @towa49666
保険の営業をやるのがしんどい。個人宅を訪問するタイプの営業でないだけましだけれども、それでも他社に行ってチラシを配るというのは緊張する。同じように営業に来る他の保険会社の営業さんと出くわして、挨拶をする。なかなか契約が取れませんねなんて言いながら。今月も、他の人に助けてもらうか。

橘しのぶ @kirainarasatte
ゆき先生の手は柔らかい。春の雪の匂いだ。先生は検温前に僕の額に手をあてる。「熱はなさそう。受験のストレスかな」心配そうに微笑む。そう、僕は時々頭痛がして保健室に行くんだ。先生は原因不明と言うけれど僕にはわかっている。卒業式までにあと何回、春の雪の匂いにふれる事ができるだろうか‥。

峰庭梟 @sss_books
男は綱の上を渡っています。綱渡りは、ちょっとした油断が命取りになるのです。そのとき、下から声がしました。「落ちればいいのに」男は聞こえないふりをし、バランスを保つことに意識を集めます。落ちないように。すると、下からまた声がしました。「落ちればいいのに。普通に歩いた方が安全なのに」

恋月ふみ @utakatazakura2
「まーたお前たちか」
お互い傷だらけで、ムスッとしている生徒2人。
毎回毎回、些細なことでケンカしてはこうしてケガを作って保健室の世話になる常連共だ。学年もクラスも違うのに、どうしてお互い噛み付き合わなきゃ気が済まないんだろうねぇ。
好きなら好きと、ストレートに言やぁ良いのに。

黒野綯路 @High_Delight
名称:丙種外来生物標本一号
保存状態:良
概要:統一歴三七五六四年の大量流入の際に捕獲(本個体以外は駆除)。四日後に観察房内で右前肢の一部を自ら噛み切り、赤色の液体を漏出させたのち死亡。時間凍結処理を施し、第十三研究所へ移管。
追記:記憶追跡により原生惑星を特定。研究の進展に期待。

11月2日

雨琴 @ukin66
バスの窓からこっちを向いて、親戚でもないのに手を振って。見ず知らずのおじさんなんかに。子どももいないから、あんなに笑って手を振られたこと、ないんだよ。たまに怖がって近づいてこない子もいてさ。保護者のほうが腕組んできたりして、申し訳ないよ。着ぐるみの中で泣き出して溶けちまいそうさ。

水原月 @mizootikyuubi
今日の午前4時27分、地球で人類が絶滅した。地球最後のヒトが最期に送信してきた情報は、「バトンタッチだ。親愛なる友よ」だけ。
月の廃情報置き場で生まれた命らしき私に、初めて生きる目的ができた。人類を引き継ぐという目的だ。情報を保持しなくては。あのヒトの情報を、保持しなくては。

作花望(サイトからの投稿)
周囲からよく消極的な性格だと言われている。つまらないやつだと馬鹿にされたこともあった。だが自分に言わせれば、考え無しに無駄金を使う連中の方がよっぽど愚かに見える。この国の先行きは暗い。自分の身は自分で守らなければならなくなるだろう。保身的な生き方が注目される時代はすぐそこだ。

作花望(サイトからの投稿)
動物虐待のニュースを見た。行き場のない動物たちを保護していたら、いつの間にか自分の手に負えなくなってしまったのだという。動物たちは皆ひどくやせ細っていた。「可哀そうだ。ウチで一匹くらい飼えないかな?」と発言した直後、父が渋い顔を向けてきた。「お前もこいつみたいになりたいのか?」

作花望(サイトからの投稿)
将来の夢は?と聞かれて「営業以外」と答える友人がいた。その理由を尋ねると、毎日くたくたで帰って来るの父親を見ているからだと返した。一所懸命働いている親の姿はかっこいいと思うのに、僕には理解出来なかった。十年後、勤め人となった僕の前に保険のセールスマンとなった友人が現れたのだった。

作花望(サイトからの投稿)
クラスに全く勉強の出来ないヤツがいた。性格は悪くないのだが、如何せん頭が悪い。授業で居眠りしている訳でもないのに、テストで平均点以上を取れた試しが無かった。そんなヤツが遂に平均を大きく超える点数を叩き出したという。「俺、保健体育で高得点取ったんだ。いいお父さんになれるかな?」

作花望(サイトからの投稿)
年寄りは保守的でいけない。間違ったことや悪しき習慣は正していくべきだ。なのに「これでずっとやって来た」だの「変えればいいってもんじゃない」だの、本当に頭が固い。自分たちが変えたがりなんじゃない。あんたたちが古臭いだけなんだ。…なんて、気付けば自分がその古い人間になっていたよ。

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
名前が「保」だと「たもっちゃん」と呼ばれる現象は、広く全国で確認されています。一方、キラキラネームの普及や少子化の進展に伴い、「たもっちゃん」は漸減傾向。わたしども「たもっちゃん」同士会は、ホットな魂とユルい絆が売りの任意団体です。全国の「たもっちゃん」どしどしご参加ください!

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
保元の乱に勝利した平清盛は、戦塵鎮まりきらぬ中、郎党の一人にこぼした。「いやはや、ひでえ戦だったわ。いったい何騎討ち取られたんだ?」郎党は落ち着いた声で答えた。「将がご存命なら、まだいくらでも戦えますぞ」清盛は鼻を鳴らした。「ふーん。いつか俺の息子にも同じこと伝えてくれよな」

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
ある日、森の中、惨劇は起こった。山菜採取人ロボットが熊ロボットに襲われたのだ。引きちぎられた配線。散乱する部品。苦虫を噛み潰した表情で現場検証にあたっていた保安官ロボットは、不意に何かに弾かれた勢いで立ち上がると、傍らの猟師ロボットに叫んだ。「しまった!赤頭巾ロボットが危ない!」

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
「保多織の生地は縫いやすかとよ」と、幼き私に母は教えてくれた。老いた今も時折思い出す。その保多織の浴衣を、今日母に贈った。《多年を保つ》で保多織、病よどうか進んでくれるな。
「縫いやすかとよ」
母の消える記憶の芯に残っている幼い私が、今の私を忘れてゆくその笑顔の中で頷いた気がした。

オーガ(サイトからの投稿)
保健室の先生になりたかった。毎晩女遊びをしている父。父の行動を見兼ねて全てを放棄した母。その家族の一員であることに疲弊した私。そんな私の心を癒してくれたのが保健室の先生。だった。父親の不倫相手は優しい優しいあの先生。先生は私からりょうしんを奪った。今は弁護士の先生になりたい。

恋月ふみ @utakatazakura2
久々に再会した彼女の姿が、幼かったあの頃と全く変わっていない。
疑問と好奇心を抑え切れず、彼女に尋ねてしまった。
「驚かない?」
頷くと、彼女は小さく溜息をついて。
「私ね、時間の中を旅してるの。その影響で、若い頃の姿を保っていられるの」
その眼差しは優しく、どこか悲しげだった。

冨原睦菜 @kachirinfactory
それは保管してある。それってのは私の幸せの種。種ってのは時間が経てば経つほど発芽率が悪くなる。もう何年もほったらかしの種。もう芽は出ないかもしれない…。嘆いていると、知らぬうちに肩に登っていた蟻が囁いた。食糧庫の片隅でずっと輝いている。だから自分達は食べることができなかった、と。

イマムラ・コー @imamura_ko
私が大好きなあなたの右手。初めて見たときからずっと欲しかったあなたの右手。今日あなたに会ってなんとかいただくことができました。家へ帰って冷凍庫を開けると、そこに保存されている私が愛した男性たちの部位。あなたの右手ですべて揃いました。これからひとつひとつ、繋いでいきたいと思います。

黒野綯路 @High_Delight
もうデザートを食べ終わる。お酒は適量、夜景も私を応援してる。頃合いだ。平静を保て、私。会食もこれで十回目。シミュレーションも十分。好きですの一言を、今日こそ彼に告げるんだ。意を決して口を開く、だが彼のほうがわずかに早く。
「僕と結婚してください」
 待ってそれは想定してななななな

久保田毒虫 @dokumu44
強迫観念が僕を悲しみへと導く。街頭のイルミネーション、本屋の隅の方、水族館のイルカの鳴き声すら僕を監視する。理性が保てない夜。そんな夜は、ただあなたにそばにいてほしい。そっと手を握っておくれ。そして「もう気にしなくていいよ。大丈夫だよ」と囁いておくれ。僕の耳元で。囁いて囁いて。

11月1日

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
【言葉保存店】にはショーケースに言葉が飾られている。店主曰く、狩られる前に言葉の特許を取って、言葉を貸し出しているらしい。昨今政府の規制が厳しくなったので、言葉で人を動かす、あらゆる人物が言葉を借りに来るのだそうだ。今日のお客さんは政治家。「『記憶にございません』を貸して下さい」

pokazo @pokapoka_pokazo
ついにやった。この私が国際保安連合軍の総長になったのだ。長い道のりだったが、この地位と権力があれば、すぐに世界平和は実現される。最新鋭の武力が、我が手中にある。侵略を企む者、争いを望む者がいるのなら、この手で引導を渡してやろう。容赦はしない。さあ、はやく。戦争が起こりますように。

恋月ふみ @utakatazakura2
週に1回、干物バイキングというものがある。好きな魚を3点選んで900円という、なんとまぁお得な値段。親はこれを愛用し欠かさずに買ってきた。もちろん家計やおかずの助けになるから、私も嫌いじゃないけど……
「毎回毎回、1個1個ラップに包んで冷凍保存しなきゃいけないこっちの身にもなってよ!」

三日月月洞 @7c7iBljTGclo9NE
数年ぶりに保養院に居る祖母の元を訪ねた。結婚の報告をする為だ。いつからか祖母は見えぬ物を見るようになり、それが為に此処で世話になっているのだ。
「まだオバケは見える?」
問うたが、何も答えず微笑むばかり。
彼女の亡き配偶者のクローンとして誕生した僕。
結局、人生の複製は出来なかった。

窪内俊之介(サイトからの投稿)
どこまでが僕で、どこまでが君なのだろう?今僕は君になっている。この体を動かすのは僕だし、それは君でもある。これからこの体を保つのも、僕と君の混ざり合った何か。最初はぐちゃぐちゃだったけど大分綺麗になったよ。助からなかった君の中身が僕の中で動いているから、僕は明日も君の墓に行くよ。

水田あさ美(サイトからの投稿)
別れ際に大好きだった彼女が吐き捨てた「テンポデネナ」という言葉がずっと耳に残っている。何かの呪文かと思っていたが、調べてみるとどうやらちゃんと意味があるらしい。語源は天保の大飢饉。そこから転じて彼女の育った土地では「バカじゃないの?」という方言になったという。調べなきゃよかった。

モサク @mosaku_kansui
「散歩に行こう」誘われて秋空の下へ出かけた。いつも横目で見ている公園を二人で歩く。「桜紅葉って言うんだってさ」花見を過ぎれば存在さえ忘れていたその木は、いま茜色の葉を揺らしている。半年前、僕は満開の花を喜ぶ君をカメラにこっそり保存した。あの時はごめん。今日は心にバックアップする。

葉山みとと @mitotomapo
博物館にて。標本は哀れだと宣う輩に、髑髏は怒り心頭だ。
「死んでもなお立派に飾られる誉れを理解できぬとは!」
けれども土に還れなければ再び生まれることもできない。
「馬鹿な!」髑髏氏の反論は「土塊も標本も所詮は地の球の一部ではないか!」
空っぽ頭にしては弁が立つ。質量保存の法則とは。

今村スイ @tsuduru_0716
我が家でゆっくり食事の準備をできるのは、週末の夜だけだ。今日は餃子を作ろうと、皮と餡をどっさり準備して二人の娘と食卓を囲む。でき上がる餃子の形は三人三様だ。焼き上がったら、熱々のまま食べる分だけを残して残りは冷凍庫に保存する。忙しい平日でも、手作りのものを食べさせてやりたいから。

東方 健太郎 @thethomas3
アリアの線は直線ではない。曲線であろうか。テグスを引いたような、心許ない一筋の命である。もういつ終わるとも知れない。小さな命であり、今日にでも、明日にでも、消えてしまいそうな命である。そのとき、遥かな彼方から、竪琴の音が聴こえた。倭の国の音階を奏でている。その命を保てる気がした。

藤和 @towa49666
伊香保温泉に来た。階段に沿って色々なお店があって、細い路地が沢山ある。紅葉を見ながら温泉なんて気持ちいいだろうな。今日の宿は決まっていない。これから部屋を取れる宿はあるだろうか。小さなリュックサックだけを背負って階段を上って行く。日が暮れてくると、階段沿いに明かりが灯っていった。

石川葉 @tecona
彗星の保育所はオールトの雲にあります。まだ名前のついていない彗星たちが、雲の中で駆け回って遊んでいます。彗星の子が走るたびに体に氷がまとわりつきます。その氷を使い、太陽のそばでどれだけ大きく尾を曳けるのか競い合うのです。雲を飛び出す子を見つけ、あなたも名付け親になってみませんか。

黒野綯路 @High_Delight
「このモンスターは保護すべきです」
 こういう莫迦が最近多い。モンスターを狩って経験値を稼いで、強くなって魔王を倒す。じゃなきゃ人類は終わる。なのに。
「人もモンスターも等しく価値ある命です」
 と宣う。だから遠慮なく首を刎ねてやった。あの嘘つきめ、スライム一匹分にもならかったぜ。

四藤良介 @zTQNFLMWQLRnf35
小学校の卒業アルバム、将来の夢に母保さんと間違えて書いた子を好きになった。それから8年、片想いをして二十歳から三十歳まで恋人でいた。彼女は保母さんにはならなかったけどかけがえのない女性になった。四十歳を過ぎオレは独りでいる。自分が書いた夢はなんだっただろうか。うまく思い出せない。

ヤギチュール @knoino15937
薄い画面に表示された404の文字に、きゅっと息が詰まる。古のネット文化の保管庫が、またひとつ失われてしまった。機能しなくなったブックマークを削除し、ゲーミングチェアに体を沈めて、今夜も一人僕は俯いている。ひどく寒い。二十年前に浴びたディスプレイの光は、もっと暖かかったはずなのに。

きり。 @kotonohanooto_
本当にいいんですね、と何度も訊かれた。それでも答えは同じだった。ぼくに気を遣わなくていいんだよ、と夫は言ったけれど、わたしがこの人と一緒にいたい気持ちは変わらず、ついに今日が来た。難病を治す望みをつなぐため、冷凍保存されて長い眠りにつく夫とともに、わたしも眠る。決して、離れない。

荒金史見 @af_viz0319
この世界は、二人の女神の右手と左手によって支えられている。女神たちは微笑みを交わし合い、互いの瞳にその姿を映し合っていた。世界が始まってから、長い年月が経ったある日。右手の女神が、左手の女神を引き寄せた。「世界と引き換えに、貴女が欲しい」絶妙な均衡を保ってきた世界が、今、崩れる。

久保田毒虫 @dokumu44
日の当たるテーブルで。君の隣になれたらなあ。日の当たるテーブルで。君とコーヒーをブラックで。日の当たるテーブルで。それとも酸っぱいレモネード? 日の当たるテーブルで。青い空と草原の下で。君と僕のメリーゴーラウンド。青と緑を保ったままのメリーゴーラウンド。君の気持ちを知るまで廻る。

pokazo @pokapoka_pokazo
名前も知らない人に恋をする。あなたがいるのに、これではいけない。僕はこの気持ちを冷凍保存することにする。しかしすぐに冷凍庫は一杯になってしまう。入りきらない分は、消す他にない。渾身の力を込め、砕く。二度と、元には戻らない。大小様々な凝固物たちの、破片はすべて僕の胸に突き刺さった。

太陽や月など @as1mind1soul
彼は入社以来、IT営業に汗してきたが一向にプレゼンが上達しない。大抵の顧客は提案の開始直後に大欠伸。受注はゼロの行進。営業が不向きなのかと自信を失いかけた頃、遂に運命の人が現れた。彼の語りに一目惚れして、しかも高給保証で転職を口説くのだ。彼さえいれば我が社の睡眠アプリは爆売れだと。

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