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十一月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part3

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

今月の文字は「保」。

11月30日までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください)

受賞作の速報はnoteやTwitterでお伝えするほか、星々マガジンをフォローいただくと更新のお知らせが通知されます。

応募作(11月13日〜19日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

11月19日

茉弥(サイトからの投稿)
カーテンの隙間から零れ落ちる光で目が覚める。川辺を歩き、その先の保育園を覘く。様々な色の声が聞こえる。赤、黄、緑。色を感じ、また歩く。大人になれば色深くなる。生きた分だけ周りの色が混ざるから。自分の色を分けながら、沢山の色が混ざりながら成長する。あなたはどんな色になれましたか?

せらひかり @hswelt
保温ポットの中から、ぽちゃんと水音がする。湯は生ぬるいから、蓋を開けると湯気と熱が逃げてしまう。出して、外に出して、と小さな声が言うけれど、まだ早い。沸かし直した湯を、急いで流し込む。あったかい、と、ため息が聞こえて、中の龍が微睡んだ。これでしばらく大丈夫。暴れぬよう寝ておいで。

碧乃そら @hane_ao22
私が保湿クリームを掌に出したら、パジャマを着た子どもが逃げ出した。背後から抱きしめて顔に塗る。観念して差し出されたもみじのような掌は、毎日のアルコール消毒で少し荒れていた。幼稚園でのマスク、消毒、ソーシャルディスタンス。それらが日常に組み込まれる前の世界を、この子は知らない。

東方 健太郎 @thethomas3
ぎりぎりのところ、なのかもしれない。かの国の思考もあろう、吾の国の思考もあろう。とはいえ、踏みにじることを、許可してしまったら、そこには何が待っていようか。わたしの考えは、あなたには理解できないかもしれない。あなたの考えを、わたしが理解できないように。それでも、均衡を保つことで。

石森みさお @330_ishimori
家の軒下で保護した仔猫は、何かにつけてとろくさい子だった。ご飯を食べるのも、遊ぶのも、とろとろと眠そうに目を細めてのんびりのんびり、何をしても日向ぼっこのようにのどかだった。十五年と少し、彼はそんな風にとろとろ生きて、もう、後はうんととろくさくていいよ、と家族の誰もが思っている。

石森みさお @330_ishimori
宝箱の小石を磨くように思い出を整理する。くすんだ石に思いがけず手が止まり、原型を保てず風化した石は秋風にそっととかした。輝きを増した石は、もう目にするのが辛い。取りだし、息を吹きかけ、指でなぞり、またしまう。すっきりしたはずなのに何故か重たくなった宝箱に、新しい小石を住まわせる。

カプセルコーヒー @cp_coffee_W
雨の路地裏に小さく震える毛玉が1匹。思わず着ていたパーカーで保護して帰った。柔らかなタオルでくるみ温かくしてやると、それは安心したように寝息を立てた。夜中、ふと目を覚ますとそれはいなくなっていた。あの生き物が何だったのか、今もわからない。ただ、あれから全く悪夢を見なくなった。

モサク @mosaku_kansui
同窓会の通知が届いた。懐かしい顔と淡い気持ちが胸をよぎる。「ダイエットしなきゃ」冷たい視線を浴びながらも、間食を絶ちせっせと歩いた。3ヶ月後、私に笑顔を向けるのは毛髪を手放し巨大化した誰かだ。スカートのホックと一緒に、保った理性が飛び去った。私は猛然とビュッフェテーブルに向かう。

成陽高校文芸部 @seiyoliterature
好奇心でコールドスリープしにきた。

待ち時間に他の体験者の様子を見る。まるでコレクションの如く丁寧に保管してある。寝てる、より本当に死んでるみたいだ。

「準備ができたのでどうぞ」
カプセル内は案外快適だな。

「それではおやすみなさい…永遠に」
頭上からガスが噴き出し、僕は眠った。

白猫 @neconeco70321
白い光が目を射る。男の手が、私を掴んだ。宙に浮く。硬い寝台の上におろされ、冷たいツルンとした手で押さえ込まれた。イヤっ。動かせない私の手、私の脚。薬品臭が鼻孔を刺す。怖い。「保定完了」。鋭い痛みが走る。「猫ちゃんのワクチン終わりました」。ようやく私は温かい手の持ち主に戻される。

MEGANE @MEGANE80418606
三か月前、引きこもりの私が怪我をした星を保護するなんて、と不安だった。けれど、今夜、星は夜空に帰っていく。朝の光を浴びるため、毎日近所を歩いたことも、空に浮かぶ体力をつけるため、公園で共に運動をしたことも、夜、ホットココアに金平糖を浮かべて一緒に飲んだことも、全部全部忘れないよ。

11月18日

藍沢空 @sky_indigoblau
今日はこの施設の最後の日。人口が減り、子供たちもいなくなったので当然のことだ。保管棚にあった忘れ物も、もう取りに来る人はいないとゴミ袋に突っ込んでいたら、ひらりと一枚、躍り出るものが。それは遠い昔の入学式の写真。大切だったはずの思い出も、当事者がいなくなればただのガラクタになる。

たーくん。 @ta_kun0717
神に人生をやり直すならどこからがいいと聞かれ、保育園からと答えた。
目の前が真っ暗になり、気がつくと子供達が遊んでいる。
「皆と遊ばないの?」
俺より背の低い女性が話しかけてきた。
「一緒に遊ぼうよ!」
子供達は俺のズボンを引っ張る。
身体も大人のまま、人生のやり直しが始まった。

 @tatami_tatami_m
「保」という字を金属で象ったものの「口」のところに人差し指を入れてくるくると回していたのだったが、それが指からすっぽ抜けて飛んでいってしまうという数秒の映像が何度も何度も繰り返しディスプレイに映し出され、それを見ている者たちも真似して同じように「保」をくるくる指で回しているのだ。

 @tatami_tatami_m
私にとって結婚は人生の保険である。何かあったとき、やはり誰か傍にいてほしい。そんなふうに思ったのだ。しかし、私にはその相手がいない。というわけで私は毎夜、裸に薄手のコート1枚という格好で外に出て、誰かがそれを剥ぎ取ってくれるのを待っている。剥ぎ取ったその人と私は熱烈なキスをする。

冨原睦菜 @kachirinfactory
えっ!あの林檎を持ってったの?保管庫に入れてあるからって美味しんじゃないのよ!子どもには刺激が強いから隠しておいたのに白雪ったら!貴方が甘やかすから知識もなくなんでも食べようとするのよ!私が返してもらいに行って小人にまた継母いじめって怒られるの嫌だわぁ。もう変装するしかないわね。

ヒトリデカノン(サイトからの投稿)
「想像してみて下さい」自分のことも誰のこともわからなくなって排泄物まみれの中死んでいくのだろうか。確かに人間の尊厳は自分自身で保つことはできない。周りの人が扱ってくれるもの。誰にもやさしくされなかったらどうしよう。不安に耐えきれず、私は出された紙に判を押した。親切の押し売り保険。

ヒトリデカノン(サイトからの投稿)
目的地へと歩いている途中、遥か彼方前方に勧誘の人がいるのがなんとなくわかった。目を合わせないように、かといって露骨に避けるのではなくあくまで私はあなたの存在には気付いていませんよという頭の角度を保ちつつ、いよいよ近づくと軽く息を止め目立つ色のジャンパーを着た人の前を通り過ぎた。

11月17日

オトノホマレ(サイトからの投稿)
保温ジャーを開けるとスパイシーな湯気が立ち上がる。昨日の休日いっぱいを使って煮込んだとろとろカレーだ。じゃがいもは舌で潰せるほど柔らかい。奮発して牛肉も入れた。少し冷めてしまった白米に温かいカレーの魔法をかけたら幸せのできあがり。昨日の自分から、今日仕事を頑張る自分へのご褒美だ。

チカ @_akihc
化粧水、美容液、保湿クリームにたまのパック。時々、何のためにやっているのだろうと思う。マスクと眼鏡に隠れて、肌の殆どは人目に触れない。最近は在宅勤務で部屋から出ない日だってある。唯一素顔を見せていたあの人とは、ひと月前に縁が切れた。減りの遅いファンデは、替え時を訴えている。

トカク アキラ @sayu_tokaku
がらがらと鳴る引き戸の音で目を覚ます。私とした事が、秋暮れの保健室は寒いだろうと置かれた石油ストーブの熱でうたた寝をしてしまったらしい。誰もいないのをいいことに、我ながら職務怠慢だ。せんせぇー秋は眠たいよーなんて言って勝手にベッドを使おうとする生徒を嗜めながら、よだれを隠した。

朔巳 了 @satOru_saKumi
そうですねえ、こうして仲良しこよしで関係が続くのはいいことです。でもね、みなさん時が経つにつれ付き合い方が雑になっていきがちですね。親しき仲にもなんとやらってやつですよ。そんなことも分からないんじゃあ、人も離れて当然です。“保”たれた関係から離れた人は、きっとあなたに呆れてますよ。

 @5000004xxx
生来いい加減で面倒事起こしては「一先ず保留」と片目を瞑る。ウィンクに適した遺伝子はお前にないと、幾度も注意したがお構い無しな上、不思議と解決するから鼻につく。ヤツ曰く〝流れに身を任せるが吉〟らしい。

黒い縁取りの中。
変わらず片目を瞑るヤツへ「これも保留だろ?」しか言えなくて。

柊鳩子 @yorunohituzi
「あなたの言葉には保温効果がある」
「保温効果?」
私が訝しげにそう言うと、彼女は微笑んで頷いた。
「あなたの言葉は私の心に留まって、私の心を温め続けてくれる」
「え?そんなたいそうなこと言ってないと思うけど?」
私がそう言うと「言ってる本人はそれくらいでいい」と彼女は笑った。

りんか なゆ @rinkanayu
ボロボロになり、醜くなってしまった。こんな顔は誰にも見せられない。そんな私の元に、誰かがやってきた。
どうしたんだい、そう尋ねる相手の手に触れると、世界が変わった。
傷も汚れもあっさり消え、元の艶やかな私の肌が戻ってきた。運命の出会いのようだった。そう、新たな保湿剤との。

DaysXMachina @DaysXMachina
最後の馬車が出発するのを見届けると、老保安官はとうとうひとりぼっちになった。あゝ、もうふん縛る奴がいなくなっちまった。ほうっと息を吐くなり銃口を銜えて-ずどん! それがどうしてあんな処に吊る下がってるのかさっぱりわからねえが、まあひとごろしはきっと裁かれずにゃあおくまいからな。

青き銀椀(サイトからの投稿)
船頭さんがゆっくりと櫂を止めて、
川の流れるままに暫くは任せていた。

乗客の私は、
川の両側に崖の切り立つのを見上げて、
よき眺めを楽しんだ。

保津川下りの子供の頃の記憶はその程度である。
その時同乗していた家族のことは記憶に無い。

皆、旅人の気分であっただろうと振り返る。

 @5000004xxx
隣に人が寝ていると浮かぶ光景があります。
河辺の岩の上で手を繋ぎ、青醒め、全身ぐっしょり濡れそぼった仰向けの二人。互いの爪が食い込む程握り合う手を保持するよう、鉄線でぐるぐる巻きなのが羨ましくて。
眠りながら隣の人を強く握るものだから、酷く叱られるのです。古い映画かもしれません。

11月16日

 @5000004xxx
野良手首を保護した。 前腕半ばで途切れて細く、仔手首かと思いきや鋭く立派な鉤爪だ。野良生活で痩せ細った成手首かもしれない。しっかり折り曲げた手首が前腕の途切れを握り、丸まっている。警戒が解けない。 ふと、最期に握ってやれなかったあのコの手を思い出す。 代わりにする気は、ないけれど。

りふぇーる @riru008723
茜ちゃんのママは50代の【美魔女】だ。きっと保湿成分たっぷりの美容液やクリームやパック、お高いデパコスを使い、高級エステ通いをしているに違いない。本人は「何もしていない」と言ってるけど。確かに、暴飲暴食、睡眠不足、ストレスをためるなど体に悪いことは【何もしていない】みたいだけど。

成陽高校文芸部 @seiyoliterature
20歳で余命宣告されたが奇跡的に回復し、平均寿命を優に超えて長生きした。

もう間も無いが、気がかりがある。20代の頃から常に私のそばに居た、黒装束で笑顔の鎌男。死神じゃないなら何者だったんだ…?

意識が落ちゆく中病室の外へ目をやると、ヨボヨボだが笑顔を保ち続けるあいつが私を見ていた。

 @5000004xxx
言葉を発す為開き掛けた唇は、直後硬く引き結ばれた。粘性の増した唾液がニチッと音を立て口腔内に白い軌跡を描く。

……菌者になった。

漸く漏れ出た声は冒頭掠れ聞こえない。が、続く言葉で察しはつく。
〝保〟菌者だ。
私の口がOの字に開く。
寸前まで愛しかった恋人を、罪人の如く糾弾しようと。

りふぇーる @riru008723
コンタクトレンズのケースに保存液を満たして碧いカラコンを外す。僕はハロウィンの仮装で、銀髪碧眼の執事のコスプレをした。興味津々で近づいてきた君が「――その瞳に映る世界は、透明度の高い湖の水面のように揺らめいてるの?」と、魑魅魍魎よりも摩訶不思議な質問を投げかけてきて、僕は戸惑った。

カプセルコーヒー @cp_coffee_W
ホテルのバスタブに浮かぶ白い雲をそっと抱き寄せ、束の間の純白ドレスを纏う。スラリと腕を伸ばして、泡が這う感触を楽しむ。消えゆく様はまるで今のように儚く、ふんわりバニラの残り香が薄暗い浴室を飾った。ぬるく保たれた湯は夢見心地に私を抱く。さぁ出ないと。部屋であなたが待ってる。

たーくん。 @ta_kun0717
授業中に体調が悪くなり、保健室のベッドで休むことになった。
先生は前屈みになって、僕の額に手を当てる。少し冷たくて気持ちいい。 「熱は…ないみたいね」
優しい香りが鼻をくすぐり、ちらりと見える胸元にドキドキする。
「顔が赤いけど大丈夫?」
大人の魅力で体温が上がってしまった。

カプセルコーヒー @cp_coffee_W
教室での私は無だった。空気を読み流れに乗り、必死に保護色を纏う。もはや私にも私の色が見えなかった。
卒業して気づいた。そこが小さな村でしかなかったと。世界はより多彩なのだと。保護色なんて勿体無い。これからは、好きな色を自由に選べばいい。 ふと見上げた空は、あの頃より明るい気がした。

安齋拓翔(サイトからの投稿)
保たれた世界で私たちは生きている。元は保たれていない世界で私たちは生きていた。人によって保つものは異なる。何か物を保ったり、保てなかったり。しかし、この世界には一つだけ保たなければならないものがある。それは、人を愛することである。

柊鳩子 @yorunohituzi
思い出は少し雑なくらいの保管方法がいい。お気に入りのお菓子の空き缶に、手紙や写真をがさっと入れたり、引っ越しの片付けの時に段ボールにあれこれ雑多に詰め込んだり。
ただの捨てられなかった物みたいに見えたそれらの物は、弱ってる時に開けると、きっとやたらやさしく私を迎えてくれるのだ。

草野理恵子 @riekopi158
切り口が過熱した果物のような写真展だった。皮膚は硬く外形を保っているのに中は肉が熟れ溢れ出ていた。君は寒気がしたのか両腕を擦っていた。「それでも息をふきかえして普通に歩いたりもするんだよ」僕は君の腕をつかんだ。君の腕の中がぐちゃぐちゃだった。それでもよかった。それでよかったのに。

草野理恵子 @riekopi158
私は頭巾をかぶり、新入生ですかと問われ頷いた。嘴を見せないよう頭巾を深く被った。マスクをちゃんとしてくださいと言われ、いい時代になったと思った。急にお腹が痛くなり屈みこんだ。大丈夫ですと言ったら、たいていの大丈夫は大丈夫じゃないからと保健室に連れて行かれた。明日も来れると思った。

草野理恵子 @riekopi158
僕は出口を探していた。人のいる場所から遥か遠くに来た。灰色の空気の中手さぐりで進んだ。急に丸眼鏡の君に会った。君の腕は刺青でいっぱいだった。「この辺りの地図だよ。死んだら皮を剝いで持って歩いてね」一緒に出口を探し続け刺青を入れ合った。僕たちは人の死体を探し皮を剝ぎ大切に保存した。

草野理恵子 @riekopi158
歩いているといつまでも歩くことになった。変化ないね。保守的だね。歩いていると靴が足指になったけど悲しくもなかった。というか存在自体が足かも?そんな絵があった。あれさ側に落ちてるの紙かな?お金みたいな気がするんだ。でも足だけだから拾えないの。「拾えるよ」彼女は器用に足指を使った。

草野理恵子 @riekopi158
雨の日は燃えるゴミ(記憶)の日が保留になる。ゴミが溜まると母が嘆くが僕は雨の日が嬉しい。昨日から今日までのことを思い出す。燃やしたいものだって本当は残しておきたい。燃やしたくないものはもっと燃やしたくない。ねぇお母さん、燃やしたくないものもあるの?大人になると無くなるよ。今日は雨。

はぼちゆり @habochiyuri0202
野生化するロボットが増えた。長くこの世にいるとロボットも自我が芽生え、人間に仕えるのが耐えられなくなる。特に被害はないが目障りなので狩る事が認可されており、今では世界大会が開かれる程だ。狩られた奴らは保護され脳のチップを焼き直し、再び人間に仕える。それらは不思議と野生化が早い。

相原梨彩 @aihara_risa_
「あなたはキセキの子だから」1人でぼうっと歩いていた所を保護してくれたおばさんは私を家に閉じ込める。たまに家から逃げ出して誰かに助けを求めてみても誰も助けてくれなかった。おばさんが私の元へとやってきて言う。「あなたは鬼籍の子なんだから」私の声に気が付いてくれるのはおばさんだけだ。

ヒトリデカノン(サイトからの投稿)
彼女はあれもこれも取っておきたがった。少しでも思い出が入っている物は絶対に捨てようとしなかった。写真一枚がアルバム数十冊になるのに時間はかからなかった。彼女の部屋に思い出が一杯つまっていった。ある日アルバムから彼女がでてきたように見えた。思い出も彼女を保存しているのかもしれない。

ヒトリデカノン(サイトからの投稿)
便利だと聞いて保存袋を一つ買ってみた。冷凍しておきたいものはなんでも入れていいらしい。冷凍することで鮮度が保たれ、必要な時は解凍すればいいということだ。できるだけ大きな冷凍庫も買った。大切な思い出をいくつも保存袋に入れた。本当は一つだったけど袋が小さいから仕方ない。私は忘れない。

ヒトリデカノン(サイトからの投稿)
このままでは私は正常を保てなくなる。子供のように大きな声でなきじゃくりたい。大粒の涙が目からこぼれ落ち、小刻みに嗚咽して泣き疲れて眠ってしまいたい。それが叶わないわけではない。そうしたからって何も変わらないかもしれないことのほうが怖い。正解はないし間違えてはいけない世界一人きり。

11月15日

青き銀椀(サイトからの投稿)
「苦しみを保つの。」

彼女は飴玉を口の中で転がしつつ、そう言った。

「自ら望んでいるのかも。
どうしようもない時、その状況から離れるのも怖い。
でも、わずかな希望も見つめているのかも知れない。」

私は口の中の飴玉を忙しく転がした。
その味は、彼女のとはまるで違う気がされた。

いえろー @86001yellow
常に君の隣の席を確保している。必修科目の時はもちろん、選択科目も偶然を装い同じのを履修した。「ノート見して」「また?」「頼む」「仕方ないなぁ」いつも寝ている君には私が必要だ。何枚かのルーズリーフが君と私を繋げてくれる。「持つべきは真面目な同級生だな」友達とさえ言ってくれなくても。

英令目野ピイ @lmnopdesu
部長が部下に檄を飛ばす。「さあさあ、今日も張り切って成果を出していこう! 昨日の自分より今日の自分! 上書き保存、上書き保存!」部下の一人が挙手。「仕事を上書き保存していくのも大切ですが、今日だけは名前をつけて保存させてください」「え?」「今、病院から連絡が。無事に第一子が産まれたと」

四藤良介 @zTQNFLMWQLRnf35
生きるのに何か保証があるかと言えば何もない。朝から傘を刺すかどうか迷うくらいの冷たい雨が降っていて灰色の世界を踵重心でズンズン進む。重たい重たい空気のせいで感覚は体からズルズルとこぼれ落ちていく。空っぽになったよ。鳥がそう教えてくれた。飛ぼうよ。そう言って何処かへ行ってしまった。

柊鳩子 @yorunohituzi
保健室の天井は穴が空いてたっけ?
音楽室の天井みたいに小さな黒い丸。
白い家の天井を見上げながらそんなことを思った。
中学生の時、教室にいるより保健室にいる時間の方が長かった。そして保健室の天井ばかり見上げていた。
なのに、思い出す保健室の天井はなぜかぼんやりと歪んでいる。

たつきち @TatsukichiNo3
「不穏が必要?」
「どうしてそんなものが必要なんだ?」
「今、あなたがおっしゃったじゃないですか?」
「保温だ。保温。どうして拾ってきた仔猫に不穏が必要なんだ?むしろ取り除かなくてはならないものじゃないか」
「不穏も不安も不要ですね。湯たんぽ用意してきます」
「あぁ、よろしくな」

Kazki(サイトからの投稿)
「君の卵焼きは最高だな」いつもと変わらない、朝の会話。「でしょ?」おどけた私の顔。この後、あなたは卵焼きが入った胃のまま、部下の女を抱くというのに。「今日も接待かぁ」肩をすくめてあなたが玄関を出る。そして、私は数分後にくる別の男のために卵焼きを作る。辛うじて保たれる私たちの関係。

MEGANE @MEGANE80418606
ある日、セールスマンがやって来た。
「失夢保険にご加入されませんか? お客様は現在の夢に7年9ヶ月うちこまれています。万が一、その夢に破れた時のことはお考えで?  今でしたら失夢保険に加入ができます。夢を失ってからでは、加入審査が厳しくなります」
気づけばパンフレットを手にしていた。

今村スイ @tsuduru_0716
昔よく電話をする取引先があった。担当者に取り次いでもらう時、自然と保留音を聴く機会も多くなる。曲名はわからずじまいだったが、異国情緒溢れる旋律を耳は覚えてしまったものらしい。今も街角でピアノを見つけると、私はその曲を奏でてみる。異国からの旅人が、ふと立ち止まってくれる日を夢見て。

常世田美穂 @tellmelinus2
クリックして保存。遠い昔のような感覚。タップするほうが遥かに軽快だけれど、カチカチッていう音も捨てがたいな。わたしあのころ何歳だっけ。今、何歳になるんだっけ。追い続けた夢は継続中。段々ちいさくなっていくような気がするよ。それはぎゅうぎゅうに詰め込んでいるだけだと思いたいな。

きり。 @kotonohanooto_
公園のベンチに座り、マグボトルに口をつけて保温された紅茶を飲み、あたりを見やる。紅葉もそろそろおしまいかもしれない。やがて、燃えるような夕焼けが訪れ、激しい風が吹いて木々を揺さぶり、葉を散らした。
このまま、ずっとここで、永遠にこの景色を見ていたい。そうしてわたしも、紅く染まる。

きり。 @kotonohanooto_
夕暮れ、外から、遊び足りないこどもたちの元気な声が響いている。わたしは、ふだん開けない引き出しから、大切に保管していた青いオルゴールを取り出し、ゆっくりとねじを回す。しばらくすると、波の音が聴こえてきた。こどもたち、早く帰りなさい。もうすぐ世界が終わるよ。波にまぎれてつぶやいた。

きり。 @kotonohanooto_
今日、会社を辞めた。小学校、中学、高校、大学、そして就職と、周囲から言われるがまま、ジョギングのように規則正しいペースを保って、走ってきた。ある日、倒れた。走って、走って、休まず来たことに、そのときやっと気づいた。
とりあえず、休憩くらいは必要だ。わたしは目覚ましをかけず眠った。

11月14日

水原月 @mizootikyuubi
急いで捕まえた自動運転タクシーに、もう2時間誘拐されている。
「あなたを保護します」
何を尋ねても、無人の運転席からは同じ答えしか返ってこない。開けた窓からは早朝の山の匂い。汚れた足裏が痛む。
「あなたを保護します」
透明な運転手が無意味に繰り返した言葉に、私は何も言えなくなった。

械冬弱虫 @Wimpy_keter
ここから出るために、保釈金をずっと払ってきた。だが、お上が首を縦に振らない。絶え間ない無給労働に、猫かぶりの仲間たち。上に取り入るために必死になっている様に反吐が出る。どうせ俺等の前に居る閻魔サマは蜘蛛の糸なんてくれはしない。きっとこの地獄に囚われたまま死んでゆくんだ。

彩湖あにぃ @ayako_annie
喜怒哀楽。倉庫には、ヒト、という生物の感情が保管されていた。怒りはよく檻を突き破って逃げ出すので大変だ。悲しみが地面付近で動かない時は、喜びをふりかけてふわんと浮き上がらせる。
これらを一つの体に同居させていたなんて。彼らが住んでいた地球は、さぞ賑やかで、孤独な星だったのだろう。

鈴木林 @rinhayashi_tw
狂うことが前提のコンパスは錆び付いていた。船べりから覗くと、暗闇だけがある。鶏肉の缶詰だけでやり過ごすうち、自分でもわかるほど口が臭くなった。故郷の果物を思い浮かべてから、それを差し出す手に吐き気を催す。行き先の飯はうまいのかと聞くと、保証はできない、と顔の見えない船員が言った。

英令目野ピイ @lmnopdesu
不安症の私はいくつもの保険に入っている。「家が火事に…」保険屋は自信満々。「火災保険入ってます!」「良かったぁ」後日。「保険料を払うお金が足りなくて…」「保険料未納保険に入ってます!」「良かったぁ」ついさっき。「私、死んじゃいまして…」「もちろん死亡保険加入済です!」「良かったぁ!」

兎野しっぽ @sippo_usagino
彼女を自宅に招いた。自然とそういう雰囲気になり唇を重ねたが、彼女は照れたようにすぐに離れてしまう。
どうした?まさかキスで赤ちゃんができるとか信じてる?
「キスで赤ちゃんができるはずないでしょ!」
だよな。保健体育で習ったし。
「赤ちゃんはコウノドリが運んでくるのよ」
おい、マジか。

NO2 @SOu2a9
朝起きたら、冷たくなっていた。冷たいのは、怖かった。温め直したらいいかしら。電子レンジでチンをした。幾許か、温まった。温かいままがよかった。炊飯器に詰め込んだ。保温ボタンを押そうとして、誰かに止められた。 「あなたのお子さんは、もう」
……私が温めたかったのって、何だったのかしら。

椿ツバサ @DarkLivi
「なぜ、魔王たる私の延命を人間がする」
「当たり前です!」
彼女は懸命に止血をしながら、剣で斬られた傷跡、焼かれた顔に手当てを施す。自分勝手な行動ばかりをする人間どもの中にもこんな奴がいたか、見直したものだ。
「だって、あなたの奥様がかけた、生命保険の会社員なんですから!」

高羽志雨 @hirotan165
扉が横に引かれ、いつものごとく、彼が保健室に入ってくる。私は大げさにため息をついた。
「あのさ。あんたって元気だし、クラスでも上手くやってるよね。毎朝、保健室登校することないよね」
バッグを肩にかけた彼は、私から視線を外す。
「あるよ。お前、保健委員じゃん」

石川葉 @tecona
マーガレット、リリィ、リリィ、ローズは四姉妹。双子のリリィとリリィは公園に来ています。保存樹の楓の大きな落ち葉を見つけて、仮面にして劇を始めます。「あたしはおおかみ。リリをたべるためにやってきた」「あたしはぁ、おおかみ。リリィーをたべちゃうよ」妹の仮面はすぐに破かれてしまいます。

冨原睦菜 @kachirinfactory
幼い頃の宝箱は、自分限定優しい記憶の保管箱。そう考えれば、それぞれのガラクタは自分にとって幸せのチップであるはず!それなのに…押入れの奥から出てきた私の宝箱は、優しさ探しが難しいものばかり。1点の答案用紙・「ねいちゃんのあほ」と書かれた弟からの手紙・蜘蛛のゴムおもちゃ…う〜む…。

四藤良介 @zTQNFLMWQLRnf35
向かいのホームにいるのは彼かもしれない。殆ど間違えるはずないのにそう思いたかった。私の知らない女の人と小さな女の子と手を繋いでいた。彼と目が合った気がした。核心に到達した生温く絡む視線を遮断するようにお互いのホームに黄色い電車が交差する。もう保てなかった。次の電車だ。そう呟いた。

メイファマオ @molmol299
もうこれで苦しまなくて済む。
どこかホッとした気分で、不倫相手のお葬式に参列した。
私達の関係は誰も知らない筈だから、同僚としての義理を果たす形で。
だが帰り際に奥様に呼び止められ、瓶詰めの保存食を渡された。
『お裾分けしたいと主人が』
薄い唇が弧を描く。
瓶の中には白い欠片が点々と。

11月13日

東方 健太郎 @thethomas3
核はよくないよ。彼は言った。でも、それしかないんだよ、わたしたちには。彼女は彼を諭そうとする。彼は頑なにそれを拒み続ける。核で世界はよくならない、それは確かなことだよ。彼女は平静を保とうと努めている。例えると、まるで世界はこの掌の上にあるように感じる。彼女は彼と掌の核を比較した。

安齋拓翔(サイトからの投稿)
髪の毛が全て抜け落ちてしまいそうなほどの雨の中、僕は一匹の猫が道端に捨てられているのを見た。このままでは冷たい雨水に流されて死んでしまうのではと思い、猫を保護することにした。一人暮らしの小さなアパートに猫がやって来た。僕は可愛がる。そして気づかされた。猫に保護されていたことを。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
秋晴れの空の下、保育園児たちの手を引きながら近くの公園へ。黄色やピンクの帽子に紅く色づいたもみじがちらちらと降り注ぐ。小さなもみじのような手で葉を拾い先生!と見せにくる顔はまだあどけない。いつかこの葉より手が大きくなり旅立つ日が来ても、一緒に見た景色を覚えていてくれるだろうか。

 @Z9hmdBIPGCSspEx
保育器の中で、もそもそと手足を動かすきみは、この世のものとは思えないくらい光り輝いていた。針穴みたいな鼻の穴やか細い手足には、命を繋ぐ管が何本も差し込まれていて、痛々しいのに美しかった。きみは小さな泣き声で、生きる!と僕の目の前で宣言した。僕も誓う。生涯きみを全力で愛することを。

白猫 @neconeco70321
車両は混んでいた。乗降口近くに酔っ払いがいた。老人が乗ってきた。途端、酔っ払いが老人に暴言を吐いた。居合わせた客は皆、その二人から目をそらす。俺も、だ。頭の中に「保身」の二文字が浮かぶ。まもなく電車は駅に停止し、老人は降りた。安堵の空気が車内に流れる。苦い言い訳を俺はのみこんだ。

常世田美穂 @tellmelinus2
うまく保てないよこの鼓動。悶えた先のイニシアチブ。彼が彼じゃなかったならよかった。あたたかさもぬるさも、冷たさも、痛みも全部が鋭い。氷の上を進むみたいに千鳥足だ。ウケるね。彼が皮肉げに笑うのがみえる。そうだよ。笑ってくれていい。こっちだって笑ってんだよ。あんたなんかいらない。

 @tatami_tatami_m
「亻」と「呆」がくっついて「保」、いま言えるのはそれだけだ。
つまりそんなパスワードだった。無数の部首が画面に表示されその中から任意のいくつかを選択して漢字をつくる、そういうパスワードだった。この場合答えは「保」だったのだ。私は「保」を指先で押し途端に画面が白くなって爆発した。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
私は蒐集家。愛する物品は日に日に増え、寝室は物置みたく内圧が高まっている。複雑に積み上がった美しい森は崩落寸前で、怖いのは地震だ。頭部保護のためフルフェイスヘルメットを被って毎晩眠りに就く。少々息苦しいが、これがなかなか良い夢を見させてくれる。目醒めて脱ぐと頭の軽さが実感できる。

時雨霜月 @seitayozra
100……何個目かの星を数えていたら、現実へ戻って来いと鐘が僕の手を引く。手を引かれ出てしまえば、星は天井の模様になって現実逃避から罪悪感へと変化する。そして、窓は僕にとってのテレビだ。テレビに映る、あの景色が見られるはずだった。
保健室のテレビから見える世界に、今日も僕はいない。

藤和工場 @factouwa
死の前に立つ、命を保つ困難よ。 波はまにまに終わりを歌い、海鳥の声は喝采、潮は鼻先を懐かしさで満たす。 はじまりは終わりへの旅路。道程は不定。この世の静止は動揺と同義。自分もそのひとかけらにすぎない。 そう思う時、宇宙は内へと無限で、命は外へと広がっていく。 そう、在れ。

旅人 。 @ryoi44
ぼくはリーブス。保安官のバッジに二丁拳銃でレッド川の方へ走る。悪者の居所を訊ねると薄ら笑う白い指が僕を指した。引き鉄が軽くなる。ぼくはリーブスだ。白い警官とは違う。お腹に温もりとドジエの笑い声、引き鉄から指を剥がす。目覚めた先におねしょを笑うママ。少し軽くなった引き鉄を声にした。

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

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