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【馬と人の関係】逃げるか!守るか!

馬はとても臆病な生き物で、周囲の音や風、見慣れないものなどにとても敏感です。
周囲の環境に「急激な変化」が起こったとき、普通は驚いて、まず「逃げ」ようとします。十中八九、逃げます。躊躇なく。
それが「本能」ですから。

今日は、逃げずに守ったルーカスのお話です。

もう3年ほど前のこと。
あるお母様がルーカスに乗馬して、馬上でのホースハーモニーをしていました。その方はちょっと前に大病を煩い、回復途中の時期でした。
いつも地上でやるように、馬上で優しさの呼吸、信頼の呼吸でルーカスに向き合っていました。
通常、乗馬をするときは、下の写真のように馬場を真ん中で仕切って、タロウさんがルーカスにちょっかいを出さないように、ルーカスが人を乗せることに専念できるようにしていますが、

乗馬の時だけ、馬場を仕切って、二頭を離します。

その日、一人で暇なタロウさんが、いつものように柵の外に生えている草を食べているうちに、タロウさんの300Kgの体重を受けて、柵の横板が「バキッ」とすごい音を立てて割れてしまいました。

ルーカスは、その「バキッ!」という音に驚いて、瞬間的に白目をむいて、反射的に立ち上がろうとしました。
でも、背中にそのお母様を乗せているという事実が、ルーカスを立ち上がって「逃げたい」という「本能」と、「この人を絶対に落としてはいけない」という「理性」で、挟み撃ちしてしまいました。

恐怖に駆られて、口から白い泡?を吹いて、ブヒブヒ言いながら、白目をむいて立ち上がろうとしては、また地面に前肢をおろすこと数回。
そのうち、背中に乗せているお母様がバランスを崩し、落馬しそうになったとき、なんとルーカスは、人が赤ちゃんをおんぶして、背負いしょい直すのと同じ動作をして、そのお母様を落とさないように、前後左右にバランスを取り直しているではありませんか!

急激な恐怖に襲われ、「本能的に逃げたい自分」と、「この人を落としてはならない自分」

私はこの光景を見ていて、心臓が止まるくらい驚くとともに、涙が出そうになりました。
ルーカスとそのお母様との間に、信頼関係がなければ、そして、そのお母様がルーカスにとって、大切なかけがえのない存在、すなわち命レベルで繋がっている存在でなければ、ルーカスは躊躇することなく、人を落として逃げたでしょう。

でも、ルーカスは知っていたのです。
いつも自分に対して、静かに、穏やかに、温かく接してくれるその女性は、片方の胸を切除していて、姿勢バランスが偏っていることを。
そして、予後の今、体のすべての生理機能が今なお、回復途中だということや、ルーカスやタロウさんとふれ合う時間がそのお母様の回復を促進していることを。

この光景は、一瞬の出来事でした。
バキッ!と音がしてから私がすぐに駆けつけて、呼吸で向き合い、ルーカスが完全に落ち着きを取り戻すまで、1分も経っていません。

そのお母様が下から支えられて、下馬してすぐにルーカスにかけた言葉。
「ルーカスありがとう。恐かったでしょう。でも私を最後まで守ってくれてありがとう。本当にありがとうね。」

後ろ脚で立ち上がろうとする馬の背中で、前後左右に揺さぶられて、落馬の恐怖を感じたであろうことは容易に想像できます。
でも、「恐い思い」をしたはずのそのお母様が、馬を下りてルーカスにかけた第一声が、ルーカスへの心からの感謝の言葉。

首を優しく撫でられて、涙ながらに声をかけられたルーカスは、この瞬間、完全に安堵した様子で、頭を深く下げて、ブヒーと深く息を吐き、そのお母様の下腹(丹田)に鼻をつけて、深く息を吸い、また、フゥーっと静かに息を吐いて、お母様の顔やら顎やら、ところ構わずに上下の唇をパクパクさせながらスキンシップを取っています。

暴れる馬の馬上で、必死に力で制御して、結果的に落馬しない人は、確かに乗馬が上手な人ですし、運動神経も卓越しています。そのレベルまで行くのは本当に努力と研鑽の賜です。

逆に暴れる馬の背中で、その馬が感じている恐怖を共感して受け入れ、馬の反応に邪魔にならないように馬を安心させる人もいます。超一流といわれるライダーによく見られます。馬との日頃からの信頼関係が明確に顕在化する瞬間です。

このルーカスとお母様の場合は、恐怖にかられた馬が、馬上の人を守ろうとして、理性が本能を上回ることがある場合で、乗馬の技術とは全く別世界のお話しです。

ホースハーモニーは、このお母様のような方や、これまでもタロウさんやルーカスとふれ合った多くの方々の優しさに支えられて、相互の絆が強くなっていきます。
タロウさんとルーカス。そして優しい人々に、心から感謝の気持ちでいっぱいです。

おしまい。
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毎日暑いね。いつもありがとう。タロウさん、ルーカス。




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