春の日

春だから?

桜がぽつぽつと咲き始めた。
一昨日まで5分咲きくらいだったのに、ほぼ満開に近い。
上を見上げながら歩いてると、誰かとぶつかりそうになってヒヤッとすることもある。
だけど、歩きスマホとは違い、”情緒に溢れた危なっかさ”を咎める人はほとんどいない。

「人にぶつからないようにねー」

もし聞こえてきたとしても、パステルカラーの似合いそうな、柔らかな声色だけだろう。
街の空気は、立ったまま眠れそうなくらい、のんびりとしている。
それが心地よくて、心地よくて。


だけど、そんなに悠長にもしていられない。
年度が変わると、学年が上がる。
学年が上がることは、”変化”を意味する。
今年度から4回生に上がり、研究室に配属される。
環境はガラッと変わるから、ちょっと不慣れな生活に、不安定になる時期もあるだろうな。
これまでも、そんな時期を経験してきたから分かる。

「この講義が増えた」
「あれもしなきゃ、これもしなきゃ」

変っていくことは大切だけど、適応するためのエンジンがあったまるまでは、どうにも上手くいかない。

春は、ほのぼのしてるけど、鬱々な日々でもある。
キレイなはずの桜も、華やかさの裏にある鬱屈した思いをかくしてるように見える日もある。
春は、不安定だ。



平気な顔でかなり無理してたこと
叫びたいのに懸命に微笑んでたこと
朝の光にさらされていく

春は、まさにこんな感じ。

歌詞はだいたい2番が好き。
1番で伝えきれなかった想いが詰め込まれてる気がするから。
本当に心をつかむ言葉は、あたりめのように何日も何か月も咀嚼されていく。
だんだん捉え方が変わっていくこともあるし、骨董品のようにその姿をじーと見つめてるだけのこともある。


ただ、今は歌詞の意味に近い。
(まあ、"かなり無理"してるわけじゃないし、"叫びたい"わけでもないけど。)

大学が始まる。
「弁当箱が壊れたから、新しいの買わなきゃ」
忘れないうちに100円ショップへ。

実家に送る大学の書類。
「切手、買わなきゃ」
大急ぎでコンビニへ。

新しい人たちとの出会い。
「第一印象、ちょっと真面目すぎたかな?」
変に気を張りすぎたなぁ…

…なんか色々考えすぎて疲れた。
ちょっと休憩しよう。
カフェに入り、アイスティーを注文した。
氷がグラスの中で、カランと音を立てる。
今日の小春日和に、ぴったり似合う。
それまでの気苦労がちょっと晴れるくらいだ。
不思議な満足さをたずさえて、ゆるゆると席に着いた。 

ひとまず、せわしない時間が過ぎたことに、ほっと一息。
パソコンを取り出して、note執筆にとりかかる。
カフェの雰囲気と春のうららかさが相まって、時の流れなんて感じない。
さっきまであんな自分だったのがウソみたい。

「…あ」

ふと、こぼれる。
さっき買った切手はポケットの中から取り出す。
カバンの中をガサゴソ。
書類の入った封筒も取り出した。
……ポスト、出すの忘れてた。

カラン、とアイスティーの中の氷が音を立てる。
「目先の封筒」と「手の中の安らぎ」が、一瞬葛藤した。
……まあ、いっか。
ポストは逃げない。
”変化”という春一番が襲ってきても、たもたれるべき平穏もある。
きっと、今がそうなんだ。
ちょっとご都合主義すぎるかな?
腕を組んで考えてみよう。

…ふと、アイスティーに目がいく。
グラスについた小粒の水滴が、ひっそりとほのぼのさを放っていた。

「…まあ、春だしな」

水滴を指で拭い、切手をうるおした。
ペタッと封筒に貼ると、いつもより華やかに見える。

後で出せばいいさ。
きっとそう。
封筒は、カバンの奥が居心地が良さそうだ。

どこにもおちつかないnote。
春だから許された。


春の歌/スピッツ)

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