ハロー、内定。グッバイ、毛髪。
【要約】エンジニアになるために就職活動をしていたら、円形脱毛症になっていた。
【詳しい話】
これは、容姿端麗才色兼備文武両道風光明媚なハイパーエリート文系つよつよ大学生が、恵比寿にある超優良株価爆発ホワイトIT企業から、エンジニア内定を獲得するまでのハートフルストーリーである。
あるところに一人の学生がいた。性別は男。歳は20。彼女はいない。その男には目標があった。IT企業に入社することである。それも、エンジニアとして。しかしそれは困難な道であった。なぜなら男は生粋の文系学生であったからだ。残念なことに、男にはコンピュータが分からぬ。男は、高校時代に数Ⅲに挫折し文転を選択した過去がある。文章を愛し、感性を育てて暮らしてきた。けれども労働市場の動向には人一倍敏感であった。そんな男がIT企業、それもエンジニアだと?へそで茶がわくどころかコーヒーがわくわい(?)専門知識を持たず、運動部にも所属せず、インターン経験もない文系大学生など、しょせん新卒採用市場の敗北者じゃけい。大学三年生の今、卒業後の進路を考えるたび、男の頭の中ではそんな感じの言葉が木霊していた。
男は悩んだ。悩みに悩み続けた。食は細り、以前までは食べられた食後の羊羹も、3本から1本に減らした。そうして悩み続け、ある日、一つの答えに行きついた。
取り敢えずやってみるか。と。
取り敢えずやってみる。そう決めたものの、何から手を付けたらよいのか。プログラミング?ポートフォリオ作成?資格取得?男はまた悩み始めた。ふと男の脳内で、先の言葉が思い返された。『専門知識を持たず、運動部にも所属せず、インターン経験もない文系大学生など...』インターン経験もない文系大学生...インターン...いやしかしインターンとは就労体験...何の専門知識も持たない自分が応募したところで...そこでもう一人の声が響いた。
最近よく見るゆーてゅーばー、文系学部からエンジニアになった人で、男にとっては現人神のような存在。その名もタケル。彼が【正直顔!!あと体!文系でも気にせずエンジニアに応募しよう!】で語っていた言葉が、男の脳内に響く。
「新卒なら、ポテンシャルで採ってくれるところはいくらでもあります。というか殆どポテンシャルしか見てません。あと学歴と顔。それがインターンとなれば、意欲のある文系の方ならまず受け入れてくれるでしょう。私なら受け入れます。顔と体が良ければ...」
その後響く下品な笑い声...これだ!男はパソコンに飛びついた。タケルがおススメしていた就職サイトに行き、インターンと検索。すると、大量の求人が画面に表示された。はやる気持ちを抑えながら、男は画面をスクロールしていく。注視しているのは勿論、応募要項だ。これも違う...これもだめ...くそ、汗でマウスが滑る。ふと、一つの求人に目が留まった。【文系歓迎】燦然と輝くその四文字に、男は勝利のガッツポーズを掲げた。早速履歴書を書き、応募フォームにアップロード。一連の作業を終えると、男はロッキングチェアに深く沈み、満足げなため息を吐いた。一歩だ。ようやく一歩を踏み出せた。男の胸には、エンジニア就職の一歩を踏み出せた達成感と、タケルへの感謝で溢れていた。それもこれも、文系にも道はあると示してくれたタケルのおかげだ。男はあらためてタケルへの感謝の言葉を口にした。センキューソーマッチ、タケル。
インターン先の企業は渋谷にあった。キラキラしたビルに入り、受付を済ませる。「インターンで参りました。...です」受付の人は一瞬戸惑った顔をしたが、その後一瞬で営業スマイルを貼り付け、オフィスへと案内してくれた。恐らくあふれるオーラから他社のエンジニアが打ち合わせに来たとでも思ったのだろう。そんなことを考えながら、男は受付の綺麗なお姉さんに付いていく。オフィスはとんでもなくオシャレだった。木目調の内装に、広々としたソファ。企業のオフィスと言うよりカフェみたいだ。男の期待は高まっていった。イメージするおシャンティなIT企業のど真ん中だったからだ。会場に到着すると、既に人がいる。どうやら参加者はあまり多くないらしい。これまたカフェにあるようなおシャンティなテーブルに、8名ほどが腰掛けている。参加者の中で男は一番最後に来たようだ。開いている席のうち、資料の置いてある席に座ると、担当と思わしき若い女性が来た。流石はベンチャー。みんな若い人ばっかりだ。余計なことばかり考える男は、その後女性が放った言葉にしばし呆然とさせられることになる。
「それでは、○△□会社、インターン選考会を開始します」
...ほわっつ?あいどんとあんだすたんどわっちゅーみーん。選考会?選考会と言ったのかこの女性は?
「選考はグループワークによって行います。これから議題を提示するので、それについて皆さんで議論してください」
女性の言葉に、粛々と頷きを返す参加者たち。男もそれに倣い頷く。しかしその胸の内はハリケーンのように荒れ狂っていた。え?え?え?選考会?選考ってあの選考だよな。血盟騎士団のアスナのことじゃないよな。ふるい落とす方の選考だよな。え?インターンって選考あるの?うそでしょ?書類通ったら即インターンじゃないの?
書類選考があるんだからそりゃ対面式の選考もあるだろうよ。なぜこの男は書類選考さえあればその先はないなどと考えたのだろうか。これが就活偏差値最底辺の人間か。やはり敗北者だな。そんな言葉が脳内で木霊する。
「...とはいえ、いきなり議論を始めるのもやりずらいですよね。まずは自己紹介からしましょうか」
担当の女性が参加者の緊張をほぐすように朗らかに言う。男は何とか荒れ狂う心を落ち着け、女性の言葉に耳を傾けた。
「それでは、お一人ずつ、そうですね...お名前と、出身大学...あとは、Unityの経験や作ったものについて、教えてください」
...ほわっつ?あいどんとあんだすたんどわっちゅーみーん。再度無理解の底に叩き落された男。そんな男をよそに、女性に指名された一人目が立ち上がり、自己紹介を始めた。
「えーと、わだすの名前は生天目と申します。大学は広島大学で、Unityの経験は高校からなので...5年くらいです。まだまだ浅いのですが、精一杯頑張ります。よろすくお願いします」
結構可愛めの長身方言女子が挨拶をするが、男の頭には入ってこない。ほかの参加者が拍手を送るのにつられ、工場に並ぶ機械たち、あるいは調教されたイルカショーのようにただ拍手をする。
「素晴らしいですね!では次、○○さん」
「はい、東京工科大学の喜馬利と申します。よく『お前だけは通さない』なんて言われ...」
続く二人目のウィットに富んだ爆笑ジョークにも引きつった笑みを浮かべることしかできない。男にはUnityの経験などなかった。精々がpythonでHelloWorldを表示できるくらいである。男は文系でもいけるなどと言った人間を憎んだ。騙しやがってと怒りに駆られた。全部あいつのせいだ。ふざけたことを言いやがって、あの腐れゆーてゅーばーめ。ファッキュー、タケル。全ては自身の調査不足だというのに、全ての怒りをYouTuberにぶつける男。救いようのないくずである。応募する前に募集要項と会社情報ぐらい読んだらどうなのだろうか。そうこうするうちに順番が迫る。焦る心。急速に痛み始める下腹部。下がり続ける日経平均株価。叩かれる月亭方正。緊張が頂点に達し、男の意識は朦朧とし始める。
気づくと、男は電車に揺られていた。インターンは?選考会はどうなった?焦る男だが、もはやどうにもならない。自宅の最寄り駅に着くまで、失意と共にうなだれていた。
翌日。男に一通のメールが届いた。差出人は...インターンに応募した企業。男は飛び起きた。
『...つきましては、ぜひ...さんにはわが社のインターンに参加していただきたく...』
合格だ。まさかの合格だ。こんな男を合格させるとは、企業は何を考えているのだろうか。暗い部屋でHelloWorldをコマンドプロンプトに表示させて「...It's show time」とか言ってる男だぞ?
歓喜の叫びをあげる男。隣人から壁ドンされ黙ったが、興奮は冷めない。【インターンシップ事前研修】と題された添付ファイルを開き、早速そこに書かれた研修内容を、失意の中微かな希望に従いインストールしておいたUnityで実行していく。その顔は希望とやる気に満ちていた。しかし男は知らない。その後の自身に降りかかる試練の数々を...。
続く。
いや続きません。無理だ。もう無理。これ以上は無理。そんなすらすら小説風の文章なんて出てこないわ。なんでこんな形式で書き始めたんだ馬鹿じゃねえの?というわけでここからは淡々と冒頭の【要約】の詳細を書いていきます。
まずインターン。選考もろもろについては上記の通りなのですが、記憶がないとして端折った実際のグループディスカッションについては、なんかうまくいきました。その時の議題は、『あなたは納期ぎりぎりのプロジェクトにアサインされているエンジニアです。納期、品質、モチベーションの三つに優先順位を付け、理由も答えなさい』みたいなやつで、それについてグループ全体の結論を出すというものでした。議論が始まった瞬間、一人の人が「俺は○○、△△、□□の順番だとおもうなぁ」と言い出し、そこから一人ずつ自分の意見を言っていく流れになったのですが、かといって最初の人が意見をまとめて結論を出してくれる雰囲気でもなく、「このままだと多数決とかできまりそうだなあ」とかぼんやり思い、「まてよ...多数決で優先順位とその理由を決める...?実際の現場じゃなくて議論なのに...?あれれ~おかしいぞ~?」みたいな感じで、色々突っ込んだことを言ったんですね。今思うと単に「決まってなかった議長役をやった」ってだけなんですが、それが良かったみたいで。終わった後、文系でIT業界に就職したいからアドバイスクレメンスと選考担当の女性に言ったところ、「独学で勉強して、企業受けまくればいけるよ!」みたいなことを言われ、いやんなこと知っとんねん。わいが聞きたいのはもっと楽にエンジニアになれる方法なんや。例えばやけど開発経験を積みたいならどうすればええんや?と聞くと、「開発経験を積みたいなら、インターンもいいね。...実は今日のグルディスで、きみ良いなって思ったんだけど...インターンまでにUnity勉強できる?」と言われ、「おっふ、そういうことなら、、、もちできマッスル(輝く笑み)」みたいな感じでインターンが決まりました。その後Unityを勉強し、5日間のインターンに参加。内容は4人チームでゲーム作成。他3人がめっちゃできる人たちで、その人たちから投げられる機能を実装していくだけで、インターンは終了。最終日は打ち上げで、ピザやケンタッキーをみんなで食らったり、社員のエンジニアのひとに「どうやったら楽にエンジニアなれる?教えてクレメンス」と聞いたら、「個人でアプリ作れやカス」と言われ、流されやすく染まりやすい思春期の女子みたいな私は「はーん。おっけー」とPHPを勉強することを決めたり。その後めでたくその企業には『本選考のスケジュールを教えてもらえない』という悪質ないじめに遭い(インターン参加者用の特別説明会を「う~ん、めんど!パス!」とさぼった当然の報い)時期は大学3年(2019年)の10月になります。
この辺から、「僕はエンジニアになるんだぁ!ふんふんぁ!」と、本格的に選考を受けていきます。10月から11月で、そうですね...10社くらいは受けたでしょうか。そして驚くことに、全部の会社に落ちました。
苦労して志望動機をひねり出した会社に落ち続けると、人の心はおかしくなります。ええそうです。就活が人を狂わせると言われる所以です。アメリカの論文によると、就職面接に落ちることで受ける精神的ダメージは、CLANNAD全話を一気見した時の精神ダメージに等しいそうです。(明確なフェイク)8社くらい連続で落ちた私は、さながらCLANNAD全話連続放送を8回連続でマラソンしたようなもの。そんなもの常人に耐えられるはずはありません。順調に精神を病んでいった私は、ついにある決断をします。
「よし、就活やめよう」
そんなこんなで就活を一時中断した私は、その後の12~1月をテスト勉強に費やし、春休みを迎えます。今考えると8社くらいで音を上げるとかメンタル豆腐どころかゼラチンですが、人と会い、自分の内面についての話をした上で、その相手から「お祈り」をされるのは、まるで「あなたの人格には難があるのでわが社にはそんな人格破綻者はいらないっす。前世からやり直してね」と言われているようで、とてもとても傷つくのです。少なくともその時の私はとても傷ついていました。
そして時は経ち、3月。コロナウイルスが世界的に流行します。
この時私は「東京行けないやんけ。じゃ就活もできないでおま」などと考え、ひたすら実家でぐうたらしたり、特に意味もなく東北を一周したりしていました。この東北一周(正確には西回りの半周。青森にすらたどり着いてない)の時に出会った秋田県の場末にあるバー、『れれれ』を一人で切り盛りするママとのハートフルなストーリーは、いつか記事にしたいと思っています。
そんなこんなで4月、5月がすぎます。するとある日、大学の友人が友人同士のチャットでグループ通話をしております。なんぞ卑猥な話でもしているのかなと思い参加すると、どうやら就活の話をしているようで。はーん、みんなもコロナで苦労してるのねーとか思いながら聞いていると、友人のうちの一人がこう言いました。
「これで内定もらえたのは3人かー」
...ほわっつ?あいどんとあんだすたんどわっちゅーみーん。3人?何が?留年したのが?思わず聞き返しますが、返答は変わらず。そのグループは6人なので、半分がもう内定をもらっていることになります。加えて、まだもらえていない3人のうち、2人は公務員志望なのでそもそも内定をもらいようがない。当然私は公務員志望ではない。
はーん。ふーん。ほーん。
え、やばくね?
そんなこんなで就活を再開したわたくし。「オンラインで受けられるところもめっちゃあるから!」と教えてくれた友人の教えの通り、マイナビとリクナビで目に映るIT企業に片っ端から応募していきます。
5月と6月はオンライン説明会を受けることで終わります。が、ここでこう思います。「オンラインだと限界がある...」今思うと全くそんなことはないのですが、その時の私は就職が決まっていない焦りから、東京に行って就活をすべきだという考えに囚われます。
そして6月の後半、私は東京に行くことを決めました。まあ特に何もなくアパートに着き、就活をします。この時から、徐々に私の身体に異変が起き始めました。
まず、うまく眠れない。表現が難しいのですが、上手に寝れないのです。というか、眠りに落ちることが難しいのです。
次に、下腹部の不調。常に下痢です。何をどの時間に食べても下痢です。
そして、胃の上部の慢性的な痛み。漫画などで胃がきりきりする描写がありますが、あんな感じで、常時鈍い痛みがある感じ。
ただ、この時の私は結構のんきでした。わー、緊張状態が続くと本当に胃って痛くなるんだー、すげー、くらいのもんで、下痢や眠れないことも「そんな時期もあんだろこちとら生粋の江戸っ子でい(福島生まれ)」などですませる始末。ここで言っておきたいのですが、私は自分の痛みや不調に対して、決して鈍感ではありません。むしろ敏感なほうで、熱も大して高くないただの風邪でベッドから動けなくなったり、ちょっとした埃っぽさなんかも家族の中で一番敏感に察知します。ですから、「なんか異常あるなー。でも毎日面接受けてればしょうがないかー」と、異常が起きていることは認識しつつも、就活しているからしょうがないとその不調を放置しました。
そんなこんなで、7月がすぎ、8月。日に日に痛みが増していく胃をさすりながら、とある会社の面接を受けます。すると一次面接にも関わらず社長が出てくるではありませんか。この頃にはちゃんと就活生らしく自己分析なんかもやっていたので、一通りの受け答えを問題なく終えます。すると社長が言います。「本当にまだ内定もらってないの?いくつかもらえててもおかしくなさそうだけどね」
___天が割れ、大いなる存在が光の粒子を振りまきながら降りてきます。 「信徒よ、今あなたに救いがもたらされました」
彼は続けて言います。
「真の意味で救われるかどうかは、この後のあなたの振る舞い次第です」
もう一人の大いなる存在が言います。
「全力で媚びを売りなさい」
「ありがとうございます!」はきはきと答えた私は、内心こう思っていました。これは勝ったろ。と。
その後、『二次面接のお願い』というメールに速攻で返信し、3日後に二次面接を受け、次の週に内定をもらいました。電話で「お察しかと思いますが...おめでとうございます」と言われた時は歓喜のあまり手が震えました。
そんなわけで無事就活も終わり、東京にいる意味もなくなったため、再び帰省することに。その旨を母親に伝えると、「じゃあ車で迎えに行くわ」と。アパートまで来てくれた両親と弟を迎え、一息つき、じゃあそろそろ夕飯でも行くかとなったおり、ふと母親が「あらっ?」と高い声をあげました。
「あんた、これどうしたの!?」
どうやら母親は私の頭皮を見ているようです。え、なにが?と何のことか分からない私は、母が差し出したiphoneを見て絶句します。
禿げていました。それはもう、くっきりと。こんなにきれいに禿げるもんなんだ、と逆に関心するくらいに。
頭頂部の近く、少し右にそれたところが、500円大に禿げています。それまで嬉しい気持ちでいっぱいで、「ディズニー行くより楽しい!」とまでぶちあがっていた私の気分は、それはもう瞬時に落ち込みました。この落差を利用して発電できるんじゃないかってくらい落ち込みました。
その後実家に帰るも、どうも落ち着かない。リビングでだらだらしていても、つい頭皮に手をやってしまう。外にいて風が吹くと、急に心細い気持ちになる。
10月現在、髪の毛は少しずつ生えてきています。発毛を促すために亜鉛サプリとプロテインを摂りながら、苦労した就活の供養のためにこのnoteを書きました。21卒でまだ内定をもらえていない人、既にもらって暇を持て余している人、卒論に追われている人、裏社会で人知れず世界を破滅させる陰謀と戦っている人、世知辛い世の中が未曽有の事態によって塩辛かってくらい辛口になってますが、「禿げるよりはまし」と思って、一緒に頑張りましょう。
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