見出し画像

虹の色が一色で見えた時、人は自殺する

現代社会は様々な二元論的思考に囚われておりますが
「勝敗」というものもまさに、その筆頭ではないかと思われます。

地球というこの星に多種多様な在り方で根付く人々のことを、「勝ち組」「負け組」といった単純な二元で分断する論調が特に関心を集められるのも、この厄介な思考ゲームの人気度合いを示すひとつの証拠ではないでしょうか。

今の「競争社会」と言い表される状況下では特に、敗北とは最も人々に恐れられる概念と化しました。皆、とにかく負けたくないのです。「負け犬」に括られるくらいなら死んだ方がマシ。そこまでの深みに嵌っている人も実際かなり多いと見えます。

当然、私はそうした一般的価値観に容易には賛同し兼ねます。経歴ある"社会不適合者"としての誇りがそれを許さないからです。

それに、今の人間などは寿命が良くてもせいぜい100年程度で、将来は経年による心身の衰え、あらゆる能力・財産の消失、全てを没収された上での死と滅亡が確約されている。何重もの刃が光る回転ミキサーへ向かって流れる工場ラインの上で、自分が置かれた状況を把握できていないか、3歩歩いただけで忘れて、様々な夢を見ているだけの寂しいヒヨコというわけです。臆や兆もの齢を誇る惑星や銀河といった上位存在でひしめく宇宙の中、たかが地球上の一生物として生まれた時点で、既にもう挽回不可能な程のどん底確定の負け組人生なのです。手足が不自由で、アルコール依存症によって認知症が進行した超高齢のホームレス同士が、ただじっとしているだけでもお互いにゼエゼエと息を切らしているにも関わらず、「俺とお前ではどっちが総理大臣か」なんて、震える足で小突き合いをしているというのが、現代のあらゆる勝敗ゲームの虚しい本質だとも言えます。

思い切ったデフォルメで描写した為、中には気分を害されてしまった方もいらっしゃるかも知れません。ですが突き詰めたところ、「勝敗」とはこの程度の世界観を出ない、低次元の概念なのです。少しばかり言い過ぎたかも知れません。「低い解像度で、立方体を一面から眺めたものに過ぎない」くらいの言い方に訂正しておこうと思います。

このように、価値観とは、本来は多面体である世界をあくまでも一面から見たものに過ぎません。「虹の色を一色で表せ」といえば普通はとても無理難題ですが、特定の思想や主義に傾倒している場合、しかし強引にこれを為し遂げられてしまう。即ち「虹の色は赤だ!」「虹の色は黄だ!」と断言できてしまうわけです。ところが、本人たちの認知の深いところでは世界の多面性、複合性を実は確信しているが故に、その矛盾によってだんだんと自己崩壊が起きてくる。本人の表層意識としては自信満々で言い切ったつもりが、肉体に色々な病気が起きたり、精神を病んだりする。これはロボットに対して「プログラムじゃなくて、心と魂で感じなさい」と命令し続けている内に、何重にもエラー信号が出て、そのうち煙を上げて炎上、自爆しだす構造にもちょっとだけ似ています。

今度は「勝敗」といったこの単純な価値観を、もう少し解像度を上げて眺めてみましょう。名付けて、「勝敗ver.2 ~美しさの奪還~」です。

こちらのバージョンには、「敗北でさえも、ある種の美学である」と感じられる趣があります。

一つ私で例を出しますと、普段、お世話になっているDiscordという通話アプリに搭載されている「サーバー」という仕様を使って、ニート、ひきこもり、無職、メンタルなど共通のテーマで集まった人々の中で個人的に特に気になった人物の姿があれば、DM(ダイレクトメッセージ)という形で接触を図ることがあります。そうした際、まるで何事も無かったかのように無視されることも多々あるのですが、相手方はその後もサーバーに上がって通話をされたりしているので、私からのDMに気付いてはいる筈です。私のプロフィールに興味を持たれなかった、文章がムリだった、雰囲気が合わなそうだった、アイコンが怖かった、陰キャなのにnoteではめちゃくちゃ長文でイキってそうと思われたなど、何かしら原因があって無視されたことがわかります。いずれの理由であったにしても、「訴求力不足」「センス不足」「雰囲気が合わない」など、敗北に至る原因が多々あったことだけは確かなのです。

不足分については埋め合わせるだけの改善に励めば良いでしょうし、根っから雰囲気が合わないと思われていた場合は、本当に合わない関係性なのでしょう。他人と初対面する際、良い直感はせいぜい半々の的中率ですが、悪い直感は9方割当たると言います。なにせ人間は700万年も生き残ってきた種族なので、生死に直結する"ネガティブ"に対する嗅覚は物凄いのでしょう。つまり相手にとっては私が「ハズレ」だった可能性が極めて大きく、寧ろ下手に深入りせず、関係が始まらなかったことによって両者が救われたとも言えます。つまり、敗北に至るべくして敗北し、その場では敗北こそが最善であったから敗北した。そして、敗北することはとても悔しい。悔しく思った私は、その後自分の対人態度の見直しを図ったり、一層の自己研磨に励むことでしょう。このように、世界はいつでも合理的に、綺麗に進んでいるのです。まるで、太陽や月の衣装が施された極大の高級時計のように。そしていつしか私は己の敗北をこのように振り返ります。「あの時、敗北しておいて本当に良かった」と。全体的に「敗北」を「失敗」という言葉に置き換えても通る話だと思います。こうした数々の例え話をきっかけに、完全なる因果現象の高貴さ、その冷徹な美しさというものを改めて提示出来ていれば本望です。

さて、皆様とは私の失敗談をつまみに、「因果の高級時計」を一時愛でたところで、話は枕の「勝敗」にまで一気に舞い戻ります。この目の前で熱気を上げている「勝敗」という名の盤上から視点を上げて上げてゆくうちに、自身が躍起になるよりも「勝者」「敗者」といった構造的な面白さが次第に目に付いて参ります。勝者とは単に条件を揃えていたが故に、勝つべくして勝っている。敗者もまた、条件を揃えていたが故に負けるべくして負けている。それにしてもここは風が強い。物凄い勢いで時が流れてゆきますね。読者の方も吹き飛ばされないよう、どうかお気を付けください。おっと、ご覧ください。世の負け組たちが皆「敗者」のゼッケンを着せられて、街の地下街に隔離されたようです。あんなに強引な政治はなかなか見ません。しかし何やら、後方がやけに明るいですね。あれは何でしょう? 隕石? いや、よく見ると小窓が幾つも付いています。所謂UFOというヤツでしょうか。おや、「勝者」のゼッケンを着けた地表の民たちが、揃いも揃ってUFOらしきものを崇めるような姿勢になっています。そのうち数人が浮き初めました。凄い、これが所謂"キャトルミューティレーション"、いや"アブダクション"と呼ばれる現象でしょうか! 私もいよいよ興奮が隠せなくなって参りました。勝者だけがUFOに連れられて天高く上昇してゆきます。あれは一体何処へ向かって……。いや、ちょっと待ってください。まさか太陽? UFOの中から「勝者」の皆さんの悲鳴が聞こえてきますが、大丈夫でしょうか? おや、UFOが太陽を目掛けて人々を放ち始めました。人々が瞬く間に蒸発してゆきます。UFOの中に銀色のスーツを着た人間達も居るようです。感極まったのか、何やら珍妙なポーズを取っています。あれは宇宙人なのでしょうか!? そしてなんと、自ら太陽目掛けて飛び込みました! 大丈夫ですか? UFOごと太陽に突っ込むのも出始めましたね。どう見ても皆さん焼け死んでいるようなのですが、辺りには実際の熱とはまた異なる、強烈な信仰心とでも言うような熱気で立ち込めております。悲鳴とも嬌声とも取れない叫び声がUFOの内部では響き渡っております。これは歴史に残る光景です。いや、しかしもうほとんど生きているUFOは残っていませんね。勝者は偉大なる太陽に統合され、新たなステージへと勝ち進んでいったとでも言うのでしょうか。ちょっと待ってください、地球の皆さんが何か叫んでいるようです。ああ、なるほど! 地表の監視システムが障害を起こしたことによって、地下に隔離されていた「敗者」の皆さんがぞろぞろと溢れ出てきたわけですね。おお、「敗者の意地を見ろ」と言わんばかりのこの勇姿、実にお見事です。それで皆さん、先ほどから口々に何を叫んでおられるのでしょうか? ちょっとそこのあなた、ちょっとだけ、ちょっとだけ落ちついて、話を聞かせていただけませんか。はい、私はこういうものです。はい。なるほど、ああ、ありがとうございます。握手していただけるのですね。それで、さっきから叫んでいらっしゃる内容についてですが……。ああ! そうでしたか! なるほど、「負け組で良かった」と皆さん叫んでいらっしゃったのですね。いやあ、本当におめでとうございます。これだから「勝敗」というものはわかりませんね。世界は本当に多面的で、予測不可能なものなのでしょう。おっと、こちらも握手いただけるのですね。はい、ありがとうございます、はい。ああ、結構です。お気持ちだけいただいておきます。私は健康オタクなものでして。いやいや、こちらこそですよ。本当にありがとうございました。そういうわけで皆さん、現場からは以上です。ご視聴いただきあり……うわ、ちょっと待って、ビール掛けないで、服が濡れる、服が! あ、ちょっとそこのボク、何で子供のくせにビール飲

ザーッ……


このサポートという機能を使い、所謂"投げ銭"が行えるようです。「あり得ないお金の使い方をしてみたい!」という物好きな方にオススメです(笑)