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テクノロジーで不幸になる人間たち

「テクノロジーの進歩=世界が前に進む」
という考え方は完全に盲信であるとの指摘をこれまでに幾つかの文献で見掛けて来てはいたが、それを読んだ当時の私としては今一つしっくり来ていなかった。

だが、今になってようやく実感を伴い、ハッキリと理解できる。
テクノロジーの進歩がある一点を超えてからは
人類は寧ろ、丸ごと後退して行っていると。

「便利になる」とは言い換えれば、「行動が減る」ことである。
欲求→行動→達成
人生とは何事もこの循環を繰り返されるものだが、中間に位置する「行動」をなるべく削減させることが即ち、テクノロジーの恩恵たる利便化である。 しかし恐ろしいことに、人は実際に物理的な行動を起こしている最中にこそ脳が活性化し、精神の安定化が行われるという仕組みを持っている。

つまり、過剰なまでに「行動」を減らし続けた結果、大衆の頭は鈍り、精神は不安定になり、極めつけは幸福度まで低下することに繋がる。何故か便利な筈の先進国の幸福度が、途上国と比べて低い理由には、間違いなくこの要因が含まれていると思う。だとすれば、これはテクノロジーの過発展によって引き起こされた現代の悲劇としか言いようがない。

そうであれば、近年はしきりに持て囃される効率やコスパとは罠のようなもので、様々な「無駄」と思えるものこそが実は私たち人間の生きる充実感の発生源となっており、今こそそちらに注目しなければならない時だろう。

ただでさえスマホ登場の時点で、開発者は「自分の子供には触らせたくない」と漏らし、実際にスマホが起因となる脳機能の低下、障害、認知症が各分野からも指摘されている。恐らくPCで既に十分だったのだろう。

その上で現在内閣府が公に掲げているムーンショット目標の内の、自室の椅子に座りながらにして世界中どこでも歩き回れる「サイバネティック・アバター」システムなんて導入すれば、いよいよ人間の脳は完全に破壊されてしまうのではないか。

スマホの時点でもう現代人の読解力の低下、精神年齢の低下、ストレス耐性の低下、鬱傾向など嫌という程指摘されている現状、その先がいかに危ないかは考えずともわかるほどだ…。

繰り返しになるが、人が人として充実感を得て、精神的に安定し、本質的な脳機能を向上させながら生きていくには、今まで「無駄」とされてきたものこそが重要になる。

「あえて紙の本を読む」
「あえて紙とペンでメモを残す」
「スマホを使わずPCから作業をする」
「エレベーター、エスカレーターがあるのに階段の昇り降りをする」
「入浴に石鹸を使ってみる」
「細かな洗濯物は桶で洗ってみる」
「無洗米は買わずに研いで楽しむ」
「友人とは直接会う」etc…

といったように、利便性が暴走して人々を不幸に追いやっている現代であっても、私たちは思い出しさえすれば日常生活に「行動」を取り戻すことが出来る。

また、それらの行動とは私たちの筋力を常に健康に保ち、皮膚の触覚機能を保ち、空間認知能力を保ち、認知症を予防し、必要な脳内ホルモンを分泌させ、幸福感を与えてもくれる。それは世俗的な金や地位や承認の快楽には無い、本物の幸福とも言えるかも知れない。生きているだけで幸福感を生成できるのであれば、それこそ「最強の自給自足」「最強の自立」と呼べるのではなかろうか。

従って、行動の追加が消耗どころか更なる活力を生む場合だって考えられるわけだ。皆様にも経験はないだろうか。日常生活の中に、適度なランニングや読書、自主的な勉強の時間を設けることで、むしろ活気の総量が増加するという現象を。

一説によると、健康な状態の生物は「ただ生きているだけ」でも充分な幸福を感じられているとか。そう考えると、現代人が如何に病的な状態に陥っているかが嘆かれると同時に、そんな私たちも適度に「行動」を取り戻していくことが出来れば、生物本来の「幸福=デフォルト」の状態に回帰できる希望もある。

いつだったか、世界有数の大富豪の家の様子を撮影した映像を見たことがあるが、このご時世に黒電話、インク、羽ペン、薪の暖炉、等々…そしてテレビすら無いという、信じられない程古めかしい光景が広がっていたことが印象的だ。実際にそこで生活しているのかはわからないが、そのクラスの人間ともなると、人体の機能を熟知した上で、プライベートでは敢えて古風な生活を送っていたとしてもおかしくはないと思う。

酒、薬、金などと一緒で、我々はテクノロジーを利用して幸福になることがあっても、それらに飲み込まれて不幸になっては本末転倒だ。数々の生物的進化の先で文明の利器を制するに至った誇り高き霊長類としても、我々は常に芯には確固たる精神を以て、テクノロジーを制御していくべきだろう。そして、身に余る力(便利も)とは自身をも滅ぼす。くれぐれも自戒していきたいものだ。


このサポートという機能を使い、所謂"投げ銭"が行えるようです。「あり得ないお金の使い方をしてみたい!」という物好きな方にオススメです(笑)