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まぜるな危険、「GOD」と「LAND」。(映画「ゴッドランド/GODLAND」を観て)

デンマークの植民地下だったアイスランドが舞台の物語。

デンマーク人の若き宣教師・ルーカスが、「アイスランドの山村に教会を建てろ、厳しい寒さの冬が来る前に」というミッションを与えられる。しかし現地の人々と全く馴染めず苦しみながら旅を続けていたが、極度の疲労の末に、瀕死の状態に陥ってしまう。

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映画を鑑賞しながら、不思議な作品だなと感じました。

雑な言い方をすると、「まぜるな、危険!」というものをジャンジャンと攪拌して、「おまなく(お前が泣く)?」みたいな結論に持っていく感じ。ストーリーは好き嫌いが分かれそうな作品ですが、ユニークな演出はかなり実験的だったと思います。

あくまで僕の主観ですが、(ひとまずストーリーは傍に置いて)3つのポイントについて言語化してみます。

「ゴッドランド/GODLAND」
(監督:フリーヌル・パルマソン、2022年)


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まぜるな危険①:偶然と想像

本作を見ながら思い出したのは、「偶然と想像」という短編オムニバス作品です。

最新作「悪は存在しない」を手掛けた濱口竜介監督による2021年製作の映画で、「偶然」と「想像」をめぐる人々の“数奇な”人生が描かれています。

「ゴッドランド/GODLAND(以下「GODLAND」)」における「想像」とは、主人公・ルーカスが抱くアイスランド人に対する偏見です。文明が未熟で、植民地下で慎ましい生活を送っている“救うべき”人たち。出発前には、上司にあたる人物から、「村人は哀れで痛ましく、孤独な人間たちだ」と吹き込まれる始末です。

ですが実際のところ、ルーカスはずっと“救われて”ばかり。旅は過酷で疲労はピークに達し、しかも唯一信頼していた通訳を不慮の事故で亡くしてしまいます(その原因をつくったのもルーカスでした)。

瀕死状態に陥ったルーカスを、偶然にも救ったのがカールの一家でした。特に、カールの娘であるアンナは献身的な救護にあたり、ルーカスは何とか復活します。自分の馬を失ったり、なかなか村人の信頼を得られなかったりと良いことがないルーカスでしたが、カールやアンナのサポートによって、宣教師としての「ポジション」を保つことができました。

偶然と想像の調和によって、ルーカスにとって良き方向に進んでいくと思われたのですが……。物語はそう上手くはいかないものです。(結末はぜひ、映画館で!)

まぜるな危険②:冗長と緻密

本作の魅力のひとつは、アイスランドの雄大な大自然を堪能できることです。特に火山が噴火し、溶岩がどろっと流れるシーンは息を呑みました。

撮影においても、自然の雄大さと人間の卑小さを対比させるショットが何度も映されていました。これはまあセオリー通りなのですが、「おや?」と思ったのは表現の冗長さと緻密さのバランスでした。

表現において、「冗長性」とはあまり褒められたものではありません。ですがあえて観客に違和感を抱かせたり、強い印象を与えるために、冗長さを演出に組み込むことがあります。例えば、「君の名前で僕を呼んで」でティモシー・シャラメがエンドロールを侵食してまで涙を流すシーンは、冗長性が光った典型例として挙げられるでしょう。

「GODLAND」で面白かったのは、表現は冗長でありつつ、カメラのショットは緻密であるということです。ルーカスが瀕死の状態に陥り、ガイドたちから捨て置かれた場面の長回しは「なげえな!」と思ったのですが、徐々にカメラを接写させつつ、草1本まで丁寧に撮ったシーンに妙なリアリティを感じてしまいました。

大自然の中での撮影ですから、そりゃ、自然の豊かさはリアルでしょう。ですが撮影監督のマリア・フォン・ハウスヴォルフは、それだけで満足しませんでした。どこにでも生えているような草、それは普段だったら“よく見ない”何でもないものです。その草を緻密に映すことで、「こんな草っ原で、ルーカスは死のうとしているんだ」というリアリティを表現したのではないかと推察しました。

他にも、食事が並んだテーブルの上に虫が這っているなど、「そこで、そのショットは必要なの?」と思うようなシーンもありました。きっと何らかの意図があったのでしょうが、この映画は143分という長尺ゆえに、「商業的な結果を求めるなら、ここは迷わずカットでいいでしょう」なんて思ってしまいました。

冗長と緻密のバランスは好き嫌いが分かれると思いますが、本作を鑑賞する機会があればぜひ注目してみてください。

まぜるな危険③:「GOD」と「LAND」

「GODLAND」というタイトルは、直訳すれば「神の島」ということになります。宗教はなくとも、大自然という“神”の存在は否応なく感じるよね……という意図だと思いますが、僕はここに「GOD」と「LAND」の対立構造を見出しました。

先ほど出てきた、ルーカスを救ったカールですが、徐々にルーカスの存在を疎ましく感じるようになります。寵愛していた娘をルーカスに奪われてしまうのではないか、という危機感を抱くのです。

ですが、そもそもカールとは、「無知の知」を自覚していた人物でした。「おれは取るに足らない人間だと思っている」とルーカスに吐露したほどです。だからこそ、宗教のない村に教会を建て、人智を超えた“神”を寄る辺としようと考えたはずです。まさに、GODLAND構想といえるでしょう。

が、想像以上に「GOD」とは自らの生活を脅かす存在でした。神(またはルーカス)という変化をもたらすものを、最終的に受け入れることができなかった。「LAND」を“島”のままで保ちたかったという本心が、終盤で見えてきました。

もちろんその考えに至るまでには、ルーカスの不義理も多分にあったわけですが、「GOD」と「LAND」のふたつは、本来まぜるのに配慮が必要なものだったはず

解釈の仕方によっては、ラストシーンで「GOD」と「LAND」が調和したと捉えることもできるでしょう。どちらが正解というわけではなく、どちらもメッセージとして内包しているはずで。

そういった多様な解釈を可能にする映画を、これからもたくさん鑑賞できたら良いなと思いました。

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