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想像すればするほど、際限なく作業が増えていく仕事だけど。(NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」:校正者・大西寿男さんの回を観て)

2023年1月13日に放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」。フィーチャーされたのは、校正者・大西寿男さん。

昨年、この回が予告されていたときから放送を心待ちにしていたが、本当に素晴らしい内容だった。

いい仕事とは何か。その根本が揺るがされる思いがする。

*

一般的に校正とは、文章の誤りを正す仕事だと見做されている。

番組でも、誤字脱字のチェックや事実確認などに勤しむ大西さんの姿が放送されている。基本であり、疎かにしては決してならないことだ。

だが大西さんは、作家の書いた意図まで深く文章に潜り込んでいく。

この文章は必要ですか?言い過ぎではないですか?
この登場人物は、○○という台詞を言うでしょうか?

『推し、燃ゆ』で第164回芥川賞を受賞した作家・宇佐美りんさんは、大西さんの校正を以下のように評している。

文章の“あか”みたいな部分も、結構、洗い落としていくというか。大西さんの校正がなかったら恐ろしい。
(中略)
私、校正によって自分の文章が変わるっていうことは、今まであんまりなかったんですけど。
「あ、こうしていけばいいんだ」。なんか。参考になりましたね。
(中略)
ただこの原稿が直るということだけじゃなくて、私自身の書き方にもやっぱ影響してるので、すごい大きなものを受け取ったなという。

(NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀「縁の下の幸福論 〜校正者・大西寿男〜」」より引用、太字は私)

校正者に限らず、ひとりの作家に、ここまで言わせることができる人間はどれだけいるだろう。

教師や編集者、あるいは同業の作家ならまだしも。自身の文章を校正してくれた相手に対して述べる言葉としては、最大級の褒め言葉ではないだろうか。

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番組終盤では、単行本2冊分(34万字)の校正に臨む大西さんの姿が映されていた。校正の締め切り直前、「こども食堂」という設定に対して思いを巡らせる大西さん。自分や作家の考えと、社会通念上の概念にズレはないだろうか。あるいはズレを生んでしまうような書き方になっていないだろうか。

正直なところ、そこを気にしてしまうと、仕事は増えてしまう。

実際に大西さんは、締め切り直前にもう一度34万字を確かめ直す。彼の仕事には、きっと終わりはない。いや、終わりは締め切りなのだけど、締め切りを過ぎた後も編集者にメールするほどだった。

仕事に、終わりはない。
そして、完璧な仕事というものもない。

だけど、終わりに向けて、完璧を目指して、ひたすらペンを握る。

大西さんの仕事へのスタンスはどこまでも謙虚で、粘り強い。そんな姿に、僕はすっかり励まされてしまった。

いい仕事をしよう

──

見逃した方は、ぜひ「NHKプラス」や「NHKオンデマンド」でチェックしてもらえたら。大西さんのような仕事をしたいかどうか、その人自身の覚悟が問われるだろう。

ご自身で著書も出されているそう。こちらも読むのが楽しみだ。

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