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映画「茶飲友達」のパンフレット

周りでやたら評判の映画「茶飲友達」を観た。

語るべきことがたくさんある物語だけど、今日はあえて本作のパンフレットを中心に紹介したい。

「茶飲友達」は、高齢者専門の売春組織「茶飲友達(ティー・フレンド)」に関する話だ。売春は犯罪であり、肯定することはできないのだが、高齢社会の「孤独」や「孤立」と交差することによって、善悪の境目が刹那、朧げになる。主人公のマナ(演・岡本玲)は「正しいことだけが幸せじゃないでしょう」と言う。それはそうだよね、じゃあ何が正解なんだろう。「正解」なんてないんだけれど、映画を観た後に「じゃあどうすれば良かったんだろう」と思わざるをえない、社会問題に鋭く問いを投げ掛けるような映画である。

映画のパンフレットはこんな感じ。

映画「茶飲友達」パンフレット

マナを演じる岡本玲さんのぼやけたポートレート。松井綾音さん撮影によるものだ。

表紙で綴られている「family face」という言葉。

familyという言葉はたびたび出てくる。マナにとって実の家族、とりわけ母親との関係は壊滅状態。かつて風俗業に身を置いていたことを母親からはひどく咎められていたのだ。母親に反発するように、マナは高齢者専門の売春事業を始める。コールガールの女性たちや働くスタッフのことを、マナは「ファミリー」といって大切にしていた。

では、faceとはどんな意味なんだろう。確かに映画でも、マナはひとりの高齢女性に対して「(コールガールを始めてから)顔が変わったね」と声を掛けている。確かに自殺まで考えていた松子(演・磯西真喜)は、コールガールにやりがいを感じて、生き生きとした表情を見せるようになる。だからfaceもあながち無関係ではないのだが、パンフレット表紙のイメージと映画のそれが微妙な差異があって、ちょっとした違和感を抱いていた。

*

家に戻り、パンフレットを読んで合点がいった。

この物語は、「顔」がひとつの軸として機能しているのだ。外山文治監督はこのように述べている。

私は本件のキャスティングにおいて「いい面構え」であるかどうかを重視した。その基準は造形の美醜ではなく、ひたすらに面上から「におい(匂い・臭い)」が漂うかどうかであった。病院や高齢者施設に行くと、あるいは夜の街を歩くと独特なそれに包まれることがある。あれは命を震わせて生きる「におい」だ。そういうものを漂わせ表現できる俳優を求めた結果、集まった出演者の年齢は21歳から94歳までと幅広い。そこから現代ニッポンそのものが浮かび上がり、問題点や生きるためのヒントが見えてくることを期待している。

(映画「茶飲友達」パンフレットP9より)

パンフレットデザインを手掛けた、三宅宇太郎さんは「顔と家族についてのコンセプトブックに仕上げた」と書いている。

映画のパンフレットとは、通常、映画鑑賞後に、映画で描かれたものを追体験する機能を果たすものだ。

監督のインタビューやプロダクションノートから、映画の背景を見てとることができる。ただそれは、映画を鑑賞して得た視点を深掘りすることに他ならない。

「茶飲友達」の場合は、パンフレットを読んで、視点がもうひとつ増えたという感覚だ。家族 / ファミリーの話と共に、それを目に見えるカタチとして「顔」があるという。コロナ禍で顔は半分しか見えなくなったけれど、でも、ちゃんと誰にも顔がある。

しかし、僕らは日々顔を意識しているだろうか。顔から「におい」を感じているだろうか。

パンフレットには、役者34人の顔写真と共に「あなたにとって家族とは?」へのそれぞれの回答が記されている。それらを眺めていると、実に色々な家族についての考え方を知ることができる。

これは、いくらAIの性能が良くなったところで、彼らの「家族とは?」に勝る説得力を持つことはできないだろう。

顔。

確かに、役者全員の「顔」が良かった。

2023年が始まってしばらく経つけれど、ようやくスタートしたなあという気がする。顔。大事だよ、顔。

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