経済とは、共同体のあり方を考えること(佐藤雅彦、竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』を読んで)

「佐藤さん、エコノミクスって、ギリシャ語の"オイコノミクス[oikonomikόs]"から来ているんです。オイコノミクスとはどういう意味かといいますと、共同体のあり方、という意味なんです
(佐藤雅彦、竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』P3より引用、太字は私)

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経済とは何か?
経済を回すとは何か?

生命と経済のバランスを巡り、議論が止まない昨今。

こんなnoteを書いたけど、未だに求心力を持つ答えが得られていない。「経済」の正体をイマイチ掴みかねている状態だ。

経済とは、企業の事業活動や個人消費のことだけではない。税金、貨幣、アジア経済、世界経済、労働と失業、株……あらゆる要素が複雑に絡み、経済が構成されている。

シンプルにはいかない。あちらを立てればこちらが立たずで、考えれば考えるほど分からなくなってしまう。

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それらを紐解き、冒頭の「共同体のあり方」という視点を引き出したのは、「だんご三兄弟」などで知られる佐藤雅彦さんだ。対談相手は、経済学者の竹中平蔵さん。

畑の違う、二人のプロフェッショナルが示す「経済」は、僕がイメージする経済とはまるで違って感じられる。

経済学は、利己的な利益の追求を理論づけるだけの学問だと思っていた僕は、その言葉に少なからぬ感動さえ覚えてしまった。
我々が、個人としてだけではなく、みんなでどのように生きたらみんなで幸せになることができるのか。それを発端とする学問がオイコノミクス、つまり経済学の始まりだったのだ。
(佐藤雅彦、竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』P3より引用、太字は私)

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たとえば。

僕たちが当たり前のように払っている税金。経済を構成する重要な要素だが、竹中さんは「民主主義というのは税金の問題から始まっている」と話す。

実はね佐藤さん、民主主義というのは税金の問題から始まっているんですよ。今は財政とか国家予算というのがありますが、昔王様がいた時代には王様の内ポケットと国家財政なんて区分ないわけです。すると王様は何をするかというと、必ず無駄遣いするんです。
そこで、王様に税金を無駄遣いさせたり、勝手に上げさせないように、議会でチェックしようという動きが出てくる。それが民主主義の始まりなんです。だから一番最初の民主主義の原点は「租税民主主義」という言葉なんです。
(佐藤雅彦、竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』P75より引用、太字は私)

僕たちの税金の仕組みに関して、諸手を挙げて「この税制は素晴らしい!」という人は殆どいない。

「高いなあ」
「不公平じゃないか」
「もっと払うべき人がいるのではないか」

なんて不満が、表面化しないまでもくすぶっている。

それでも、どこかで最大公約数の着地点を見出し、運用されているのが現在の日本の税制度だ。

所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税、酒税、たばこ税、自動車重量税、住民税、事業税、固定資産税、地方消費税、自動車税……。

漠然と「不公平」や「不満」を感じてはいるものの、様々な種類があり過ぎて、これが適正なのかどうかイマイチ判断できない。(なので、家族や友人とカジュアルに議論もできない)

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よく言われていることだが、北欧諸国の税率はとても高い。

その代わり、公的な福祉サービス、医療制度、セーフティーネットが充実している。

当事者が納得しているのかどうかは分からない。しかし日本と同様、北欧で暮らす人々が時間をかけて、自分たちの「共同体のあり方」を決めたのだろう。それが「とても高い」税制度に反映されている。彼らの意思として。

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竹中さんは「経済は信用である」と言い切る。

見慣れない通貨はオモチャに見える……佐藤さん、これが何を意味するかというと、先ほど言いましたように、これも「信用」ということなんですね。もっと詳しく言うと、今、私は一万円札を持っていますけれど、なぜ一万円札を大事に持っているかというと、これは日本銀行券だからなんです。私は日本銀行を信用しているんです、今の時点では。もう一つの理由は、街に出れば街の人も日本銀行を信用してこの券を受け取ってくれるだろうと信じているからなんです。信じるという行為がなくなったらマネーってなくなっちゃうんです。
(佐藤雅彦、竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』P17より引用、太字は私)

最近はクラウドファンディングやオンラインサロンなど、個人の信頼・信用の価値が可視化され、直接換金されるようになっている。

ただ直接性や可視性が低かったものの、昔から、信頼や信用がベースとなって経済は動いていた。貨幣も、税金も、給与も、従業員の労働も、「きっと思った通り機能してくれるはず」という期待があるから成立している。

「別に一人くらいバックれてもバレやしないさ」と考える個人が、一定数を超えてしまうと、信頼・信用で成り立っていた経済は一気に崩壊する。典型的だったのがリーマンショックだったと言えよう。

サービスを提供すると、対価としてお金を受け取る。

そんなドライな関係が経済だと言い切る人もいるだろうけれど、その礎には、「なんとなく信用できるよね」という割り切った感情があるのだ。そのことに気付くと、経済がグッと自分事になる。

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単行本が発売された当時、佐藤雅彦さん、竹中平蔵さんは40代だった。どちらも既に実績をあげていたが、佐藤さんは「だんご三兄弟」がヒット、竹中さんは政府の要職に就くなど、それぞれが躍進を遂げる前夜の貴重な対談録である。

本というメディアの特徴は、文字のみの静的な表現であることだ。だが本書で交わされる二人の瑞々しい会話は、楽しげで、読み手に動的な感動が響いてくる。

20年経っても、二人の対談の内容は古びていない。

こんな本に、2020年代も出会えたら嬉しい。

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*おまけ*

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