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もう二度とリタイアしたくないと思った

「社会人歴=マラソン歴」ということで、走り始めて13年目に突入している。13年と言えば「小学校〜中学〜高校」の総計なわけで、自分のことながら長く続けていると感じる。(仕事は2回ほど転職を経験しているが)

さて、このエントリはランの話。

ハーフマラソンで絶息しそうになった経験を皮切りに、僕は、数多くの「辛い」レースを味わってきた。上手く走れたことなんて僅かしかない。距離、気候、体調面など様々な変数と共に、山あり谷ありの試練と向き合ってきた。それでも、僕は昨年までリタイアした経験がなかった。

だが、昨年6月に走った日光100kmウルトラマラソン。日光東照宮、いろは坂といった日光の名所を巡るレース。そこそこのアップダウンを経ながら、83kmの第5関門・今市運動公園まで辿り着いていた。しかしその直前、時間配分を見誤って関門直前にスピードを上げたのがいけなかった、第6関門に向かう「足」は残っておらず、今市運動公園を走り出して1kmもしないうちに歩道に蹲ってしまった。

残り17km、ゴールが頭をかすめる中でのリタイアは悔しかった。
他者が決めたわけではない。自分自身で「諦める」方向に線を引いてしまった。引かざるを得なかった。

惨めだった。
リタイアを余儀なくされた参加者たちが収容された汗くさいバスの中で、僕は言葉の通りに絶望し、少しだけ泣いた。

「ゴールしたかった」「もう二度とリタイアしたくない」
未だに夢に出るほど。ランの悔しさは、ランで晴らすしかない。



2019年5月25日、リベンジの機会が訪れた。
横須賀・三浦100km・63kmみちくさウルトラマラソンだ。(僕は63kmの部に参加した)

5月にも関わらず30度近くまで気温が上昇し、朝7時半の時点で汗がじんわりと滲むほど。練習不足は否めないが、このレースを8時間〜8時間半で走れるのであれば100kmも走れるかもしれない。現状の試金石のつもりで参加したレースだが、やはり楽にはゴールさせてくれなかった。

海沿いの絶景、デートスポットの城ヶ島公園、古き良き時代を思わせる長閑な田園風景など、走っていて楽しく、飽きさせない景色がずっと続く。ウルトラマラソン独特の時間の流れ方が、このレースにはピッタリ合致してとても幸せな気分を味わうことができる。

「走ることだけ考えて良い」ということ
僕はこの状態を、極めて幸せなことだと認識している。意識と意思が解放されている状態。仕事の雑事も、家族旅行のあれこれも、公共料金の支払いも、最近noteを更新できていないことも、走ること以外全てのことは考えなくて良い。

「このペースでもうちょっと続けてみよう」
「あの交通標識のところまでいってみよう」
「登り坂はしんどいけれど、前を歩いている彼まで追いつこう」
「あれ、この人と抜きつ抜かれつを繰り返しているなあ!」

みたいなことだ。
超シンプル。

だけどレースは常にしんどいもので、ポジティヴな感情だけ纏えるわけではない。特にこの日は気温が高かったため、疲れが「頭」に襲ってきてしまった。こんなことは初めてで、頭に疲れがあると正常な判断能力を失ってしまうことを理解した。感覚は麻痺し、身体が疲れていることさえギリギリまで知覚することができなかった


「タフなレースだった」

40km過ぎのエイドでは、日陰を求めて倒れ込む参加者が数名いた。「今日みたいなレースは無理することないですよ」と途中棄権を誘導するスタッフの声。「決してリタイアしたくない」と訴えるランナーの顔を、真正面から見ることはできない。

時折、何かを「吐いた」跡が見られた。
けれど僕は「吐けなかった」吐瀉物を想像してしまう。胃液さえも上手く捻出できない環境下でのレースは尋常ではなく、歩いているのか走っているのか定かでない僕も含めた全参加者を讃えたい気持ちが山々である。(Oops! 山だってよ!)

肝心のレースを、ざっと振り返ってみる。
20kmくらいまでは1km7分強のペースで順調に走ることができた。ただし30km関門を突破した辺りで、暑さがピークになり足が止まってしまう。35km過ぎに日陰を求めて腰を下ろした際、他ランナーの方に声を掛けられてしまった。
今思えば40kmエイドが分岐点だった。そこで食べた「うどん」が身体に染みて、もう一度、身体が走り始めたのだ。よろよろと歩くランナーをよそに、僕の足はただただ前を向くことができた。これまでかぶっていたキャップを止めて、バンダナを巻いたことで気分転換に繋がったのかもしれない。
50km過ぎの三崎港で一番元気だったかもしれないが、さすがに最後までその状態をキープさせてくれはしない。16時を過ぎる頃、西日が走るランナーの左側を強く刺し始めて、またペースが落ちてしまった。
最後のエイドは57km地点。このままズルズル行くと10時間以上かかってしまう。制限時間には間に合うが10時間は切りたいと考え、速いランナーの後ろについて併走を試みる。それが奏功し、1キロ6分半〜7分半のペースで残り6kmを走り切ることができた。最後は恒例のダッシュ。300メートルほど登り坂があったけれど根性で貫いた。身体は猛烈に悲鳴をあげたけれど、「一番しんどいけど、最後はダッシュで終わろう」と決意する自分のメンタリティは嫌いじゃない。9時間46分23秒、総合順位は297位。平凡と言えば平凡だけど、自分に勝てた実感がある。嬉しかった。


この青いシューズ、実は昨年リタイアしたときに履いていたものだ。メッシュ素材で軽量なので、あまりウルトラマラソンには適していない(おまけにちょっと靴底が削れてしまっている)。

それでも、どうしてもこのシューズと最後に良いレースがしたかった。
最後は遂に限界がきて、プチッと足のマメが潰れた音がして「ぎゃー!」と思ったけれど笑、ゴールの瞬間まで耐えてくれた。リベンジ達成、おめでとう!

そして、タフなレースに付き合ってくれて、本当にありがとう!

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