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すべては大人の問題、スポーツの目的とは何か?

2010年代半ば頃から、スポーツと教育に関する話題が頻繁に上がるようになってきた。

代表的なのは甲子園だろう。真夏の炎天下、ひとりのピッチャーが連投を繰り返す。勝利至上主義のもと、高校で肩や肘を痛めて選手生命を絶たれた球児は後を絶たない。ダルビッシュ有さんのように、アスリートからの問題提起も行なわれるようになっている。

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2022年春、子どものスポーツの在り方に一石を投じるような出来事があった。全日本柔道連盟(全柔連)が、小学生の全国大会を廃止すると決めたことだ。勝利至上主義への見直しの一環のようだ。

報道直後、「廃止はやり過ぎではないか」「子どもが目標を見失う」などの否定的な意見が多かったように思う。

しかし内情を訴える記事などを読むと、

・相手や監督に対して罵声を浴びせる指導者・親が続出していた
・子どもに対して過度な減量や練習が強制されていた
・子どもが監督の目ばかり気にして練習するようになっていた

といった、悲惨ともいえる状況だということが分かった。注意してもダメで「荒療治しかなかった」という判断だそう。

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で、実際にどうなったのか。

報道から半年経って、朝日新聞が関連記事を公開している。全国大会の代替イベントに、全国から170人の小学生が集まったそうだ。

会場に響くのは、選手の気合に荒い息づかい、そして審判の声だけだった。
柔道会場につきものの、指導者による指示の声も、保護者の歓声もない。「たまには子どもが、先生の顔色も、親の顔色も見ないで試合ができるのはいいこと」。視察した全柔連の金野潤強化委員長はしみじみと話した。

(朝日新聞デジタル「小学生全国大会から考える勝利至上主義 柔道は「廃止」、代替イベント関係者手応え」より引用、太字は私)

記事の中では「全国大会廃止は残念だった」という子どもの声が紹介されつつも、「全国の小学生と試合ができて楽しかった」という好意的なコメントもあった。

記事の中ではたと考えさせられたのは、「子どもが勝負に熱中するのはいいが、大人が勝ちの価値を上げすぎて、のみ込まれてしまった。今回の騒動は、すべて大人の問題なんだ」という言葉だ。すべて大人の問題、その通りだと思う。

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日本オリンピックの理事を務める山口香さんも寄稿している。

例えば、中学校の部活動では基本的に夏の全国中学生大会をめざし、予選が終わると3年生は引退する。受験があっても週1回くらいやればいいのに、目的が試合になっているから、試合がなくなるとやらない。自己研鑽のためにとか、汗をかいたら気持ちいいからとか、そういう理由でスポーツをする文化は、日本ではまだまだ、薄い。

(朝日新聞デジタル「小学生全国大会から考える勝利至上主義 柔道は「廃止」、代替イベント関係者手応え」より引用、太字は私)

言葉は違えど、試合(における勝利)が目的になっているという意味で、同じ指摘である。

今年のゴールデンウィークだったか、久しぶりに母校の中学校に立ち寄った。中学校のそばにある川で、息子と一緒に遊ぶために通りがかったのだが、そこで見た光景は「僕らのときと全く変わっていない」ものだった。

その日はサッカー部が練習試合をしていた。

指導者らしき人物が声を張り上げ、「なんでそんなのができねーんだ!」「やる気がないなら帰れ!」といった罵声を、中学生に浴びせている。それらを何の疑問もなく親たちは眺めているのだけど、これが果たしてスポーツのあるべき姿なのだろうか。

成長期である中学生は、ひとりひとり体格も違う。今日び学習塾に通う中学生もいるから、部活に対するコミットメントもそれぞれ違うだろう。プロになりたい生徒もいれば、体力をつけたい生徒もいる。純粋にボールを蹴るのが好きだという生徒もいるだろう。

指導者が熱くなる気持ちも分からないでもないが、果たして、その罵声は子どもの成長のためになるだろうか。こういった指導が、白昼堂々と行なわれていることに愕然としたし、息子が10年経って同じような指導を受ける「可能性」があると考えると息が詰まってしまう。

「勝利を目指す」ことが悪いのではない。そこだけに焦点が絞られ、勝利のために手段を選ばないという態度が悪いのだ。日本は少子化で、このままではスポーツ競技者もどんどん減っていくだろう。裾野を広げる努力を、大人側が真剣に考える時期にきている。

「俺はサッカーもやりたいけど、美術部で絵も描きたいんだよね」
「バスケ部に入りたいけど、夏休みは留学したいな」
「僕は勉強に専念したい。でも運動不足になるのは嫌だから、運動部で週一くらいで体を動かしたい」

これって、全然わがままなことじゃない。

どんな形でもスポーツに関わろうとする意思を尊重したい。それが結果的に、スポーツという意義ある活動が、より豊かに発展していくことに繋がるのだから。

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