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詐欺師がいなくなっても、すぐに新しい詐欺師が生まれてしまう(ドキュメンタリー「Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む」を観て)

どういう風に感想を述べるのが「正解」なのか、難しいドキュメンタリーだ。

いやもちろん、小説や映画の感想に「正解」がないことなんて百も承知だ。だけど、この作品を観て「面白い」と感じるのは倫理的にどうなんだろう?という気がしなくもない。実際に詐欺に遭った被害者がいて、少なくない金額が詐欺師によって騙し取られてしまっているのだから。

面白さを感じるのは、演出上のスリリングな展開によるもの。大胆に悪さを企てる詐欺師のサイモン・レビエフは、自家用ジェットに乗って世界中を旅しながら詐欺をはたらく。ダイヤモンド事業を手掛ける企業の自称・御曹司。

しかもこのドキュメンタリーは、マッチングアプリの「Tinder」であり、被害者たちの「報復劇」でもある。

なるほどキャッチーで刺激的な触れ込みだ。

まじめなドキュメンタリーにすればするほど、視聴の可能性は減じてしまうわけだから、こういった販促方法は否定しない。とにかくユーザーを視聴させることが大事だ。視聴されないことには始まらない。ユーザーからの耳目を集めることは、悪をあばき、私的に罰を与えるのと同じ意味になる。

Netflixでも話題になっているから、制作陣の目論見はある意味で成功したと言えるだろう。

しかし、少なくない数の視聴者は、サイモン・レビエフという詐欺師に対して、「憧れ」に似た興味関心を抱いてしまうのではないだろうか。パスポート偽造などの罪には問われているが、すぐに放免されて自由の身になっている。詐欺罪では立件されていない。その大胆さ、相手の心理を狡猾に操る様子。なかなかルックスも整っており、作品の中でもひときわ映える「主人公」的な存在だ。

騙され、借金までした被害者のダメージは計り知れないというのに。

ところで、Netflixで広く取り上げ、裁判という場以外で、ある意味で私刑が加えられることになる是非を、僕は脇に置きたいと思う。

明らかに「罪」らしきことをしているのに、「罪」として罰せられない現実を危惧して、制作者はクリエイティブの力を使った。表現の自由だ。それにサイモン・レビエフの顔が割れたことによって、サイモン・レビエフは、これ以上の詐欺行為が難しくなる。

だが、サイモン・レビエフが詐欺師でなくなったとしても、また新しい詐欺師は生まれるだろう。男女問わず、弱き者のコンプレックスをくすぐりながら、言葉巧みに詐欺師の利益へと誘導していく。その「いたちごっこ」は未来永劫続く。そういった意味のでのやりきれなさは残ったままだ。

悪党は、これからもきっと悪党であり続ける。

ドキュメンタリーとは、悪を暴き出す手段のひとつではあるけれど、悪の再生産に沿って作り続けられる装置でもある。

壮大なジレンマとも言えるが、「Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む」はひとつの悪を潰したいという強い意思が伺える。そういった意味でも、ぜひ心しての視聴をお薦めしたい。

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(Netflixで観ることができます)

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