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顧客にバカなことをしたと後悔させることで成り立っているビジネスモデル

Netflix共同創業者・会長 兼 CEOを務めるリード・ヘイスティングスさんが初めて記した『NO RULES』。Netflixがいかに「強い」組織を作ろうとしているかが伝わる書籍だ。

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Netflixの輝かしい実績を否定するつもりはない。あくまで僕個人の意見だが「仕事とマッチしていなければレイオフもやむなし」という企業姿勢には賛同しかねる。それ以外にも「一部の従業員を能動的に排除する仕組み」に眉を顰める箇所も多かった。

それでも組織論の文脈からすれば「とても参考になる」と言わざるを得ない。

とりわけフィードバックの仕方については、組織の根幹を決めるような考え方に背筋が伸びる。

4A(AIM TO ASSIST、ACTIONABLE、APPRECIATE、ACCEPT OR DISCARD)という枠組みのもと「いつでも、どこでも、誰に対しても」フィードバックすることを推奨するカルチャーは、どの企業にとっても参考になるだろう。

またネガティブ・フィードバックに関して「日本が世界の中で特異な立ち位置にあること」を明瞭に説明している。

日本人は直接ネガティブな言葉を使いたがらない。肯定から入ったり、緩和語(多分、幾分、ちょっと、もしかしたら、やや等)を多用したりと、グローバル規模で事業推進する上で支障をきたすコミュニケーションが指摘されている。

日本人の国民性を一概に悪いと見做しているわけではない。日本人をはじめ、他文化との融和を図ろうとするNetflixの考え方は極めてリアルでプラクティカルだ。

リードさんはNetflix以前にIPO経験がある。名うての実業家が初めて記す本書は、経営や人事に関わる方なら必読だろう。

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本書の冒頭で、リードさんの個人的なエピソードが記されていた。

1990年代の私は、家から少し歩いたところにあるブロックバスターの店舗でVHSビデオをよく借りていた。一度に2〜3本借りては、延滞料を払わなくて済むようにすぐに返却していた。だがある日、ダイニングテーブルの紙の束を片づけていたら、数週間前に観て返却し忘れていたビデオが出てきた。返しに行くと、女性定員に延滞料は40ドルだと言われた。なんてバカなことをしたんだ、と自分にがっかりした。
それでふと考えた。ブロックバスターは利益の大部分を延滞料で稼いでいる。顧客にバカなことをしたと後悔させることで成り立っているビジネスモデルでは、顧客ロイヤルティなど醸成できるわけがない。自宅のリビングで映画を楽しめる、しかも返却を忘れたときでも高額の罰金を払わなくていいという、まったく別のモデルは成立しないだろうか。
(リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー『NO RULES〜世界一「自由」な会社、NETFLIX〜』P29より引用、太字は私)

上記のエピソードが起業の原動力になった、という直接の因果関係はないが、序盤に書かれていることからも「こういうビジネスはしたくない」という経営思想の一つではあるだろうと、僕は解釈している。

周囲を見渡すと「なぜここで料金が発生するのか」と疑問を感じるような、悪しき商習慣はまだまだ多い。(実際は妥当性が高い理由もあるが、それを消費者に納得してもらえるようなコミュニケーションは取られていない

携帯電話キャリアの「2年縛り契約」は、その典型例だろう。

うっかり2年経過を忘れて解約を申し出た場合、解約手数料として1万円近くを請求される。つい最近まで、このような契約は「普通」として設定されていた。不思議なことに、docomo、KDDI、SoftBankそれぞれで同じようなルールが定められていた。参入障壁の高さが、悪しき習慣を助長していたのは明白だろう。

僕ら夫婦が依頼したウェディング・エージェンシーは、基本的に様々なコストについて実費を教えてくれる良心的な人たちだった。

プランニングなどにかかる費用は「ディレクション費」として提示してくれていたので「あ、そこが●●さんたちの利益になるんですね、少なすぎません?!」というような納得感 / 安心感を得られていた。

情報社会では、あらゆることは検索すれば「分かってしまう」。業界特有の「カラクリ」は、業界出身者が丁寧にカミングアウトしてくれるので、誤魔化したようなビジネスモデルは常に批判の対象になる。

Netflixを例示しておいて、こうした低次レベルでのビジネスを糾弾するのは気が引けてしまう。逆に言うと「顧客にバカなことをしたと後悔させることで成り立っているビジネス」は、日本においてまだまだ多いのだ。

僕もオープンネスを常に心掛けたい。

運営側も利用者も、双方が納得するようなビジネスを。信頼関係は長期的な生涯価値をきっと高めてくれるはずだから。

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