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ポーランドジャズの私設資料館を開きたい

音楽ライターとしての僕は、いちおうポーランドのジャズの専門家として知られています。

職業柄、資料としてポーランドジャズのCDをたくさん持っているわけです。その数ざっと2千枚近く。おそらく世界有数のポラジャズコレクターだと思います。たぶんポーランド人のジャズジャーナリストでも、自分の国のジャズCDをこんなには持ってないのではないでしょうか。実際ポーランド人にそう言われたこともありました。ちなみに、僕はアナログはほとんど持っていません。

現在はストリーミングサービスが発展して、新譜ならポーランドジャズもかなり自由に聴けるようになりました。でも過去の作品についてはまだまだフィジカル頼りですし、この国のジャズの全体像をつかむには配信音源では全然足りないのが現状です。20年くらい前からこつこつ集めていたのが仕事の役に立ったことは数えきれないほどあります。

ただ、これらのコレクション、僕にとっては自慢のネタというよりむしろ悩みのタネなんです。

まず一つは、僕もいつかは死んでしまうということ。故人のコレクションのその後については、これまで様々な「悲話」が語られてきました。例えば、家族を顧みないほどの狂的コレクターが亡くなったあと、その「遺産」が遺族に腹いせのようにして捨てられたり二束三文で叩き売られたり。

家族よりコレクションを重視した人生観についてはさておき、集めた貴重な資料には罪はありません。質量ともに、二度と実現しない規模の資料が集まっていることだってあるので、人間関係の綾で文化に寄与するかもしれないコレクションが散逸してしまうのは明らかに損失でしょう。

それほどまでのパターンでなくても、資料が専門的過ぎるため遺族に最適な相談先の判断がつかず、価値がわからない業者や手近なところに売ってしまい、妥当なお金が遺族に残されないという問題もあります。せっかくの価値ある資料が、それに見合ったお金に換算されないのもまた、悲劇です。

僕のポーランドジャズのコレクションは、控え目に言って世界有数のものです(さっきも書いてた笑)。いや、笑い事ではなくマジで、個人のコレクションに留まらず今後のジャズ研究などに活用できるほどのものだと思っていますし、ポーランドという国のジャズカルチャーの素晴らしさを伝えるに足るものだとも思っています。

僕の死後、たとえ高額で買い取られたとしても、お金では置き換えられないほどの価値があるのです。そしておそらく、日本人で僕と同じくらいの資料を集められる人は二度と出てこないでしょう。それはやはり惜しい。

あと最近の僕はもう、「ポーランドジャズの伝道師」的な自分の役割は終わったと考えていまして。ある音楽文化を広める際、ゼロからイチ的な役割の人と、イチからヒャク的な役割の人に分かれます。もちろん両方できる人もいるのでしょうが、ポーランドジャズがいいと日本で「定評」になった段階で(つまりゼロからイチで)僕のできることはやりきったのかなと。

ただ、それは僕個人のマンパワーとしての「終わり」なのであって、集めた資料は違うと思うのです。資料には、活かし方次第で永遠の価値があります。「後世のために」とか大それたことを考えているのではないのですが、やっぱり価値があるものはその価値を最大限活かすように残したい。

ポーランドジャズのアンバサダー(と言ってくれたポーランドのミュージシャンがいましたので、あえてそう名乗ります笑)としての仕事を、これまでのような形で続けるのかどうかはわかりません。

ディスクガイドも出し、コンピも出し、自主企画のコンサートもやってみたりして、プロになる前にやりたいと思っていたことをあらかた達成してしまい、今後の目的を失った感じもあります。もちろん「その程度の達成感でいいの?」という心の声もあるのですが。それはある種の葛藤ではあります。それはさておき。

この先、何をしたらいいのだろうか。そう自問を続けた先におぼろげながら浮かんできたのが「集めた資料をきちんと残したい」ということだったのです。

そこで僕が考えたのが、私設図書館ライクな資料館です。と言っても、いくつかポイントと言うか、こだわりたいところもあり。

まずはアクセシビリティです。実は最初は、ポーランド取材やイベント出演の際などに度々お世話になっているポーランド広報文化センターに寄贈するということを考えました。ただ同センターは在日大使館の中にありますし、大切に保管はしてくれても「誰もが気軽に触れられる」状態になるわけではないと考えられます。これは僕の望むところではありません。

入館費を取るにしろ取らないにしろ、さっと入ってかんたんに手に取れる状態にしたいです。これは僕が元・図書館員だからかもしれません。施設の役割(保存重視など)にもよるのですが、書架を見ててきとうに手に取ることと、いちいちデータを検索して指定のものだけをお願いして出して来てもらうのとの差は大きいです。

アクセシビリティは物理的な問題にとどまりません。所蔵資料はちゃんとデータ管理して図書館のOPACのようにわかりやすく検索できるように整備したいですし、閲覧室の中でどのように分類し並べるかは思案のしどころです。

貴重な資料を置いていても、まるで点数を誇示するようにただずらーっと並べているような施設もあります。でもそれって、知識がある人以外には「ただの壁」でしかないんですよね。

ポーランドジャズを紹介するにあたっての僕の役割は、先に書いたように「ゼロからイチ」だと思っています。つまり、元からポーランドジャズに興味を持っている人にさらに理解を深めていただくよりも、全然興味のない方に向けて入口を作る。そういう仕事だと言ってもいいでしょう。

資料館を作るなら、僕のその信条を反映させたものにしたいのです。マニアックなジャンルだからこそ、アクセシビリティにより配慮すべき。これが僕の音楽ライターとしての変わらぬモットーです。

気軽に入りやすく、資料を手に取りやすく、資料の整備や分類、キュレーションもしっかりと行われた状態で公開したい。所蔵資料をプレイして流すカフェとか併設したいですし、DJイベントとかポラジャズ曲のカヴァーライヴとかできるようにもしたいかなあ。いろんな角度からポーランドのジャズに親しんでいただけるような方法を模索できる施設であって欲しい。

さて、夢を散々語りましたが、問題は資金ですよねえ。アクティヴな方だとクラウドファンディングとかやればいいんじゃないかとアドヴァイスしてくださるのでしょうが、僕には人格的な問題がありまして。

それは「きちんと形にしてお礼をすることができない」ということです。というか、ご助力いただいたことに対してどうやってお礼をすればいいのか、いつもよくわからない。それで壊れてしまった関係もけっこうありまして。すみません。というふうにダメ人間なのは間違いないのですが、いまさら治らないので、とにかく人に助けていただく形での方法はあきらめたほうが良いのでしょう。

あとは、資料館的な施設のコストは「建てる時」ではなくて、完成後・開業後の維持管理費と人件費がいちばんかかる。スタッフにはきちんとした給料を払いたいですしね。宝くじとか当たって思い切ってドカンと建ててみても、その後の資金繰りがうまくいかずにゴースト施設みたいになったらこれも悲惨ですよね。いわゆる「ハコモノ行政」問題はこういう理屈で起こっています。

さらなる問題は、著作権的なやつをどう処理したらいいのだろうかということですよね。外国のものですからねえ。資料は自由に聴くことができるようにしたいのですが、公営施設ではないので会費とか入館日とか取らないと運営できないと思うんですよねえ。NPOみたいな感じにすればいいのかな。この問題については具体的に見えていません。

もう一つこだわりは、できたら青森市内に建てたいってことでしょうか。こんな資料館は日本のみならず本場ポーランドにも世界のどこにもないと思うので、ちょっとした観光資源として活かしてもらえれば、今や第二の故郷的なこの街への恩返しになるかなと思っているのです。

音楽ライターとしての目標はもうあまりないのですが、ポーランドジャズがらみの人生の目標は、今のところこれかなあ。でもお金がいるので、音楽ライターのままじゃ無理ですね、稼げないから(笑)。音楽ライターに限らず物書き業は生計を立てること自体が難しい職業ですが、まあこの大それた計画を今後の生きる目標として、もうひと頑張りしてみようかなと思っています。

いつになるのかわかりませんが、完成したあかつきには、ぜひぜひ見に来てください(笑)

(おわり)



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