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鍵盤の国「波蘭」の豊かな孤独 ポーランドのピアノソロ名盤セレクション

*2020.9.9.内容を一部変更しました。ピアニストの入れ替え、説明文のアップデート、Spotifyリンクの削除など。

普段ポーランドの音楽を専門にライターをやっていると「ポーランド出身の有名人って誰なんですか?」という質問を必ず受けます。そしてこう答えるとみなさん「ああ!」って言ってくれるんです。

「ショパンはポーランド人ですよ」

ショパンってとにかく「ピアノ」のイメージが強いですよね。作った曲がほとんどピアノ曲だけなのに、遠い日本で最も愛されている作曲家で、本国ポーランドでは国の象徴のようになっているというのも何ともすごい話です。

そんなショパンの国だけあってポーランドのピアニストの演奏はずば抜けてレヴェルが高い。近年ではジャズ界隈の「ピアノ・ソロ」アルバムが大変な豊作なので、まとめてご紹介します。

Improludes / Piotr Wyleżoł
コンテンポラリーなクィンテットに美音トリオにデュオ、ソロと最近とどまることを知らない活躍ぶりのピアニスト、ピョトル・ヴィレジョウの作品。

Moments / Sławek Jaskułke
いま日本でいちばん愛されているポーランドのミュージシャンは間違いなくこのスワヴェク・ヤスクウケでしょうね。近年のソロピアノリリースラッシュはどれも質が高く、一枚一枚に個性もあります。こちらは僕の個人的オールタイムベスト級の一枚で、とてもよく聴きます。

Sea / Sławek Jaskułke
このアルバムを境に、ピアノソロというジャンルの「何か」が変わったと言っても過言ではありません。ピアノとプレイングノイズの共鳴を芸術の域にまで高めた傑作です。国内盤(CORE PORT)はロングセールス。音楽ライターとして、この作品を日本に紹介できたことを誇りに思っています。

Esja / Hania Rani
ヤスクウケに続いて日本のファンに「ポーランドのピアニスト、ヤベえ」を印象付けたのが才媛ハニャ・ラニ。UKマンチェスター発の気鋭レーベルGondwana Recordsから本作で衝撃のインターナショナルデビューを果たしました。エレクトロニカから室内楽まで多彩なジャンルを消化した音楽性は、続く『Home』でたっぷり味わえます。

Luminiscence / Sebastian Zawadzki
『幸せのありか』や『ワルシャワ蜂起』などの音楽で知られる映画音楽家バルトシュ・ハイデツキ御用達のピアニストで、自身も映画音楽を制作するセバスティアン・ザヴァツキの作品。弦楽四重奏と共演した作品も何枚かリリースしていてものすごく優しくて美しいです。YouTubeでかなり聴けます。

最初のピョトル・ヴィレジョウや↑のセバスティアン・ザヴァツキの曲はそれぞれ、僕が選曲したポーランドジャズのコンピ『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』(どちらもCORE PORT)に収録されています。

Lonely Shadows / Dominik Wania
ポーランドの若手世代は天才目白押し!ですが、中でもずば抜けて現地で評価が高いのがこのドミニク・ヴァニャ。そして出ました!とうとう名門ECMからのソロピアノが。前からリリースの噂を聞いてはいたのですが、何年待たせんねん。このように非常に美しいタッチを持つドミニクですが、アヴァン系やフリーにめっぽう強いのも彼の特徴です。

Kurpian Songs & Meditations / Łukasz Ojdana
なぜか日本のミュージシャンのファンがすごく多いRGGというピアノトリオ。デビューから10年くらいメンバー不動だったのですが、突然ピアニストが若手にかわったんです。大抜擢されたのがこのウカシュ・オイダナ。RGGは磨き抜かれた美音による、緊張感ある「間(ま)の芸術」とでも言うべき演奏が魅力のトリオなので、彼のソロも絶品間違いなし。初ソロはクルピエ地方の伝統音楽をベースに作曲されたもの。

Mazurki / Marcin Masecki
美音系の天才たちの中にあって、ひとり我が道を行くのがこのマルチン・マセツキ。バロック音楽からブラスバンドまで、いろんな音楽を独自のひねくれたセンスで演奏する多彩なミュージシャン。最近の話題は何と言ってもカンヌ映画祭監督賞を受賞した映画『COLD WAR あの歌、2つの心』の音楽制作でしょう。このアルバムは、そんな彼がソロで挑んだポーランド伝統音楽のリズム「マズルカ」。

15 Studies for The Oberek / Pianohooligan
マセツキのところで伝統音楽のリズム「マズルカ」について触れましたが「オベレク」というリズムもあります。このリズムをモチーフにソロを展開したのが、若手の天才ピアノフーリガン。これはソロ演奏をする時だけの芸名、言わば別人格で、アンサンブル・ジャズをやる時は本名のピョトル・オジェホフスキ Piotr Orzechowskiを名乗ります。

Experiment : Penderecki / Pianohooligan
ピアノフーリガンは21歳でモントルー・ジャズ・フェス・ピアノ・ソロ・コンペに優勝しました。彼が受賞後どんな作品を出すか、みんなが固唾を飲んで見守っていたところ、誰もが予想だにしなかった、ロンドンのクラシック名門Deccaからクシシュトフ・ペンデレツキ曲集でデビュー。ジャズちゃうんかい!ポーランドはクラシック教育のバックグラウンドをベースにした音楽性のジャズミュージシャンばかりなのですが、彼は稀代の二股アーティスト。ジャンル的デュアラーとでも言いましょうか。

オイダナ、マセツキ、ピアノフーリガンの作品はどれも伝統音楽(民謡)にインスパイアされて作られたもの。言わば「民謡ジャズ」です。ポーランドの民謡ジャズ文化について説明したnoteがこちら↓

Komeda / Leszek Możdżer
90年代以降のポーランド・ジャズ最高のスターの一人がこのレシェク・モジジェル。映画音楽からアヴァン系までジャンルを股にかけ大活躍の真の天才です。いちピアニストとしても超一流で、このアルバムはその実力をいかんなく発揮した傑作です。ポーランドの伝説的ジャズ作曲家クシシュトフ・コメダの作品をカヴァーしたもの。

モジジェルは昨年、70年代に自殺した天才ピアニストMieczysław Kosz ミェチスワフ・コシュの人生を描いた話題の伝記映画『Ikar.Legenda Mietka Kosza』のサウンドトラックを担当。ポーランド映画界の才能が結集したこの映画の日本公開が待たれます!

いかがでしたでしょうか。ポーランド・ジャズにおけるピアノソロ作品の魅力の一端でも伝われば嬉しく思います。

オマケ
ベテラン世代のソロ名盤の動画をいくつか貼っておきます。


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