究極の目標は「農家のようになりたい」かもしれない
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究極の目標は「農家のようになりたい」かもしれない

オラシオ

プロのライターとしてデビューしてから丸10年経ち、デビュー前に思い描いていたさまざまな「やりたいこと」をだいたい叶えてしまったことに気付く。

・補助金を受けての海外取材(現時点で計4回)
・自分で選曲したコンピレーションCDの発売(2枚)
・レーベルのプロデュース
・自分が監修したディスクガイドの出版(1冊)
・ライヴイベントの企画・プロデュース
・自治体から依頼されて講演(2回)
・全国放送のラジオ番組にゲスト出演
・イベントにDJとして出演
・映画の字幕監修

・・・・などなど。他にもいろいろある。当初は考えもしていなかったお仕事もあるし、まあとにかくいろんなことをやらせていただけてここまでこれたな、と我ながら思う。10年過ぎた今、強く感じるのは「運が良かった」と「たくさんの人に助けていただいたんだな」の2つだ。

残念ながら、どちらもその境地に達したのはつい最近のことで、お世話になったうち、少なくない人に不義理かつ敬意の足りない態度で接してしまい、関係が途絶えてしまった方もいる。そんな自分が残念でたまらない。

そういうこともあったからなのか、プロデビュー前に設定していた目標をおおむねクリアしたにもかかわらず、今もあまり達成感はない。ここ4年ばかり大きな病気と闘っていたので、それどころではなかったというのも正直なところだ。

もう一つ感じているのは、自分の物書きとしてのキャリアの「1周目」をようやくまわりきった段階なのかも、ということ。

僕はもともとそんなにポジティヴな性格ではないのだけれど、何事を成し遂げてもいつも満足することがなく「もう少し先に行けたかも」と渇きを感じるところだけは前向きだし、数少ない美点だと思っている。ただし、いつも渇いているので少ししんどくはあるのだが。

そんな僕が今、キャリアの1周目をまわり終えて、2周目を走り出そうとしている。そういうことなのかもしれない。それに伴って、頭の中にある目標も若干スケールアップしているかも。

僕は小学校4年生の時から文筆業に就きたいと考えるようになった。きっかけはいろいろある。プロデビューこそ40代になる手前と少し遅かったものの無事それに類する仕事に就けたことになる。そして、デビューから今まで、とりあえずのところ仕事がまったくのゼロになることもなく続いている。

今の僕が強く感じているのは、せっかくなりたかった仕事に就けているのだから、何よりも自分自身が楽しく生きられていると思えるような仕事をやらなきゃ意味がないな、ということだ。

「プロである」ということについては人によってさまざまな解釈があり、僕の考えを「甘い」と感じる人もいるだろう。楽しませるのは自分よりまず読者じゃないのか、とツッコミを入れた人もいるかもしれない。

ただ、稼げるかどうかをおいたとしても、自分が楽しくやれる仕事をやるというのはかんたんなことではない。「やりたい方向性」が合致するかどうかとともに「自分の生み出すもののクオリティ」に満足できなければ決して楽しくはなれないからだ。ビジネスとしての成功と同じように、やりがいもまた得るのは難しい。

こうした仕事を目標に据えるのは2周目ならではなのではないか、と思う。とりあえず10年キャリアを重ねて「書いている自分だけが楽しく、読んでいる人は全然楽しくない」というようなものを書く段階は過ぎている。

自分が楽しいと感じられるクオリティのものなら、必ず読者の方も満足させられる。そう思っている。もちろんそれが「大きなビジネスになる」「有名な作品になる」かどうかはまた違うフェーズの話だ。

今、地方紙の陸奥新報に連載している「図書館ウォーカー」はこの10年で初めて出合えた、そういう仕事だ。津軽地方オンリーの発行なので読者が限られてしまうのがもったいないな、と自分で思っている(笑)。ただ、そういうこととは関係なく書いていて楽しいし、自分の現時点での技術を尽くしていて達成感もある。

この連載も永遠に続くわけではないので、いつかは終わる。そして、これから先、こういう仕事をまたやれるかどうかはわからない。しかし、こういう仕事をできるだけ獲得し、楽しみながら自分の文章を磨きぬいて行くのが僕のキャリアの第2周目なのだろうな、という気がしている。

もう一つ、2周目のスタートを迎えた今、新しい目標として見えてきたのが「農家のようになりたい」ということ。

僕には2015年から続いている長期ウェブ連載がある。僕が住んでいる青森県は国内で6割以上のシェアを誇るりんごの大産地。そのりんごを紹介するサイト「りんご大学」上の1コンテンツ「りんごと音楽」だ。

青森のりんごは本当においしい。だが僕はこの連載のお仕事をいただくまで、りんごについて「おいしい」以外の感想も知識も持たずにいた。連載を続けるにあたって、りんご農家さんの仕事ぶりや市場の様子を取材させていただくこともあった。

りんご以外のものを作っている農家の方についても少しずつ関心がわくようになっていた。そんな僕が強く感じるのは、「農家の人って自画自賛がすごいよな」ということだ。

自画自賛と言うと「オレすごい!」みたいだけど、農家さんの場合は少し違って「オレの作った○○、最高にうまいな!」という感じ。ものすごく大きく強い言葉を使っているのに、全然嫌な感じがしないし、むしろ微笑ましい。僕は農家の人の自画自賛を聞くと、他人の発言なのになぜかものすごくスカッとするし、すがすがしい気持ちになる。これってすごいことだ。

これは僕が第一次産業に関わるお仕事をはじめたからこそ持ちえた視点なのかもしれない。取材する過程で、僕たちが何気なく手に取り食べている作物の一つ一つを作るために、農家のみなさんがどれほど試行錯誤を繰り返し努力を重ねているかの一端も知ることができた。

そして、考えてしまう。クリエイターもこうなれないものだろうか。「オレの書いた文章、最高にうまいな!」と農家のように本気で言い切れたら。そしてその様子を見た誰かが「ふふっ」と楽しく感じる。そういう仕事ができたら、それは僕の物書きとしての究極の目標の達成かもしれない。

キャリアの2周目はまだはじまったばかりだけれど、この究極の目標を念頭に、自分なりに頑張っていきたいと思っている。

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オラシオ
ライター、エッセイスト。青森市在住。2019年冬から陸奥新報で旅エッセイ「図書館ウォーカー」連載中。コンピCD『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』選曲解説。その他お仕事多岐に渡ります。ご依頼はaladyhasnoname(a)yahoo.co.jp (a)→@へ