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はからずも秘境駅探訪してしまった。図書館ウォーカー番外編

僕は昼寝が好きだし実際よく寝るほうだが、電車に乗っていて降りる駅を寝過ごしたことはほぼない。記憶している限りでは49歳の今までで2度しかないので、確率としては約25年に1度ということになるだろう。

ところが今日、まさかの3度目を迎えてしまった。

僕は昨夜、長い長い旅から青森市の自宅へ帰って来たばかりで、おそらく自覚する以上に疲れていた。ほんとうは今日は家で何もせず(とは言っても執筆やそのための調べものなどはやるが)のんびりするつもりだった。

長旅の中で撮った絶景

ただ、青森まで帰ってくる時に使ったJRの「北海道・東日本パス」の使用期間内(連続7日間有効)だ。今朝の寝覚めも意外とさわやかだったし、日帰り図書館ウォーカー旅をしたくなって計画を立て、横浜町と野辺地町の図書館に寄りつつ街ブラすることにした。

大まかなプランは、まず横浜町で図書館に寄り、すぐ隣の施設内にある「よこはま温泉」に入浴。軽く街ブラしてから野辺地へ、というもの。野辺地の図書館は何年か前に一度訪ねたことがあるが、あまり時間がなくてささっと出てきたし、記憶もそんなにないので再訪したくなった。

青森市側から横浜町に行くには、青い森鉄道を使って野辺地駅で降りJR大湊線に乗り換える。最寄り駅から野辺地方面に向かう列車に乗って、着くまでの小一時間を座って音楽を聴きながら過ごすつもりだった。

(旅している時によく聴くアルバム。ヤスクウケ5月に来日です!)

ところが、ところがですよ。はっと気がつくと、耳に「千曳駅に到着しました」という車内アナウンスが流れ込んできた。千曳駅は青森側から見ると野辺地の次の駅なのだ。

青森方面行き側ホーム近くにあった「鉄道防雪林」の標識

知らないうちに熟睡して、野辺地を乗り過ごしてしまったらしい。フリーパスを持っているし、そのまま乗り続けていても別に良かったはずなのだが、目の前に青森側、つまり野辺地に戻る列車が停まっているのが見えた。

あれに乗ればまだ大湊線乗り換えに間に合うのでは?

と、いうような判断を寝ぼけた脳でとっさに考えたのだろう。反射的に列車を降りてしまった。しかしよく考えると、この駅は向こう側のホームに行くためには長い坂を上ってから一般道路を少し歩き、また長い坂を下って来なくてはいけないのだ。

坂の上から見下ろした千曳駅

「そうだった」と気づいた時には野辺地方面に行く対面の列車は無情にも発車し、今降りたばかりの列車もぷしゅーとドアを閉めて行ってしまった。

牛山隆信さんが世に広め、一つの「旅ジャンル」となった感のある「秘境駅」だが、青い森鉄道内で該当すると言われているのが唯一、この千曳駅なのだった。つまり「周りに何もない」ということを意味する。

実際鉄道ファンがよく訪れているようだが、僕は別に秘境駅ファンでも鉄道ファンでもないし、近くに図書館もないので(笑)、この駅で降りた人はどうするんだろうと気にはなっていたものの、青森市に引っ越してきてから20年近く、ここで降りることはなかった。また、ここで降りる人を見たのも片手で数えるほどしかない。

東北町のマンホール蓋。小川原湖と白鳥のデザイン

「いつかここでも降りることがあるのかなあ」なんて漠然と思っていたけれど、まさかこんな偶然のチャンスが訪れるとは思っていなかった。

さて、八戸方面でも青森側に戻るのでもいいが、とりあえず一番早く来る列車を調べないと。あー、1時間10分後。待合室でずっと待つには長すぎる時間だ。

「図書館ウォーカー」でもよく書いているのだが、僕はけっこう旅先の図書館で「行ったら休館してた」ということがある。それなりに緻密に公共交通のプランを作り、図書館目当てに「わざわざ」立ち寄っているわけなので、ふつうならがっくり来るところなのだろう。

ただ、僕は旅先の図書館にアクシデントで入れなくても一喜一憂しないようにしていて、それならそれで、図書館に使うはずだった時間を街歩きに充てればいいし、ショックを引きずるとその後の旅が楽しめなくなるので、できるだけ「かわりの楽しいこと」を見つけるようにしている。

この県道8号線を西に向かって歩きました

図書館は確かに目的地なのだけれど、それは結局その街を楽しむための一つの手段に過ぎなくて、他にもいろいろ楽しめることがあるはずなのだ。

なので、この「寝過ごして思わず千曳駅で降りちゃった」というアクシデントも「これはこれでネタになるな」とすぐに気を取り直し、「周りに何もないとか言われているけれど、実際どんな感じなのか見てみようかな」といううふうに考えた。

というわけで、とりあえず青森側に戻る列車までの1時間くらいを使って、往復で行けるところまで行ってみることにした。

坂の上から見下ろす千曳駅その2

僕はいつも、街や図書館や駅での時間を過ごす時は「ここで生まれ育った子どもはどんな青春を送るのかなあ」ということを想像するのが好きで、それは書籍「図書館ウォーカー」のまえがきでも書いた。

上で「千曳駅で降りる人を見たことは数えるほどもない」と書いたが、実はその貴重な機会が今日あった。学生服を着た少年が僕と一緒に降りたのだ。

ちょっとおかしかったのは、彼は僕に先んじて駅からの坂を上がったあと、しばらく道を逆側に向かって歩いてしまったみたいで、私がスマホで列車のダイヤなど調べている前に戻ってきて、さっきと違う方向に歩いて行った。

一般道路の下に駅がある感じなんですよね

それを見て「地元の君が間違えてどうすんねん。何回ここで降りとるんや」と内心ツッコミを入れてしまったのだった(笑)

ともあれ、彼はここから歩いてたどり着くどこかの家に住んでいて、毎日この千曳駅まで歩いていて通学しているということだ。ではでは、彼が向かった方向に僕も歩いて行ってみることとしよう。

冬の最後の名残の冷たい風がびゅーびゅー吹く中を、少年の歩いて行った方向にひたすら歩く。見えるのは目の前に伸びる道路と、森、融け残った雪、農地だけ。そんな中でも、北海道っぽいと言うか、ちょっと美瑛っぽい風景が見られて楽しめた。

美瑛っぽい?
北海道っぽいとも言える?
美瑛っぽい?その2
伝わりにくいですがここも斜面です。美瑛っぽい?その3

ぽつぽつ住宅は見えたもの、集落と言えそうなエリアは20分くらい歩いてようやく現れる。あの少年は、きっとこの中のどこかに住んでいるのかな? つまり、彼はこの道のりを毎日千曳駅まで歩いてるってことなのだ。大変だな~。

そうそう、千曳の集落は駅も遠いし、近くにバス路線もなさそうだし、車を運転できない人が出入りするには青い森鉄道を使うしかない。ここで日常を過ごすと、時間に対する感覚がいろいろ変わりそう。

駅から徒歩20分強の千曳の集落
こんな道を千曳駅に戻ります~。遠いよ~♪

というわけで、往復50分ちょっとの千曳散策、それなりに楽しんだのだった。行きと帰りで雲や陽射しの感じがガラッと変わって一粒で二度おいしい感も。青森市に帰る列車に乗るべく、駅に戻る。

レールで作ったガードレール?こういうの鉄道ファンの人は喜ぶのかな
千曳駅待合室
ちょこんと置かれたぬいぐるみがかわいい!
しかし角度を変えるとなんか哀愁漂うな(笑)
というわけで千曳ともお別れです。後ろに見えてるのが鉄道防雪林

千曳駅=周りに何もない、というイメージからか、訪れた鉄道ファンも駅の様子だけを発信している人がほとんどという印象だけれど、図書館ウォーカー的には「描くべきところは、むしろ(図書館の)外側にある!」という考え方なので、今回の散策もなかなか面白かった。

今回は時間が1時間くらいだったので集落の入口でてきとうに帰ったものの、どうやら1200年の歴史がある神社とかがさらに遠方にあるみたいなので、今度はもっと遠出してみたくなった。こうして「宿題」をゲットするのも図書館ウォーカー旅の醍醐味だったり。

結局横浜町と野辺地町の図書館は行けなかったけれど、楽しい日帰り旅に。仕事から帰ってきた相方に今日の顛末を説明したら、「それはまた、なかなかの面白いお導き(おみ千曳)だったね(笑)」と言われた。おあとがよろしいようで。終わり。

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