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優しさに正解がないとしても

十二月、一月、介護する人には無関係な祝い事

思い出すことがなくなった日々で
備忘録として振り返る

父は救急搬送されて、1時間半後に
臨終を告げられた
救急病棟では、医師が3人交代でAEDを使い
心臓マッサージが施された

「助けてください」
望みは叶うことなく、母や弟の到着を待たず
父は逝ってしまった

わたしは震えが止まらず泣いていた
それをもう1人の私が眺めていた
「ごめんなさい」を連呼するわたしへ
「どうにもならんじゃろ」と思う私

母と弟が到着し、医師からの説明がある
母と弟は動じる顔すらせず
「後悔はありません。ありがとうございます」
医師へ頭を下げていた

遺体搬送を待つ霊安室で、わたしは立てなかった
「ごめんなさい」
父を含めた家族へ詫びていた

通夜や葬儀を終え、社会保険事務所や銀行を巡る
その間に、わたしは弁護士事務所へ出向く
ここは昔から実家がお世話なっていた

「先生、自首したいんです」
出来事を絞り出すように話し、先生は聞いてくれた

「ももさんを裁く法律はありません
御尊父との思い出を大切にしてくださいね」


わたしは他者から影響を受ける場合が多い
父への後悔は、やがて打ち消す気持ちへ変化した

きっかけは、近所の住民だ
高齢の親がいる人
介護経験者や介護・医療従事者は除き
何も知らないのに、無責任な説教をする人がいる
30代の若いわたしに言いやすかったのだと思う

この人達の言葉が
わたしと私を1人にした

「だったら、アンタがやってみなさいよ」
喉元が声を腹へ戻す

机上の空論は虚でしかない
美点がない、理想通りに行かない介護は
食卓テーブルでゆっくり食事ができず
まともな睡眠が取れない

父が寝ている間は、洗濯機を3回まわすほど大量で
排泄物が付いたものは、庭で手洗いする
身が切れそうな寒風に曝されても
手洗いが終わる頃には、額が汗ばむ
真夏の炎天下は、目眩がしながらやっていた

父がショートステイで世話になる日は
念入りな掃除や買い出しなど、時間は流れ
父の傍ら、折り畳み机で資格取得の勉強をする
ここだけが、わたしを非現実へ導いた

「アンタに何が分かるの」

脳梗塞は、穏やかで寡黙だった父の人格を変えた
母やわたしへ暴力が始まった
あれだけ寵愛してきた母へ手や足を出す、父

上から目線の説教で
語り口の理想は現実離れし、話にもならない

父が鬼籍に入り、1ヶ月もしない間
「わたしはよくやった」へ変えた、目が覚めた

のち、葬祭業で働くわたしは
遺族には何が必要なのか、見極めがついた

#シロクマ文芸部
#小牧幸助さん