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ロバート・ミッチャムが怖い映画「狩人の夜」〜“本物のカルト・ムーヴィー“

小林信彦「外国映画ベスト50」クエストの方も、細々と続けている。(前回はこちら)

1955年制作のアメリカ映画「狩人の夜」を観た。

原作はデイビス・グラブの「The Night of the Hunters」(1953年)で、アメリカではベストセラーとなった、サスペンス小説。1955年の全米図書賞で最終候補に残った本作を、チャーズル・ロートン監督で映画化した。

ロートンは、俳優として有名でアカデミー主演男優賞(1933年「ヘンリー八世の私生活」)も獲得している。私の記憶には、1958年ビリー・ワイルダー監督「情婦」の弁護士役が残っている。先日、記事にした「ヒッチコックの映画術」の中では、「巌窟の野獣」のロートンが何度か映し出された。

映画の冒頭、画面に女性が登場し聖書からの説話を子どもたちに話す。その中に、こんな一節がある。

<偽預言者に注意せよ 羊の姿をしていてもー>

この女性を演じているのが、リリアン・ギッシュ。名前は記憶に残っていたが、どういう女優だっけ。広辞苑にも載っている大女優で、<可憐な風貌と演技でサイレント期の悲劇映画を代表するスターとなる>。代表作は「イントレランス」(1916年)。私の頭には、最晩年にベティ・デイビスと共演した「八月の鯨」があった。これも未見、また宿題が増えた。

主演で偽伝道師役を演じるのがロバート・ミッチャム。この男が、大金を求めてある家族〜子供たちを追いかけるスリラーである。

眠そうな目をした、ロバート・ミッチャムが不気味である。しかし、彼は言葉巧みに人々の心の中に入っていく。

この映画を見ながら、統一教会問題を思った。

人は、羊の姿をした偽預言者に簡単にだまされる。映画で描かれているような、貧しく苦しい生活のもとでは特に危ない。

一方で、一旦羊の皮がはがれると、人間というのは残酷である。一匹の狼も恐ろしいが、人間の集団はもっと醜く危険である。そんなことを、ちょっと感じた。

この映画、公開時はとても不評だったらしい。日本での公開もなかった。ところが、後年フランソワ・トリュフォーらが絶賛、一転名画となった。ロートンの監督作品はこの1本だけだったと思うが、公開時に評価されていれば、彼ももっと映画を作れたかもしれない。

小林信彦には上記の文藝春秋に載せた「外国映画ベスト50」以外にも、「2001年映画の旅〜ぼくが選んだ20世紀洋画・邦画ベスト200」(文藝春秋)がある。同書にはこう書かれていた。

<本物のカルト・ムービヴィー、ミッチャムの変質者が演出の変質ぶりにぴったり。>

まさしくその通り


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