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キャロル・リード監督の名作はまだある〜「ミュンヘンへの夜行列車」

小林信彦「外国映画ベスト50」クエストは続いている

映画監督、キャロル・リードと言えば、やはり「第三の男」(1949年)。ジョゼフ・コットン、オーソン・ウェルズ、アリダ・ヴァリ出演のこの作品は、映画史に燦然と輝いている。

そのキャロル・リードが、1940年に世に出したのが「ミュンヘンへの夜行列車」。第二次世界大戦を背景とする、サスペンス映画である。

冒頭に、序文が映し出される。<この映画の舞台になったのは第二次世界大戦の前夜とー1939年9月3日である> 。9月3日は英仏がドイツに宣戦布告する日である。

勢力を伸ばすナチス・ドイツはズデーテン地方を併合、さらにはチェコに進出する。登場するのは、チェコ人で科学者のボマーシュ。軍事用の金属装甲板を開発しており、チェコ政府は彼の持つ技術がナチスに渡るのを阻止しようと、英政府と協力しイギリスへと亡命させる。

ボマーシュは娘のアナ(マーガレット・ロックウッド)を同行しようとするが、アナは出国前に逮捕され収容所へ送られる。アナは収容所でカール(ポール・ヘンリード)という囚人と知り合い、彼の手引きで彼と共に収容所を脱出、イギリスへと向かう。

しかし、このカール、実はナチスのエージェントで、娘アナを利用して科学者ボマーシュの居所を突き止めようとしていたのである。

そんな時、アナはイギリスの保養地でディッキー・ランドール(レックス・ハリソン〜「マイ・フェア・レディ」のヒギンス教授)と出会う。保養地でエンターテーナー業も営むランドールは、実はイギリス情報局の覆面諜報員だった。

さて、アナとボマーシュの運命は、ランドールはどう関与していくのだろうか………

小林さんは、<監督はキャロル・リードだが、ヒッチコックかと思うばかり>と書いている。ヒッチコックばりの緊迫感あふれるスリラーである。Amazon Primeで配信されているので、ヒッチコック好きの方は是非ご覧頂きたい。

”ヒッチコックばり”は当然で、<脚本家が「バルカン超特急」と同じ>なのである。「バルカン超特急」は1938年のヒッチコック作品で、小林さんはベスト50の1本として挙げている。私も大好きな映画で、私の中ではヒッチコックのベスト5に入る。

脚本家が同じであるのみならず、主演のマーガレット・ロックウッドも同じ、イギリス人の造形も似通っており、両作の比較は色々行われているようである。未見であれば、「バルカン超特急」と合わせて観るのもよいだろう。

公開された時節柄、反ナチスをかなり意識した作りでもある。収容所で勤務するズデーテン地方出身のドイツ人が、ナチスの政策に反対しているという描写もある。

一方で、<癖のある英国紳士二人組>がエンターテイメント性を膨らませ、時代の臭さを感じさせない映画に仕上がっている。

キャロル・リード監督、あらためて作品リストを見ると、「第三の男」以外は観ていなかった。同作はアカデミー賞は撮影賞のみの受賞、リードは1968年の「オリバー!」でアカデミー作品賞・監督賞を受賞する。マーク・レスターが主演のミュージカル。

ヒッチコックに比べると、リード作品は配信されているものが少ない。それでも「オリバー!」は観ることができそうだ


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