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何度見ても爆笑と感心〜マルクス・ブラザースの「オペラは踊る」は最高に面白い!!

MLBの試合、7回表が終わるとSeventh-inning Stretch。観客は立ち上がり、伸びをし、“私を野球に連れていって〜Take Me Out to the Ball Game“を合唱します。

TV中継から流れる曲を聴いていた妻が、「この曲が出てくるマルクス・ブラザースの映画があったはず。久しぶりに観たい」と言い出しました。「オペラは踊る(原題:A Night at the Opera)」(1935年)です。(Amazon Prime等で配信。U-NEXTでは「マルクス兄弟オペラの夜」

一般的に、マルクス・ブラザースのベスト映画は1933年の「我輩はカモである(原題:Duck Soup)」と言われており、彼らを私に教えてくれた小林信彦もその立ち位置だと思います。私も同感です。

ただし、マルクス・ブラザースを知らない人から「何を観れば良いか?」と聞かれれば、この「オペラは踊る」を推します。「我輩はカモである」は名作中の名作ですが、予備知識なしにこれを観ると、あまりのアナーキーさに戸惑う可能性があるからです。

今回、久方ぶりに「オペラは踊る」を観て、こんな面白い映画はなかなかないと、再々度になりますが確認しました。

マルクス・ブラザースは、もとは舞台出身の喜劇人。長兄チコがいかにも怪しげな帽子を被った男。次兄ハーポはモジャモジャ頭で、言葉を発さず、予測不能の行動をとる別世界の生き物。三男グラウチョは眼鏡に口髭(墨)、マシンガンのような言葉攻撃〜ユダヤ人ジョークが特徴と、濃ーいキャラの兄弟。この他に四男ガンモ、五男ゼッポがいますが、影が薄く「オペラは踊る」は三人のみが出演です。

「オペラは踊る」は、有名テノール歌手のリカルド・バローニ、彼が言いよるソプラノのローザ・カスタルディ。彼女と恋仲にある、無名歌手ロドルフォ・ラスパリの三角関係がベースにあります。そして、ローザとロドルフォの間を、“結果的“に取り持つことになるマルクス兄弟という、映画としての典型的な構造を備えています。

そのことが、徹底的に乾いた笑いに徹した「我輩はカモである」に比べると一段低く見られる所以ですが、映画としては“まとも“に出来ています。とは言え、マルクス兄弟の繰り出すギャグは、異常とも言える発想で、日本のTVで見られる“トンデモナイお笑い“を、軽々と凌駕するものです。

前半の舞台は、イタリアからニューヨークに向かう客船ですが、有名なシーンの一つが次のようなものです。

グラウチョの狭い客室に大きなトランクが運び込まれます。扉を開けると、出てきたのはチコと歌手のロドルフォ、引き出しを開けるとハーポが寝ています。彼らのためにルームサービスを頼むと、狭い部屋にはベッドメイキングの女性二人が入室、さらに工事の男、そして注文した食事を持ってくるサービスの人などなど、部屋は人ですし詰め状態になっていきます。なぜか、皆この状況を異常と考えず、部屋に入室してくるのです。。。。

こうした素晴らしいギャグ・シークエンスに加え、舞台で披露されたであろう至芸を見ることができるのも、この映画の魅力です。

チコは、ピアノの名手で、右手の人差し指をピストルのように立てながら弾くテクニックは、見るものを楽しませます。ハーポの方は、ハーピスト。彼の名前はそこから来ています。この映画では、ピアノに続いてハープを演奏します。狂気のキャラクターとハープという楽器の取り合わせは見事です。

後半はニューヨークのオペラ座が舞台。リカルド・バロー二がヴェルディのオペラ「イル・トロバトーレ」を歌います。その幕開け、チコとハーポはオーケストラの楽譜に“私を野球につれていって“のスコアを挟み込みます。勇壮な序曲が始まりますが、途中で'Take Me Out to the Ball Game'のメロディに。なぜかピットにいるチコとハーポはキャッチボールを始め、グラウチョはピーナッツを売りに。(その前のシーンから、バカバカしさ120%。ご興味ある方はこちらを)

マルクス兄弟は、1929年「ココナッツ」で映画に進出、パラマウントと契約・制作してきたのですが、本作からMGMに移籍します。その後の、MGMミュージカルに通じる感じもあります。ローザとロドルフォがデュエットする曲“Alone“の作詞は、「雨に唄えば」(1952年)の作詞や、多くのMGMミュージカルのプロデューサーとしても有名(プラス セクハラの悪名)で有名なアーサー・フリードです。監督は「チップス先生さようなら」(1939年)などで、アカデミー最優秀監督賞にノミネートされたサム・ウッド。

ちなみに、“ボヘミアン・ラプソディ“が入ったクィーンのアルバム「オペラ座の夜」(1975年)の原題“A Night at the Opera“は、この映画から来ています。マルクス・ブラザースの次作は「マルクス一番乗り」(1937年)、クィーンの方は「華麗なるレース」(1976年)、どちらも原題は“A Day at the Races“です。

先日ご紹介した、伊東四朗の評伝「笑いの正解」の中でも、伊東さんがマルクス兄弟について言及する箇所が登場します。

マルクス・ブラザースのファンは、世界中にたくさん存在しているのです



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