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最後の喜劇人と呼ばれて〜笹山敬輔著「笑いの正解 東京喜劇と伊東四朗」(その2)

(承前)

昨日、ダラダラと伊東四朗の思い出を書いたのですが、その伊東さんの評伝が笹山敬輔著「笑いの正解 東京喜劇と伊東四朗」(文藝春秋)です。

その副題にある通り、伊東四朗という“最後の喜劇人“を中心にしながら、“東京喜劇“とはなにかを掘り下げた作品です。

伊東四朗は、舞台で演じられる芝居やコントが大好きで、それが高じてその世界に入っていきます。そして、多くの先人たちから刺激・指導を受けながら喜劇人として成長していきます。

そこには、もちろん出会い〜縁があるのですが、それを引きつける伊東四朗の熱意・資質があったのだろうと思います。

出会いの一例は、テレビ史に残る井原高忠です。坂本九の「九ちゃん!」、「ゲバゲバ90分」などを手がけた日本テレビのプロデューサーですが、伊東さんがもらった台本にはこんなメッセージが書かれていました。

<「伊東様、コメディアンというものは歌い手より歌がうまく、踊り手より踊りがうまいものなのですよ、来週もよろしく」>(「笑いの正解」より、以下同)

これに加えるならば、“役者よりも演技が上手く“となるのでしょう。

井原は、自分のこの言葉に<非常に感銘を受けてくれたのが伊東さんなの>と話す。さらに、<本当にそううまくなくても、その域に達するまで鍛錬をする、ということが言いたいの>と記しています。

伊東さんは、<「長い芝居をギュッと圧縮したものがコントだと思う」と語る>。つまり、舞台役者と同等の演技ができなければ、面白いコントにはならないということで、(売れた)コント出身の芸人の多くが役者としても成功しているのは、こういう点にあるのでしょう。

本書には、このほかにも印象に残る多くの伊東四朗語録が収録されていますが、その一つが、<「クレイジーやドリフがメジャーリーグなら、私はマイナーリーグ。そこでリーディングヒッターになりたいと思ってやってきましたから」>。

さらに、伊東さんから若い人へのアドバイス。<「どんな仕事も手を抜くなよ。誰が見てるか分かんないぞ」>。

結果、伊東四朗はメジャーの中でも“最後の喜劇人“と呼ばれるまでになったのです。名付けたのは小林信彦ですが、伊東さんは<「小林さんがどういう基準で言ったのか分かりませんけど、ちょっと寂しいですね。“私で最後かい“って」>。

伊東さんは、“最後“にならないよう、東京喜劇の火を絶やさないためにも、新橋演舞場の板の上に立っています。私はその姿を見届ける予定です。

なお、著者の笹山敬輔は、1979年と私よりずっと若いのですが、芸人・芸能の世界を記しています。彼は、銭湯のお風呂桶に書かれた広告で有名な“ケロリン“を扱う、内外製薬(現富山めぐみ製薬)の三代目で現社長。社長業のかたわら、研究・執筆活動を行っています。小林信彦らが記録に残してきた“喜劇人“の世界を、未来へとつなげてくれている、頼もしい作家です


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