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今また手塚治虫「火の鳥」(その2)〜新作アニメを機に「望郷編」を再訪

(承前)

前回書いた通り、再度執筆が始まった「火の鳥 望郷編」は、1976年に朝日ソノラマが創刊した「月刊マンガ少年」の創刊号から連載が始まった。SF色が特徴の雑誌で、手塚始め大御所作家が執筆した。私は、創刊時は買っていなかったが、1977年石ノ森章太郎が「サイボーグ009 海底ピラミッド編」の連載を始めたので、その頃から購読し始めたと思う。

したがって、「望郷編」は連載時は途中から読み始めたと思うが、「マンガ少年」は並行して、「月刊マンガ少年別冊」として「火の鳥」シリーズを刊行した。雑誌と同じサイズ・紙質だったが、当時あのシリーズで、一種伝説となっていた「火の鳥」を読んだ人は、私を含め多かったのではないだろうか。

私はそのシリーズで「望郷編」を読んだわけだが、数年前に講談社版の「手塚治虫漫画全集」の電子版を購入し、その中の「火の鳥 望郷編」で再読した。

それから時間が相応に経過し、今回再度ひもといたのである。

あらためて読むと、「火の鳥 望郷編」は重いテーマを多数含んだ、手塚治虫渾身の作品であることを再認識した。

それも当然で、手塚は「火の鳥」を発表するプラットフォームとして、自身が経営する虫プロ商事により雑誌「COM」を発刊、「黎明編」から「羽衣編」までの7篇を発表した。しかし、親会社の虫プロダクションと共に経営は悪化、1973年に虫プロ商事は倒産し、手塚は大きな痛手を受ける。

したがって、「火の鳥」再開は、手塚自身が不死鳥のように蘇るための大仕事だったと想像できる。

「火の鳥 望郷編」は、アニメ「エデンの宙」同様、地球を離れたジョージとロミの物語から始まる。その子孫がカインであることも同じである。アニメは、その後に描かれるロミの人生、彼女の地球に対する“望郷“の念を実現するための行動、異星人の登場など。大きな流れは、原作を踏襲する。エンディングを除いて。

しかし、原作はそのボリューム、扱うテーマの多様さから、アニメ版とはかなり印象を異にする。

「望郷編」の前半には、“近親相姦“、“カニバリズム(人肉嗜食)“という、極めて重いものが登場する。人間が極限状態に置かれた時、仮に近親で交わらなければ子孫を残すことができない時、こうした行為は正当化されるのか。

これは、「望郷編」でもっともショッキングであるが、次に登場するのが異星人との関係による、種の保存行為である。

さらに、自然破壊、人間の欲望、現在のAIが抱える問題に至るまで、よくもこれだけのものをぶち込んだと思うほどの厚みになっている。

最後の最後には、サン=テグジュペリの「星の王子さま」まで登場する。

アニメ「エデンの宙」に刺激されて、多くの人が手塚治虫の力作「火の鳥 望郷編」、さらには“火の鳥シリーズ“を手にとることを期待する。

さらに続くのは、“もう一つ“の「火の鳥 望郷編」。そのことについては、次回

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