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書店に勤める会社員のエッセイ

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エッセイ集『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』にはあえて書かなかった、書店員っぽいエッセイはこちらに
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#日記

腐る程された質問に今さら答える

腐る程された質問に今さら答える

インタビューに限らず、商談で、飲み会で、腐る程されてきた質問がある。それなのに、今に至ってもまだ、上手く答えることができない。

ひと月に何冊くらい読むんですか?

1冊なのか100冊なのか、わからない。ひと月につぶグミを何粒口に入れるのかわからないくらいわからない。

だが、クリープハイプのアルバム「世界観」に収録された「バンド」という名曲で、そういう質問に《今更正直に答えて》いる姿がかっこ良く

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君たちは《何を食べ》どう生きるか

君たちは《何を食べ》どう生きるか

体がかたい人でもベターッと開脚できるようになる本が100万部売れたからといって、100万組もの足がきれいにパカーンと開いたとは到底思えない。おそらくまだ半分も開かれてはいないのではないか。

それは本の内容がどうとかでなく、脚は読むだけでは開かないという当たり前の理由による。少なくとも私が生で目撃したのは、その本を読んでいない母かよ子の180度開脚だけだ。その体勢で菓子パンを食べていたのだから、彼

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点と点と線と短歌

点と点と線と短歌

今日も本を買った。

本を買う行為は点だが、それはどこかの点から線でつながっている。

10年前からだったり、その点をもう憶えていなかったりもするが、今日のそれは、記憶に新しい数時間前の点。こういう勢いのある買い物って、クラクラする。

ランチタイムも過ぎた頃、チェーンのとんかつ屋へ行くと、中に入れなかった。
入口で客が団子になっている。
どうにか中に入ると、中国人と思しき2世代ファミリーが、食券

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なにを言ってるのかさっぱりわからない文

なにを言ってるのかさっぱりわからない文

全ての人に誤解がないように、誰にでもわかるように書こう書こうとすると、文章というものはみるみる面白くなくなるから困ったものである。

でも誤解しないでほしいのだが…と書いて、あっ、それは今からこれも面白くない文章になっていくってことか?と思ったが、多分違うと思う。思いたい。

この道すべるから気をつけてと言ったそばから自分がステーンとすべって恥をかくアレだったらどうしよう。

もういいや。

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なにを言ってるのかさっぱりわからない本

なにを言ってるのかさっぱりわからない本

全裸でベッドに寝っ転がって口を開けてスマホをいじっていても、自分が何屋であるかは決して忘れていない。

#字面は追えたがなにを言ってるのかさっぱりわからなかった本

タイムラインに流れてきたハッシュタグに、本屋センサーが反応した。

正座で猛然とTwitterを遡る。

一体どの本が、まるで異世界からの交信のような言われ方をしているのか。本屋として、見過ごすことはできない。

すると…出るわ出る

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弁当売りの書店員③

弁当売りの書店員③

弁当売りの書店員①

弁当売りの書店員②

『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』の重版に気を大きくした私は、有楽町、渋谷に続き、生まれ育った台東区の上野へと向かった。

1月6日(土)15時00分~「弁当売りの書店員 @明正堂書店アトレ上野店」

前々日に突然「やる!」と言い出したのだが、お店も出版社も対応が素早く、むしろ自分だけが間に合わなかった。

上野といえば、パンダ。新井・シャン

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弁当売りの書店員②

弁当売りの書店員②

弁当売りの書店員①

『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』の先行発売を兼ねた「弁当売り書店員@三省堂書店有楽町店前」で、うっかりみんなの優しさにほかほか弁当化された私は、師走で賑わう渋谷へと向かった。

12月19日(火)18時00分~「弁当売り書店員 @大盛堂書店前」

前回同様、その日の朝から後悔しかなかった。どうして「やる」なんて言ってしまったのか。 寒いし、有楽町と違ってアウェイ

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弁当売りの書店員①

弁当売りの書店員①

始まりは有楽町だった。たまたま通りかかったところに貼り出されていたアルバイト募集のポスター。あれがなければこうして本を書くことも、会社員になることもなかった。そもそも、この年まで生きていたかどうかも怪しい。私は本来、そういう人間だ。

私を真人間にしてくれてありがとうございます。

その感謝の気持ちを込めて、歌います。どうか聴いてください。

『弁当売りの書店員』(作詞:新井見枝香)

駅前の街路

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サイン以外何でもします

サイン以外何でもします

ここ10年で、日本一作家にサインを書かせた書店員は、私かもしれない。

新刊発売時の書店訪問では、欲張って段ボール単位でお願いすることもあったし、たまたま買い物に来た作家を目ざとく見つけて、バックヤードに引きずり込んだことも数え切れない。たくさん書きすぎて、自分の名前がゲシュタルト崩壊した作家もいた。

私はその横で、餅つきの「あ、よいしょー!」みたいに調子良く半紙を挟んだり、「どっこいしょー!」

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これは『アクシデント・レポート』が最高に面白かったこととは、全く別の話です。

これは『アクシデント・レポート』が最高に面白かったこととは、全く別の話です。

今からすごく恥ずかしいことを告白する。

なんだかもう、言っちゃいたい気分なのだ。

樋口毅宏の『アクシデント・レポート』という小説を、ここ2週間持ち歩いていた。600ページ超、ハードカバーの2段組で、価格は3,100円(税別)。存在がクレイジーだ。

この厳つい単行本のおかげで、トートバッグを右側に掛ける私のコートは、そこだけ擦れてテカテカしている。

でもそのテカテカを、悪くないと思っている。

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フリーアプリを入れたスマホを尻ポケットに入れながら。

フリーアプリを入れたスマホを尻ポケットに入れながら。

警察の拳銃は5発装填と言われるが、私のiPhoneも連写は5発までだ。
いつもシャッター音を消すアプリで写真を撮っているが、有料グレードアップをしていないから、5回に1回広告が表示される。それは左上の小さな×マークをタップしないと消えないため、必ず撮影が中断してしまうのだ。
今確認したところ、アプリで7314枚撮影していた。つまり通算1462回、見たくもない広告を見せられて、ともすれば大事なシャッ

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1銭も出ない内職とかやってます。

1銭も出ない内職とかやってます。

※少し文章を考えて訂正しました

子供の頃、お風呂掃除をすると、勉強机に500円の図書券が1枚置かれていた。

今考えると、そんな割のいいアルバイトはこの世にない。毎日やればよかった。

母親にしたら、500円玉をあげるのと図書券をあげるのでは、意味が違ったのだろう。しかし私にしてみれば、欲しいものがたいてい買える紙きれ、つまりお金とほとんど同義だった。

現在は図書券の発行が終わり、書店で買える

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今度は帯問題勃発

今度は帯問題勃発

川沿いに住む売れない小説家は、新刊に巻かれていて当たり前の帯を、あえて巻かないという目新しさに勝負を賭けた。はたして彼の本は、売れて重版がかかるのか、それとも水が戻った川に身を投げることになるのか。結果は『川沿いに住む売れない小説家は』をお読みいただくとして、それを書いた私が、来月自分の本を出す。

大失敗するかもしれないが、自分の本なら少なくとも作者には遠慮がいらない。そしてその挑戦にはお金がか

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