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夏目漱石『草枕』 (2)人名・作品名 章別編 – 索引で読む文学作品

「よし」と気合いを入れてみたが歯が立たない。

前回は『草枕』を「読みやすくするため」の手がかりをさぐってみようと、作品本文やその注釈に出てくるたくさんの人名や作品名の索引を作成してみました。詳しくは、第1回目の夏目漱石『草枕』索引づくり編をご確認ください。
そこからどう読み解けばいいのかと、いろいろと手がかりを見つけようとしているのですが、なかなか先に進めないでいます。
もう少し正確に言えば、これだと思った一つの手がかりを紐解いていくと、それだけでは作品全体を見通せないことが途中でわかってしまうのです。

そこで、今回は作品全体の構成を見通せるように、前回作成した索引を章別に並べ替えてみました。

夏目漱石の『草枕』は、十三の章からなるいわゆる中編小説にあたる作品です。頻出する和漢洋のさまざまな人名や作品名を、章別に並べてみた今回の索引を眺めるだけでも、十三のそれぞれの章がとのような特徴を持っているのか、どんな場面があって、主人公「余」のどんなモノローグが続いていたのかが浮き上がってくるようで面白いです。

索引づくり(章別並べ替え)

基本的には、第1回(索引づくり編)で作成した人名と作品名の2つの索引を、組み合わせて章別に並べ替えまえてみました。

・項目は、人名と作品名
 本文だけでなく、注釈に記載されているものも含みます。
・機械的に抽出し、出現順に並べます
 ()内は本文での表記です。

前回と同様に、太字は本文中に記載(および作品の場合は引用)されている場合で、他は注釈などに登場する項目です。
今回は、項目のあとに出現回数を追記してみました。数字のあとの()内は、作品全体での出現回数です。

それでは、夏目漱石『草枕』の索引をご覧ください。

索引 – 人名・作品名

  [一]
向井去来 1 (俳句)
パーシー・ビッシュ・シェリー(シェレー) 2詩『ひばりに寄せて』(To a Skylark) 1
蘇軾 1(2)
陶淵明 1(5)、詩『飲酒二十首 并序』 1
王維 1(4)、詩『竹里館』 1
徳冨蘆花 1、小説『不如帰』 1
尾崎紅葉 1、小説『金色夜叉』 1
陶淵明 1(5)、伝奇小説『桃花源記』 1
陶淵明 3(5)
王維 3(4)

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ 1、戯曲『ファウスト』 1
ウィリアム・シェイクスピア 1(2)、戯曲『ハムレット』 1
レオナルド・ダ・ヴィンチ 1
ディミトリー・メレシュコフスキー 1、歴史小説『神々の復活 レオナルド・ダ・ヴィンチ』 1
能『七騎落』 1
観世元雅 1、能『隅田川』(墨田川) 1
松尾芭蕉 1、紀行『奥の細道』 1
杜甫 1(2)、詩『飲中八仙歌』 1
孟浩然 1、詩『春曉』 1

  [二]
世阿弥 1、能『高砂』 2
長沢芦雪(蘆雪) 2、(山姥図)
広瀬惟然 1、(俳句の中)
正岡子規 1、(俳句)
ジョン・エヴァレット・ミレー 1(5)、絵画『オフィーリア』(オフェリヤ) 2(5)
和歌集『万葉集』 3
能『羽衣』 1

  [三]
洪自誠 1、随筆集『菜根譚』 1
高泉性潡 3(4)
隠元隆琦 1
即非如一 1
木庵性瑫 1
伊藤若冲 2絵画『鶴図屏風』 1
絵画『オフィーリア』(オフェリヤ) 1(5)
大慧宗杲 1
歴史書『後漢書』 1 故事
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 1(3)、絵画『雨、蒸気、速度』 1
円山応挙 1
サルヴァトル・ローザ(ロザ) 1

経典「大蔵経」 1 比喩
運慶 1、東大寺南大門金剛力士(仁王)像 1
葛飾北斎 1 、絵手本『北斎漫画』 1

  [四]
白隠慧鶴 1仮名法話『遠羅天釜』(遠良天釜) 2
歌物語『伊勢物語』 1
王維 1(4)、詩『鹿柴』 1
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 2(3)
孟子 1、四書『孟子』「離婁章句上」 1
孔子 1、四書『論語』為政第二(いせい) 1
ジョージ・メレディス 1(7)、小説『シャグパットの毛剃』 1
千利休 1
宝井其角 1
与謝蕪村 1(3)

  [五]
歴史書『史記』 1

  [六]
経典『法華経』譬喩品(ひゆほん) 1
公案集『碧巌録』 1(2)
ウィリアム・ワーズワース(ウォーヅウォース) 1、詩『水仙』(The Daffodils) 1
杜甫 1(2)
白居易 1(2)
李白 1
詩集『楚辞』 1(2)
文同(文与可) 1
雲谷等顔 1
池大雅 1
雪舟 1
与謝蕪村 2(3)
ゴットホルト・エフライム・レッシング 2芸術論『ラオコオン 絵画と詩歌の限界について』 1(3)
ホメーロス(ホーマー) 1
ウェルギリウス(ヴァージル) 1
蘇軾 1(2)、詩『春夜』 1

  [七]
白居易(白楽天) 1(2)詩『長恨歌』 1
キリスト(基督) 1(3)
アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーン 1
ジョン・エヴァレット・ミレー 4(5)絵画『オフィーリア』(オフェリヤ) 2(5
長唄『勧進帳』 1
歴史書『書経』 1
思想書『淮南子』 1

  [八]
青木木米 2
頼山陽 8
頼春水 4
頼杏坪 2
荻生徂徠 5
細井広沢 1
高泉性潡 1(4)

  [九]
ジョージ・メレディス 6(7)、小説『ビーチャムの生涯』 6

  [十]
注釈書『春秋左氏伝』 1
ウィリアム・シェイクスピア 1(2)、戯曲『アテネのタイモン』 1
詩集『楚辞』 1(2)
芸術論『ラオコオン 絵画と詩歌の限界について』 2(3)

  [十一]
ローレンス・スターン 1小説『トリストラム・シャンディ』 1
岩佐又兵衛 1
趙州従諗 1、公案集『碧巌録』 1(2)、公案集『無門関』 1
晁補之 1古典散文選集『古文辞類纂』 1

  [十二]
キリスト(基督) 2(3)
オスカー・ワイルド 1、書簡『獄中記』 1
ミケランジェロ・ブオナローティ(ミケルアンゼロ) 1
ラファエロ・サンティ(ラファエル) 1
フレデリック・グドール(グーダル) 1
高山樗牛 1、日本美術論『美的生活を論ず』 1
藤村操 2

  [十三]
呂尚(太公望) 2
ヘンリック・イプセン(イブセン) 1

底本などは、第1回(索引づくり編)をご確認ください。

章別の索引をつくり終えて

やはり、冒頭の「山路を登りながら、こう考えた」ではじまる一章や、夜中に目が醒めて夢現(ゆめうつつ)の中であれこれと思案する三章、誰もいない宿で春の夕暮れを眺めながら詩作に耽る六章など、主人公「余」のモノローグが多い章は索引の項目も多くなっていますね。そして、一つの章の中でも、さまざまなジャンルに考えが及んでいることがわかります。
それに対して、床屋の親父にあらっぽく髭をあてられて辟易する五章は数も少ないですし、志保田の老人に茶を振る舞われる八章はジャンルも限られているなど、それぞれの章の特徴がよく見通せる索引になりました。

次回は

最後までご覧いただき、ありがとうございます。
ここまでくれば、『草枕』を「読みやすくするため」の手がかりをどこから始めるかです。
容易に思いつくのは、「俳句」や「漢詩」といった同じジャンルの項目をグールプ化してみるやり方だと思いますが、『草枕』はそんな単純な構造・仕掛けにはなっていない感じがします。
出現回数が多いからといって重要度が高いわけでもなさそうですし、注釈にある項目も重要な手がかりだったりする場合もありそうです。

次回は、霎時施(こさめときどきふる)ごろの予定です。

/三郎左

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