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【選んで無職日記65】親子三世代と赤の他人


2024/9/17-19

 午前中着の飛行機で、夫の母と祖母が私たちの住む街にやってきた。
 祖母とは今年頭に一度、祖母宅にお邪魔したとき以来だ。義母は職場のお休みがなかなか取りづらいのに、遠方である北の大地にわざわざ遊びに来てくれた。

 ついてすぐ、近所の有名な回転寿司に二人を連れて行く計画を立てていた。ただしその店は観光客を含め本当に混み合うので、オープンと同時に整理券を取りに行くと、私たちは52番目だった。席に着くまでに二時間はかかるという。もともと私だけ先に店で待っていて後で合流しようと思っていたが、二時間もあるのでは私も暇なので、夫と一緒に迎えに行くことにした。

 最寄駅に車で迎えにいくと、ニコニコ笑顔の二人が横断歩道で待っていた。
 長距離移動を繰り返しているはずの祖母は疲れを微塵も感じさせず、嬉しそうによろしくねと言ってくれた。

 とりあえず時間はあるのでまずは休憩すべく、近所のコインパーキングに車を停めて純喫茶に向かったが、昼近くだったので店外まで人が並んでいたので諦めて別のカフェへ。運良くあまり待たずに入れたのでコーヒーを注文し、一時間半ほど喋ってから回転寿司に向かった。
 この店は整理券番号とLINEが連携できるシステムを導入しており、順番が近くなるとLINEで呼んでくれるという便利な仕様になっている。
 もうすぐで順番だから向かおうかと車を走らせ店内に入ったが、LINEが来たからすぐに食事ができるのではなく、「呼ばれるまで店内で待っててね、すぐに呼べるようにLINEするからね」というまさかの認識違いで、結局店に入ってからも三十分ほど待つことになってしまった。
 飛行機で疲れている二人にお昼ご飯まで待たせてしまって申し訳ないと思いながら、久々に食べる回転寿司に私も箸が止まらず、大好きなネギトロなどを頬張る。祖母はホタテをいたく気に入ってくれ、こんな美味しいホタテ初めてと嬉しそうに話してくれた。

 その後私たちの住むマンションまで移動し、二人がその日泊まるゲストルームを案内した。同じマンション内に格安で泊まれる部屋があり、そこを用意していたのだ。アメニティはほとんどなく、素泊まりも素泊まりといった部屋ではあるが、景色は良いし新築で綺麗だ。
 荷物を置くと、祖母が私たちの部屋を見たいというので紹介し、みんなでお菓子を囲みながら休憩する。
 祖母はとってもお話好きで、自分の身の回りで起こることを冗談を交えてお話しする。それに義母と夫がツッコむので、親子三代の漫才を横で見ているかのようだった。カラオケで歌うことが大好きなのが理由だからか大きな声でハキハキと喋るし、見ていてとっても元気そうで安心した。どこどこが痛いとか、整体に行ったとか、年齢相応に体の不調を訴えてはいたが、「いや全然元気ですやん」というくらいには元気に見える。

 そんな祖母も飛行機での長距離移動があって疲れているだろうからと、夜までそれぞれ部屋で休むことになった。私はベッドでゴロゴロしているうちにいつのまにか寝てしまい、起きたら五時ごろだったのでそろそろ支度をしないとと思ったが、義母たちからの連絡がないまま結局七時半に家を出た。
 タクシーで繁華街に向かう中、少し寝れましたかと聞くと、祖母より義母のほうが寝ていた様子。祖母は睡眠薬を飲まないと寝られないという。義母も夫もショートスリープで活動できるタイプなので、寝なくても活動できるのは血筋なのだろう。
 ついてすぐ有名な大通りに祖母が行きたいというので連れていくと、一杯飲みたいとのこと。この家族は酒にも強い。酒が好きだし、よく飲む。歩いていた道沿いに雰囲気の良いウィスキーバーがあったので入り、三人はハイボールを、私はウーロン茶を注文し飲んだ。
 予約していたジンギスカンは気に入って何回か通っているところで、お肉はもちろん野菜が美味しいのが魅力だ。一杯飲んで陽気になったまま店に向かい、四人で酒を交えながらモリモリお肉を食べて帰宅。

 次の日の朝はモーニングを食べに街中のカフェへ行った。昨日と打って変わってあまり祖母の元気がなさそうだ。睡眠薬を飲んだけれども興奮してあまり寝られなかったとのこと。旅行あるあるだ。
 祖母と夫はコーヒークリームとフルーツがはさまったサンドを、義母と私はバタートーストを注文。パンが甘くてとても美味しかった。顔色が良くなかった祖母が、こんなの初めて食べると言ってモグモグ食べてくれ、フルーツサンドを気に入ってくれたようで、食べ終わると元気にまたお喋りを始めた。
 その後また一度家に戻り、家でコーヒーを飲んで団欒。この親子三代は昼過ぎに温泉旅館に一泊するために市内を離れる。慣れないもてなしで疲労感を感じていたが、もう少しだ〜と思いながらお喋りしていた。

 昼過ぎに家を出て、ラーメンを食べに向かうという三人はそのまま車に、私はちょっと用事があるのでと言ってデパートに下ろしてもらった。
 ようやく自由だ!と失礼ながら思う。やはり、家族でいると家族だけの話になるから、私がわからない会話も多い。そうなると徹底して聞き役というか、オブザーバーとなるしかないので、黙っている時間も長く、「誰の話だろう・・・」と苦笑いしてしまう瞬間もあったりする。
 夫には私の実家に来てもらうことが多いので、今まで苦労かけたなと反省する。私がこの日感じた感情を今までに彼も体験していたことだろう。みんなが楽しい会話を提供できてこそ、本当の会話だな、と思う。反省。ごめんな。

 それに、今日は私にとって少し特別な日で、会社員最終日だった。要するに明日からはどこにも属さない、正真正銘本物の無職になる。今日で有給が切れるのだ。いざ会社員最終日と思うと、ちょっと胸がドキッとして不安に思う。明日からは私、何者でもないんだな、と思う。自分で選んだ無職生活を、「やっぱやめ!」としたい気持ちが1%はある。そしてそんな日に夫もおらず、友達を誘ってご飯に行くこともできない状況で、ちょっと心寂しかった。
 だから今日は買い物でもして少し気分を上げようと、デパートにおろしてもらったのだ。前から気になっていたアイセラムを購入しようと、一度も買ったことがないコスメブランドに突入すると、店員さんの対応が素晴らしかったので大満足した。
 お肌に合うファンデーションのサンプルを差し上げたいのでお肌の色を測っても良いですかと言われ、機械に頬を近づけると、四十種類ファンデーションの色があるうちの一番白い色ですね!と言われて歓喜した。肌が白いですねと言われるのはやけに嬉しい。だがしかしここで私のビジネスマインドが働き、「本当はもう少し暗い色だけど、あえて明るい色だと言うことで顧客満足度を上げているのではないか・・・?」とか、そういうような考えに至る。私がBAのお姉さんならそうするからだ。人の言葉を素直に受け取れないのもいかがなものか。

 ニッコリ顔で店を出て、アインツアンドトルペに向かう。ここ最近私は金髪にしていて、金髪ならシャネルのような朱色の赤リップがもしかしたら似合うかもしれないと思い、何日もあちこちで探していたのだ。もちろんシャネルにも足を運んだが、赤リップは飽きがすぐくるだろうし、それなのに五千円以上出して一本買うのかと無職魂が働き、できればプチプラの韓国コスメあたりでいい色を探したいと思っていた。
 今日は見つかるかなと不安になりながらも店内を物色し、たまたま店頭に出ていたマット系の赤で、ピッタリこれっぽい!という色が見つかり、えいやで購入してトイレでつけてみると、自分の理想のカラーだったので個室でニンマリしてしまう。コロナ前は店頭のリップを試しづけするのが当たり前だったのに、もうその行為は私には出来ない。いくら使い捨てのチップが用意されていても、衛生的に許せないのだ。

 ていうか、赤リップを探すのにこんなに苦労したことはない。私と赤リップの歴史は長い。
 高校生の頃、ブランド系のコスメにハマり、すっぴんにシャネルの真っ赤なグロスをつけて学校に行っていた。ラメも何も入っていない透明感のある赤でずいぶん気に入っていたし、ノーメイクにつけていたのでヘルシーな感じも出るから我ながらセンスがあったと思う。
 大学生になって夜遊びする時にも赤リップは必須だった。その頃になるとMACのボルドーとか、濃くてモチが良いスティックタイプのものが好きでよくつけていた。オルチャンメイクが流行っていた時代なので、肌は白ければ白いほどいいし、リップは赤ければ赤いほど可愛かった。
 それが今はもうイエベブルベとかいって、赤リップはもう流行ってさえいない。モーブとかミュートとか桃とかいって、ナチュラルなモテに特化したメイクになっている気がする。私が学生の頃は海外セレブのメイクが流行っていたから、ハーフっぽくなれるような濃いメイクの子がたくさんいたのに、時代が変わるとメイクも変わりますね。

 全然関係ない話をしたが、欲しかったコスメを手に入れて満足した私は歩いて家に帰った。
 家についてもまだ夕方で、もうたっくさんゴロゴロしたろ!とベッドに横になったり、YouTubeを見たりした。しかしこういう時に限って集中して本を読んだり、普段やりたいことが出来なかったりするのもよくある話。だらしない夜ご飯を作り、何度も見ている映画『あの子は貴族』を見ながらダラダラと食べ、お風呂に入って寝た。

 次の日起きると、昨日から始まっていた生理が原因で気持ち悪さがあった。昨日は痛み止めを飲んでいて大丈夫だったが、今回は経血の量も多くてモヤモヤする。しかしこの日は無職一日目なので年金を厚生年金から国民年金に切り替えなければならないため、区役所に向かう準備をした。
 映画『告白』を見ながら化粧をする。私はこの作品が大好きで、本当に何度も見ている。昨日から私は映画のリバイバルタイムのようで、好きで何度も見ている映画を見返す二日間だった。

 年金の手続きをするにあたり、前日に区役所に電話をして必要なものなどを確認させてもらったが、電話口の方の対応が非常に良くて嬉しかった。先日同じ区役所の別の窓口にも電話をしたが、その時も対応が良かった。良い仕事をする人の周りには同じような人が集まるなと思う。

 本当は車で行きたかったが夫が使っているので、シェアバイクをかっ飛ばして向かう。まあまあの距離を漕いだので、ついた時には汗をかいていた。
 年金の窓口を総合受付で確認すると、窓口のすぐ右隣だった。灯台下暗し。整理券を発行し待っていると、カウンターから英語が聞こえた。
 英語しか話せないと見える海外の女性と、その横には通訳係でついてきたのか日本人の女性が座って窓口の人と話をしていた。外国人女性の方が年金について何か手続きが必要なようだったが、私でさえあまりよくシステムを知らないのに、日本語がわからない上にさらに年金のことだなんて大変だなと思う。
 ほどなくして私の順番が回ってきたので、国民年金に切り替えたいですと話すとスムーズに申し込みが進み、十五分くらいで受付が終了した。窓口の担当者の方も対応が良かったので、この区役所推せるなと思う。

 またチャリをかっ飛ばし、家と区役所の途中にある個人経営の書店に向かう。ここは何度か通って、個人出版の本などを購入したりしている。オープンしたての店内で誰もいなかったが、本を一冊買って帰宅した。
 帰っても食欲があまりないので映画『湖の女たち』を見ながらゴロつく。ずいぶん長い映画だった。松本まりかと福士蒼汰の身長差にドキッとする。
 映画を見ている途中に夫から連絡があり、これからのスケジュールがシェアされる。体調があまり良くないので昼食はスキップで、空港まではお供しますと返信した。

 午後三時くらいに夫たちと合流し、空港まで向かう。旅館を出た後に寄った植物園で買ったという、百合根入りのどら焼きをお土産にもらう。私は百合根が大好きなので嬉しい。
 空港に着くとお土産を買うのに店を回った。
 途中、祖母と二人きりになる時があったが、また明日来るわとか、明後日来るわとか言っていつもより口数がさらに多かったので、帰るのが寂しいのだなと思う。久々に孫に会えて皆で温泉にも一泊できて、楽しかったのだろう。
 明後日待ってますよ、また迎えに来ますよと冗談を言い合って笑っていると、使っていたハンカチをみんなに内緒であげると言って、履いていたデニムのポケットに押し込まれた。
 さっき一緒にトイレに行った時に、祖母が使っていたフェイラーのハンカチが可愛くて、可愛いですねと私が言ったのだ。孫の嫁に何かしてやりたいという気持ちが感じられて、何故か泣きそうになってしまった。
 お土産を買っている間、義母からもプレゼントと言ってさっき買ったバウムクーヘンやラスクを頂戴する。来る時も沢山のお土産を頂いたし、ご飯もほとんどご馳走してもらったのに申し訳なかった。
 大量に購入したお土産を義母のトランクにしまい、最後にラーメンを食べにレストラン街へ向かう。ワカメ入りの味噌ラーメンは初めてだねと言いながらみんなですする。義母は好きなメーカーの生ビールを飲めて嬉しそうだった。
 本当は手荷物検査前に渡そうと思っていたけれど、バタつきそうなのでラーメン屋でメッセージカードを義母と祖母に手渡す。嬉しそうにしている様子を見て、準備して良かったと思う。

 時間が来たので手荷物検査のレーンへ送ると、祖母が泣きそうな顔で笑っているのでハグをした。「私最近ハグが大好きなの!」と笑顔で言っていたのを思い出したからだ。私からハグをすると、祖母はその何倍もきつく抱きしめ返してくれた。またいつでも来てねというと、また明後日来るからねと言って帰って行った。義母はこういうとき割とクールにさらっと行くので、かっこいいなと思う。

 夫と二人を見送って、せっかく空港に来たのでソフトクリームを食べ、カプチーノを買って車で帰った。

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