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【ココロコラム】知ることの大切さと、心を守ることの大切さ

今回は【共感疲労】についてお話しさせていただきます。

TwitterやFacebookなどのSNSを眺めていると世界各地で起こった衝撃的な映像がシェアされ流れてきます。
こうした事件について、ちゃんと知ろうとすることは大切です。決して対岸の火事ではなく、今の日本はもはや無関係とは言えません。

ただ、事実関係をきちんと知ることと、衝撃的な映像を見ることはまた別のことです。
目をそむけたくなる現実も直視しなければならないこともあります。
しかし、衝撃的すぎる映像を見ると、それだけで、自分が体験したことでなくても、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になってしまうことさえあります。
そうすると、かえって冷静な判断もできなくなりますし、精神的にも身体的にも苦しむことになってしまいます。

例えば、「ジョーズ」のようなサメの出てくる映画での実験があるのですが、映像を見てどんなにドキドキしても、悲鳴をあげても、それはやはり実際に危険に遭遇したのとは違いがあることがわかっています。

「これは映画だ」とどこかでわかっているので、実際にサメに襲われたときのような、精神的ショックを本当に受けることはないのです。

でも、東日本大震災が起きたとき、その映像を見た多くの人が、精神的なダメージを受けました。映像だけでも、心の傷となる場合があったのです。
これはどうしてかというと、映画の場合とちがって、実際に起きたことなので、被災した人たちの苦しみや悲しみを想像してしまうためです。
これを【共感疲労】と言います。他人の痛みや苦しみに共感するあまり心が疲れてしまうことを言います。

どんなに深く共感しても、それが1日くらいのことなら、【共感疲労】にまでは至りません。しかし、何日も連続すると、だんだん心が疲れてしまいます。

これは介護士、看護師、ボランティアなど、痛みや苦しみを感じている人たちと日常的に接して親身に世話をする人たちに、よく起きることです。
ですから、あえて「これは自分のことではない」と言い聞かせることが必要になってくるくらいです。

宗教的な対立などの背景で事件が起こった場合、報復が行なわれることがあります。その場合は、さらに報復に対する報復という、負の連鎖が泥沼化していくことが予想されます。

また、事件をきっかけに、これまであまり日本では大きく報道されてこなかった、過去の事件についても、いろいろと情報が流れるようになってきています。
欧米での被害ばかりが注目されがちですが、イラクやアフガニスタンやパキスタンやナイジェリアやシリアで、いかに多くの人が亡くなっているかなど……。

もちろん、こういうことについて、ちゃんと知っておくことは大切です。
「嫌な話だから、まったく無視して、楽しいことだけを考えるようにする」というのでは、それはそれで問題があります。
日本の政府も、今後こうした問題に参加していこうとしています。それについてどう思うのか、選挙でどう自分の意志表示をしていくのか、ひとりひとりが問われています。

将来、日本でもこういうことが起きるかどうかは、そうしたひとりひとりの判断にかかっています。

とはいえ、あまり悲惨な映像は、見ないようにしたほうがいいでしょう。
「目をそむけてはいけない」と思うかもしれませんが、先にも述べたように、心の傷となってしまってはよくありません。
当事者に共感することも大切ですが、それもやりすぎると【共感疲労】になってしまいます。

インターネットの発展による情報過多の時代の今、衝撃的すぎる映像と、【共感疲労】にはくれぐれもお気をつけください。

(精神科医・西村鋭介)

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