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【ココロコラム】上手に怒りを発散させる方法

誰しもむかっときて怒るときがあります。怒るのはやむをえないとしても、なるべくことを荒立てたくないものです。爆発してしまうと、そのときの印象は、ふだん親切にしていたとしても、十倍ぐらい強く相手の頭に残ってしまいます。

普段は優しくても、怒ると何をするかわからない人というようなイメージが焼き付いてしまう。これは、ものすごく損なことです。こうならないためには、怒るときに注意したいことをいくつか知っておく必要があります。

怒ったときは、なるべく行動しないようにすることです。手が出るなど暴力を振るうのは問題外として、なにか新しいことを始めたりするのもやめたほうがいいでしょう。怒りに任せて思いつきでした行動というのは、たいてい収拾させるのに苦しむことになるからです。

怒りの対処行動でよくあるのが、壁を殴るなど、物にあたることです。これは、心理学的にはっきり間違いです。サンドバッグを殴った場合と、ただ感情をやり過ごしていた人を比べると、サンドバッグを殴ったほうがかえっていらいらするという結果が出ています。物にあたると、かえって攻撃性が強まってしまい、いらいらするのです。同様に、人にあたるのも間違いです。八つ当たりをする人はどこにでもいますが、自分も相手もいらいらするだけです。慎みたいものです。

では、怒りそうになった時望ましい行動は何かというと、子供や動物など、弱いものや小さいものを連想することです。よほど性格が曲がった人でもない限り、弱いものに対しては保護的な感情が働きます。それを利用して、怒りを和らげることができるのです。

また、まったく別のことを考えるのも効果があります。仕事でいらいらするのなら、家庭のこと。人間関係で怒っているなら、旅行の計画のことなど、何の関係もないことをさっと頭に浮かべることができれば、それだけでずいぶん怒りはおさまるはずです。

怒るときは精神が興奮しています。そうすると、なぜか頭の回転がふだんよりよくなってしまう人がけっこういます。すると、「そういえばこの前も失敗した」とか「そもそも、やる気がないんだ」などと、別のことや以前のことを持ちだして、今の怒りに加えてしまいやすい。これは、怒る上で大いに気をつけないといけないところです。その場限りのことならともかく、他のことまで入れて複合的に怒るとなると、深刻な人格否定になってしまいます。そして「言わなければよかった」と後悔するような失言を口走ってしまうのは、たいていこの種の「そういえば」「そもそも」といった連想が働いたときです。気をつけたいものですし、怒っているときに思いついたことは、ほとんど間違いなので、話さないようにすると、冷静なうちからよくよく認識しておいたほうがいいでしょう。

怒りっぽい人は、皆さんの周りにもいると思います。つまらないことをこまごまと言っては腹を立てたり、時々爆発して、手が付けられなくなったりする。

よく怒る人を観察していると、多くの場合、その人が無茶な要求をしているか、根本から間違っているかです。内心本人もそれを知っているのに、それをごまかすように「怒る」という行動に出ている場合が多々あります。そして、怒りを抑える技術がないため、短絡的な行動に出て、ますます人間関係を悪くしたり、社会的信用を失ったりする。そうなれば当然面白くありませんから、さらに怒りっぽくなるという悪循環が成立しています。

上手に怒りを発散することは、生きる上で意外に大切な技術の一つです。皆さんの技術も教えていただきたいと思います。
(精神科医・西村鋭介)


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