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【ココロコラム】精神科クリニックは役に立つのか?

昨今、都市部を中心に精神科クリニックが急増中です。
少し数は落ち着いてきましたが、10年前の2倍にはなっているでしょう。
それだけ心の悩みを抱えている方が増えているということでもありますが、精神科クリニックは果たしてその希望にこたえられているのかどうか?
一度振り返ってみたいと思います。

クリニックを開業する精神科医の平均的なキャリアとしては、卒業後、大学病院や単科の精神科病院でトレーニングを10年前後積んだ人が多いでしょう。
ここまでくれば、一般的な精神科医としての腕前は十分です。

ところが、この「精神科医としての腕前」が、都市部の精神科クリニックの需要に必ずしも一致していないところに、現在の日本の精神科医療の問題点があるような気がします。

精神科医としての臨床経験というのは、要するに、統合失調症を中心とする入院患者の幻覚や妄想をいかに短期間で落ち着かせるかとか、うつ病の自殺企図を何とか鎮静させるとか、重度の認知症の高齢者をどうにか施設入所レベルにしていくといった、病院と連携して、短期決戦で重症の方の症状をよくすることに重点が行きがちです。
治療も薬物療法が主体ですから、どうしても精神療法はなおざりにされがちです(精神科医なのに!)。

一方、都市部の精神科クリニックの患者さんは、ほとんどが軽症うつ病、あるいは適応障害やパニック障害などといった不安障害圏で、軽症の方を精神療法中心に根気よくみていく姿勢が求められると思います。
これは、入院患者を短期間で治す方向性とはかなり異なりますし、薬物療法も大事でしょうが、それと並行して精神療法の重要性がかなり増してくるでしょう。

ところが、精神科医は精神療法の体系的なトレーニングを受ける機会は実はありません。
みんな自己流に勉強してやっているのが実情です。
したがって、技量に個人差がかなり出るといえます。

話の聞き方の上手な人、下手な人。あるいは個人のキャラクターや人当りによって、同じ薬を出していても、治療成績に差が出てしまいます。

かといって、話を長く聞いてくれれば精神療法が上手というわけではない点には注意しましょう。
研修医が長時間話を聞いて、聞かなくてもいい過去のトラウマをほじくりかえし、かえって悪化させるような事例がよくあります。
短時間でも、聞くべきことを聞き、親身になってくれるかどうか。時々、いいアドバイスをくれるかどうか。などで判断するといいかもしれません。

よくない精神科クリニックの医者は、開業しても発想が勤務医時代と一緒です。
なるべく外来を短時間で終わらせたいから、あまり話も聞かないし、何か症状を訴えたら、薬を追加する。
とにかく、話が薬中心で、患者さんの人間や人生に全然向き合っていないという特性があります。
これではいい診察はできません。

ただし、こういう診察をするほうが、短時間でたくさん患者さんを診られますから、流行ります。
一般的に、ものすごく繁盛している精神科クリニックほど、その宿命として、一人当たりの診察時間は短くなってしまいます。その分、あまり多くを期待できないことになります。
当初は良心的な医療を心がけて開業した医者でも、良心的なゆえに患者さんが集まり、そのうちにどんどん短時間診療になってしまう。そのような図式が成り立ってしまいます。

では、本当に精神科クリニックは役に立つのか? 役に立つとして、どのようなクリニックを選べばいいのか?
別の記事でも今後取り上げる予定です。

(精神科医・西村鋭介)

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