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【ココロコラム】小さな喜びを見つけて楽しく働く

早期退職された方とお話をする機会があったのですが、みなさん異口同音に、
「仕事をしていた時代は、毎朝早く起きて眠いまま会社に行っていた」
「年々仕事量が増えて上からも下からもプレッシャーを受け、夜はだらだら残業するか行きたくもない飲み会。たまの休日もあっという間に過ぎる」
「それに比べたら今は自由そのものだ」
という趣旨のことをおっしゃっていました。

うらやましいなと思いましたが、では早期退職を人に勧めるかというと、必ずしもそうではないそうです。
「自由時間ばかりで、何をしたらいいかわからない」
「ときどき仕事が恋しくなることもある」
「職場で別の働き方があったはずだ」
と、みなさんおっしゃっていたのが、とても印象に残りました。

仕事をやめることが、即、自由な人生を意味するとも言えないようです。仕事は人生の大きな柱。柱を失うと、何をしていいかわからないこともけっこうあるようです。

仕事は面白くないことも多いです。意味のない会議や、全くウマが合わない上司や同僚、不毛なうわさ話や足の引っ張り合い、なにか失敗すれば怒られる。普通の会社でもあることでしょうし、精神科医にもあります。

しかし、仕事のマイナス面ばかりをみても、よいことはありません。一日の大きな時間を占めている時間です。ことさらいやな面だけを見つめていても損です。「つまらない」「何にもいいことがない」とぐったりしながら仕事をしていても、能率は下がりますし、健康的にもよくありません。

マイナスのエネルギーは、ますますマイナスを呼ぶ傾向があります。つまらない、苦痛だと感じながら仕事をしていると、いっそう苦痛が増しますし、同じようなことを思っている人が集まって、よりマイナスの方向に進みがちです。「だるい」「早く終わらないかな」と口にしている人は美しくないですし、重要な仕事を任せようという気にはなりません。精神科的にも、仕事の苦痛が大きいほど、うつ状態になりやすいのは言うまでもありません。

もちろん、つらいものをつらいということは大切です。そして、それを他人に話すことも大事です。しかし、どんな仕事であれ、どこかには好きなところ、楽しいところ、誇りに思えるところがあるはずです。なにか一つでも、仕事に関してポジティブな側面を見つけておくのがオススメです。何もないという場合でも、むりやり自分で見つけましょう。「今日は何分でできた」とゲーム感覚を持ち込むのもよし。「○○さんが喜んでくれた」など、個人的な喜びでもよいでしょう。あるいは、10分ぐらいでもいいから仕事の勉強をするのもよいと思います。

小さな工夫をして、仕事に関する、ちょっとした喜びや進歩した感覚があったら、書き留めておきましょう。一つ一つは小さなことでも、蓄積していくうちに、けっこう大きな楽しみややりがいになります。「今の仕事に楽しいことなんかないや」というのは間違いです。負荷や苦痛が大きいからこそ、なおさらプラスの面を引き出しておく必要があるのです。仕事について、何か楽しさなりやりがいなり、プラス面を一つでも見つけることは、メンタルヘルス的にきわめて大切なことです。

仕事そのものがやりがいに満ちていればそれがベストですが、なかなかうまくいかないこともあるでしょう。しかし、仕事にいつも苦痛やプレッシャーを抱えている人と、たとえ小さくても仕事の中身に楽しみや喜びを感じている人とでは、かなり生活の質に差がつきます。そして、小さな喜びは、自分で工夫すれば得られるものです。

(精神科医・西村鋭介)

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