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【読書記録】川上弘美さんの『東京日記7 館内すべてお雛さま』を読んだ話。

川上弘美さんの『東京日記7 館内すべてお雛さま』を読んだ話をします。

この本の前に読んでいたのが『皇子たちの悲劇 皇位継承の日本古代史』で、ものすごく殺伐としていたので、単純に癒しを求めました。
以前もnoteに書きましたが、川上弘美さんの作品、特にエッセイは、私にとってメンタル落ち込んだときの常備薬なので、ちょっとまずいなと感じたら手に取るようにしています。
言葉の選び方、文章のテンポ、世界観、それらが好きな作家さんなのですが、そういう感性の合う作家さんを見つけるって、生きる上で重要なことだなと思ってます。自己啓発本では、ちょっと巡り合えない心地よさですからね。

で、『東京日記7 館内すべてお雛さま』ですよ。
もう20年以上続いている『東京日記』のシリーズ第7弾。昨年刊行の本なので、ちょっと今さら感はありますが。
ちなみに、前回『東京日記』を読んだときの記事はこちら⤵

川上弘美文学の長所

もう何度も書いている気がしますが、川上弘美文学(特にエッセイ)の良さは、

・誰も否定したり排除したりしない。
・己のダメな部分も肯定的に表し、慈しみを持って見つめていること。

以上2点にあるように思えます。

例えば、年を取ることに悲観的になるのではなく、おかしみとともに受け止めるというか、「私たちの若い頃に恐竜はいなかった」とか「トレンディードラマを見てましたと言っても通じない」とか、卑下するのではなく楽しむ感じがあって、そういう部分にふふふと笑ってしまうのです。

私は川上弘美さんより少し下の世代なので、60代になることに恐怖みたいなものもまだ少し抱いています。高齢者の域に踏み込む怖さというか。人生の終焉に向かっている怖さというか。
でも、怖いと言ったって人生はいずれみんな終わるし、ならば楽しく生きた方がいいに決まってる。

ないものねだりをしたり、他者を恨んだり妬んだり貶めたりしない。
そんな強さ、潔さが、川上弘美さんの魅力なのだと思います。

人間の孤独さ

この本の中で、川上弘美さんの「友だちいない話」が取り上げられていますが、読んでいるとちょくちょくお友だちのことが出てくるんですよね。
いやあ、川上さん、お友だちいらっしゃるじゃないですか、とツッコミそうになったり。
でも人間って、時に「自分はひとりかもしれない」って思う生き物なんだろうな、とそこは思いました。

というのも、この本を読みながら、「私って友だちいないなあ(東京に)」というのをめっちゃ感じていたんですね。
都内に15年も住んでるのに、友だちいない。ママ友とも疎遠になったし、職場仲間とLINE交換してないの私くらいだし、ましてオンライン飲み会なんてしたこともない(そもそもアルコールを飲めない)。
家族と住んでいるから会話できてるけど、家族がいなかったら、誰とも喋らない生活してるんでは? と思ったり。それはしんどいわ。

そのしんどさがわかるものの、じゃあご近所の独居老人の方をお茶に誘おうという行動力はなく、鬱々といずれ来る孤独をかみしめる。
人間って最終的に、一人で生きて一人で死んでいくしかないんだよなあ。

寂しさから誰かに連絡を取ることは重要だけれど、誰かに依存しちゃいけない。誰かは私のために生きているんじゃない。
つながりをつくることが困難であれば、自分ひとりでできる代替行為をおこない、孤独感をやりすごすべし。
川上さんはそれを実践されていて、その日々もたんたんと文章にしてらっしゃいます。もはや自己啓発本ですね。

私ひとりじゃないんだ、同じこと考えてる人がいるんだ。
そう思える文章に出会うって、人生で必要なことなんじゃないでしょうか。

ダメな人生も尊重するのが民主主義

この本を読んでいると、結局、ひとりひとりの完璧じゃない人生を尊重すべきだし、それこそ人間の尊厳を守る民主主義じゃないか、と思うに至ります。

生産性や能力主義で結果を残せなくてもいい。
ひとりひとりの人生を慈しむことが大事で、他者の人生を理解できなくてもその尊厳は守るべきだし、その行動こそが民主主義。

川上さんの作品の根底に、倫理観や人道主義があるということで、いやそんなの当たり前じゃんって思うんですけど、今日日それらを逸脱した文章が日本語界隈にときどき流れてくるので、こういうことすらわざわざ書く必要があるのかよ、国家崩壊だよ、とも思います。
なんかね。
政治家が税金払わずにすましてるような国だから、まあ人心がささくれ立つのも仕方ないわな。でも、矛先は弱者ではなく強者に突きつけないと、最後は一億層玉砕だよ。

エッセイも文学作品なので、読むと著者の考え方に触れることができるし、作家さんはとにかく本をたくさん読んでらっしゃるので、作家さんを通して文学的視野を読むことができます。

しんどい時に「頑張れ頑張れ」と応援されるようなビジネス書を読むのも一つの手だとは思いますが、年を取ると、頑張っても能力の限界(というか加齢による低下)と闘うのが関の山で、これから能力が飛躍する確率にかけるというのもちょっとありえないので。
ダメな自分を慈しみつつ、ちょっと引くような他者の言動も閉ざすことなく、個人として尊重して、人生を楽しむために、またまた読書の日々を重ねたいと思っています(って、読書しか楽しみないんですけどね)。

ご一読いただきありがとうございました。

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