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『武器としての「資本論」』と、健康で文化的な最低限度の生活

読んでいて、とても怖くなった。
ホラーではない、白井聡氏の『武器としての「資本論」』だ。
マルクスの『資本論』の入門書的な本なので、無教養な素人でもわかりやすく書かれていて、わかりやすいからこそ、怖くなった。憂鬱になった。

『資本論』に照らして今の資本主義社会を考えると、この先、とても庶民に経済的幸福など訪れそうにない、奴隷のように搾取されるだけじゃんっていう未来が、200年も前に生まれたマルクスに予言されてしまうんだろう、その恐怖。
資本主義社会がずっと続くと思っているからこそ、産業革命期の労働者みたいな人生に舞い戻るなんて嫌だし、ちゃんと健康的なご飯を食べたいし、本も読みたいし、PCが壊れたらまた買いたいし。
今より労働者の賃金が上がらないように、資本制社会の仕組みは動くようになっている、みたいに言われると、絶望しかない。

もちろん、資本制社会が、利益を求め続ける仕組みになっているのは、わかる。
利益が出るからこそ、我々のお給料が捻出できるわけで。
ただ、20世紀の工場型ビジネスモデルでは、もはや利益が出ないことも、わかる。
ここ30年の日本経済は、誰がどう見ても駄目だった。
だから、グローバル化。
だから、新自由主義(ネオリベラリズム)化。
自己責任ばかりの、資本家のためだけの、冷たい社会。

これ、世を儚みたくなる案件ですよ。
努力しても努力しても、時給が1円も上がらず、日々の生活がかつかつで、貯金を取り崩していくしかない、貯金がなくなったときが終わり。
離婚したばかりのとき、そういう状況に陥って、そして状況は今もあまり改善していないけれど、あのとき本当に思った「何のために生きているんだろう」と。
毎日が我慢我慢で、子どもにも我慢させて、働くために食べて、働くために生きて、それでも元夫の暴力から逃げることはできたから、事故死しない安心感だけは得られたけど、でも「生きるって何?」と。

そういうふうに言うと、「結婚しても正社員としての仕事を続けなかったお前が悪い」とか「子育てしながらスキルアップしなかったせい」とか「離婚を選んだのはお前だから自業自得」とか、まあいろいろ言われます。
そういう自己責任論が新自由主義で、資本家が労働者から搾取するための方便なんだよって、そういうことらしい。
雇用する側に人材育成能力がなくて、ただふんぞり返っているだけだとしても、労働者の働いて得た利益からピンハネするだけだもんね、らくちんだよね、労働者のせいにしてりゃいいんだから。

若者の自己肯定感が低いってずっと言われているのも、根底にあるのは新自由主義だと思う。
常にスキルアップしなきゃっていう強迫観念のただなかにいて、そんなんで自己肯定感の上がりようもないって。
子育てでも、いい子にしてたら愛してあげるってのは、マズイんだよ。
失敗しようが悪さしようが、愛されるべき価値のある人間である、ってのを伝えないと。
でも、社会全体でそういう自己肯定感を壊しにかかってるから、小さな子ならいざ知らず、ちょっと大きくなったらしんどいよね。

本当は、高学歴じゃなかろうが、コミュニケーション能力が低かろうが、ITが苦手だろうが、氷河期世代だろうが、みんな健康で文化的な最低限度の生活をおくる権利があるのです。
資格を持ってなかろうが、営業成績が振るわなかろうが、「もっといい生活をするための賃金をよこせ」って言っていいんです、思っていいんです、その権利があるのです。

というのが著者の白井聡氏による、このどん詰まりの状況を打開する手段だそうです。
今現在、労働者は資本家に舐められっぱなしなので、ちゃんと権利を主張して闘争しないと、誰も我々の身を守ってはくれない、という現実を見よ、と。
その上で、国家による社会民主主義的な行政ですね。
コロナ禍で言うと、布マスクやGo Toキャンペーンじゃなくて、医療機関や失業者に現金を出せ、と。

最後まで読むと、ちょっと希望も見えてきたので、そういうスタンスで生きていきたいと思います。
ああ、なんかこれからを生きる方向性が、ひとつできたわ。
白井聡氏は、『国体論 菊と星条旗』も面白かったので、他の本も読んでみたいな……と、部屋に出来た三つの積読タワーを横目で見ながら思うのでした。





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