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在野研究一歩前(17)「読書論の系譜(第三回):澤柳政太郎編『読書法』(哲学書院、1892)③」

前回に引き続き、澤柳政太郎編『読書法』(哲学書院、1892)の「読書論」について見ていきたい。今回は「第三章」の内容である。

「第三章」(該当ページ:P27~33)↓
「讀書は如何なる時に於てすへきや、如何なる時か最も讀書に適するか、是れ實に重大なる問題なり、之を概説すれば讀書せんと欲する意志起り且讀書し得へき時間あるときは是れ即ち讀書に適したる時なり」(P27)
⇒前回の「第二章」の最後に示された疑問点「どのようなときに読書するべきか」について、実践例をあげて論じていくのが本章である。
 上記の引用文では、読書に適した「とき」として、「読書したいという意志があり、かつ読書をする時間があるとき」があげられている。

「毎日讀書の時間を一定し此間は必す讀書するの規則を設くること實に良法なりとす」(P29)
毎日一回は特定の時間帯に、「本を読む」習慣を身に着けることの重要性が説かれている。

「身躰の壮健なること 心身の関係は甚た親密にして身躰壮健なるときは精神も亦從て強壮なり、之に反して身躰衰弱せるときは精神も亦從て活潑ならす、諺に所謂健康の精神は健康の身躰に存すと、精神の作用をして活潑ならしめんと欲せば須く身躰強健の時に於てせさるへからす、今讀書をして効果あらしめんとせは必ず精神の活潑なる時即ち身躰健康の時に於てすへきなり、若しそれ身躰疲勞せるときに讀書せんと欲せは極めて簡易にして精神を勞すること少く、且精神を愉悦せしむるか如き書籍を撰擇すへし、身躰疲勞せる時に難解の書籍を讀むも も其益なきなり」(P29~30)
⇒「読書」を実りの多いものにするためには、まずは心身の健康に目を向けることが求められる。不安定な心身状態で「読書」に励んでも、あまり成果はあがらない。もし、心身の状態が芳しくない中でも「読書」に励むとするならば、できるかぎり心身への負担が少ない書籍を選択して、難解な書籍は避けるべきである。

「最も讀書に適良の時は早朝とす、概するに早朝は身心共に活潑爽快にして情緒も亦静安なり、即ち朝饌を終りたる後二三時間は最も讀書に適したる時にして其後二時間餘を休息の時とす、午餐後二三時は又活潑なる精神作用に堪へん、而して漸く暮刻に近くに從ひ精神從て疲勞す、晩餐後は精神稍々活潑となるも最早繁劇の勞働に堪へす、故に夜中は成るへく簡易の書籍を閲覧すへし、若し夫れ深更まて讀書し甚しきは徹夜以て燈火の下に苦吟するか如きは讀書法の最も忌む所なり」(P32)
⇒「読書」を行なう上での最適な時間帯は「早朝」である。夜の内での「読書」は「簡易の書籍」で済ませるべきであり、徹夜などして一所懸命に本を読むことは「読書法」としては最もお薦めできない行為である。

「世或は夜中の讀書を以て日中の讀書に優るとなすものなきにあらすと雖も、是れ變則にして必す模倣すへきの習慣にあらさるなり」(P32~33)
一つ前の引用文とは反対に、世間では「日中の読書」よりも「夜中の読書」が推奨されているきらいがある。それについて澤柳は「到底、模倣できる習慣とはなりえない」として切り捨てている。

「一年に就て之を云へは冬期にありては心神の困憊を來すこと夏期よりも少きを以て冬期は努めて讀書勉學すへき時と云ふへし」(P33)
⇒「一日」から「一年」へと視点を変えると、夏期よりも冬期の方が「読書」に適している、と澤柳は主張する。

以上で、「在野研究一歩前(17)「読書論の系譜(第三回):澤柳政太郎編『読書法』(哲学書院、1892)③」」を終ります。お読み頂きありがとうございました。


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