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【東京あんこの新潮流】タケノとおはぎ(世田谷区桜新町)

和菓子文化の鍵をにぎる「あんこ」。日本各地に郷土色豊かなあんこの銘菓が揃いますが、東京だって負けじと個性派揃い。フードジャーナリストの向笠千恵子さんが東京の老舗・名店をめぐりながら、甘いあんこ菓子のおいしさの秘密に迫ります。本コーナー「東京あんこの新潮流」では、若い感性によって昔ながらの甘味を巧みにアップデートさせたお店をご紹介。(ひととき2020年10月号特集「東京のあんこ」より)

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 作者の長谷川町子が住んでいたことからサザエさんの町として知られる桜新町。この町で「タケノとおはぎ」は2016年(平成28年)に開店した。胃にすんなりなじむおいしさに加え、きれい・かわいいのビジュアル性も満点。女性スタッフのセンスを取り入れているから女子にも人気だ。

 店主の小川寛貴さんはスペイン料理を修業後、10年前に洋風惣菜店を創業し、軌道にのると隣におはぎ屋を設け、今年からおはぎ一本槍という経歴。屋号が店のストーリーをあらわしている。タケノとは祖母の名前。和菓子が苦手なのにおばあちゃんのおはぎだけは大好きだった小川さんは、そのおいしさを伝えたくておはぎ屋になった。あんこにはロマンがあるのだ。

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タケノとおはぎ店主の小川寛貴さんと向笠さん。店舗で販売しているおはぎ以外にも、季節の花をモチーフにしたオリジナルおはぎをオーダーできる

 おはぎはお彼岸につきもの。糯米(もちごめ)ご飯を粗く潰し、粒あんかこしあんで包んだ、いわゆるあんころ餅である。春は牡丹に譬(たと)えて牡丹餅(ぼた餅)、秋は萩の花に見立ててお萩と呼ばれ、やがておはぎが通り名になった。かつては家でつくられ、お彼岸はそれが楽しみという人が多かった。川崎市で1980年(昭和55年)に生まれた小川少年もそんな環境で成長したのだ。

 「祖母の味が原点ですが経歴も反映しています。料理では豆は風味を逃がさず煮るもの。それで僕はあんこの小豆も水浸けせず、砂糖は控えめ。豆の味を活かしたいから。小豆は北海道産大納言。煮て一晩おいて落ち着かせるとおいしくなる。砂糖は上白糖、グラニュー糖、和三盆糖を使い分けます」

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定番の粒あん、こしあん(ともに1個180円)のほかに季節の変わりおはぎを5種類用意

 メニューは常時7種で、こしあん、粒あんは定番。月替わりや日替わりのものは白あんベースで、中身のご飯は雑穀米もある。そしてあんこは、ナッツやココナッツをまぶしたり、刻んだ生フルーツを混ぜたり。夏は本わさび入り、塩ライチ味などが爽やか。さらに紫のブルーベリーピューレや青い花のハーブティーで色づけしたあんもあり、このあんを使った紫陽花のおはぎはコサージュにしたいほどの出来映え。秋はビーツ使用の紅葉あんもある。それだけに季節ごとに7種を1個ずつ詰め合わせてもらうと、それぞれの魅力が際立ち、おもたせにも喜ばれる。

 どれも着色料等は一切使わず国産の自然素材だけで工夫する。斬新で美しく、安心で美味。おはぎは行事食から季節の暮らしを彩るファンシースイーツに進化していた。

旅人・文=向笠千恵子 写真=荒井孝治

向笠千恵子(むかさ ちえこ):フードジャーナリスト、食文化研究家。東京・日本橋出身。グルマン世界料理本大賞の『食の街道を行く』(平凡社新書)はじめ著書多数。近著に弊誌の連載「おいしい風土記」をまとめた『ニッポンお宝食材』(小学館)や『おいしい俳句』(本阿弥書店)がある。
◉タケノとおはぎ 桜新町店
☎03-6413-1227 世田谷区桜新町1-21-11
[時]12時~売切れ仕舞い [休]月・火曜
http://urx3.nu/knWf(※Facebookページが開きます)

出典:ひととき2020年10月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。

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