見出し画像

レトロな建物で味わう幻想的なアートの世界|『旅する台湾・屏東』より

台湾リピーターの日本人にもまだあまり知られていない屏東。そんな屏東に魅せられた作家たちが語り尽くす貴重な旅エッセイ&ガイド旅する台湾・屏東より一部を転載します。今回はタバコ工場をリノベーションした屏東屈指のアートスポット屏菸ピンイェン1936文化基地」を大洞敦史さんがご紹介します!

旅する台湾・屏東
一青妙 著 , 山脇りこ 著 , 大洞敦史 著
2023年11月20日発売

 ぼくが訪れた屏東のアートスポットやテーマパークのなかで、ここ以上に驚き、感動した場所は他にない。元は1936年に操業したタバコ工場で、当時は「専売局屏東支局葉煙草再期乾燥場」と称していた。タバコ工場をリノベーションした文化施設では台北の松山文創園区がよく知られているが、シックでエレガントな大人の雰囲気漂う松山に対し、こちらはファンタジックで、小規模ながらも斬新さと迫力がみなぎる。

 入園は無料で、園内で展示館の入場券を販売している。常設展と企画展のセットで199元だった。常設展の建物は1階が「屏東えん葉館」、2階が「屏東客家館」。ありきたりな名前だったので、若干高いなと思いつつ、さしたる期待もしていなかった。ところが、中に広がっていたのは、ため息をつくほど幻想的な、光と音とコンピュータ・グラフィックスが織りなす夢幻の世界だった。どれも屏東客家の歩みと文化を伝えるインスタレーションだが、客家に関心がない人でも、そのヴィジュアルの圧倒的な美しさに、誰もが魅了されるにちがいない。

 まるで映画館の銀幕のようなスケールで、通路の両サイドの壁に映し出される、開拓史を天上の視点からたどるアニメ映像。樹木の下に設けられた伯公パッコン(守り神)の祠と周囲に飛び交う無数の蝶。花嫁の輿入れ、降りしきる花びら、黄金色に輝く稲田。山から吹き下ろす風に揺れるバナナ、檳榔、カカオの木々……。日本の農村で暮らすお年寄りがもしこれを見たら、きっとぼく以上に、心を揺さぶられるにちがいない。

 陶酔から醒めやらぬまま1階に移ると、こちらもまた、建物の地味な外観からは想像もつかない、まるでSF映画のような迫力満点の世界が広がっていた。

 高々とそびえ立つ、歳月の流れを金属の肌に染みこませた巨大な機械や設備の数々。無数の管が絡みあう機械の隙間には空中廊下が架かっていて、ダンスホールのようにハイテンションで変化に富む光と音の演出が、歩く者をすっぽり包みこむ。かつてここが現役だった頃は、けたたましい騒音とうだるような熱気に包まれていたに違いない。知識だけでなく、そうした雰囲気をも、芸術に昇華されたかたちで来訪者たちに伝えようとしている。3Fにある原住民を題材にした常設展「屏東原民館」や、企画展も必見だ。

常設展「屏東原民館」
企画展「屏行宇宙」

文・写真=大洞敦史

◉屏菸1936文化基地
屏東県屏東市菸廠路1号
営業:9:00-18:00(金~日は21:00まで)(月曜休)

◇◆◇ 本書のご紹介 ◇◆◇

旅する台湾・屏東
一青妙 , 山脇りこ , 大洞敦史 著
2023年11月20日発売

台湾リピーターの日本人にもまだあまり知られていない屏東。人、食、文化、様々な側面で「台湾らしさ」を感じられる場所である。そんな屏東に魅せられた作家たちが語り尽くす貴重な旅エッセイ&ガイド。読めば必ず屏東を訪れたくなるはず!

<本書の目次>
第1部 屏東に息づく日本(一青妙)
 第1章 懐古の街を訪ねて
 第2章 何者かになりたくて
 第3章 屏東のなかの「日本」
 第4章 歴史を知り、未来を考える

第2部 屏東の食を訪ねて(山脇りこ)
 第5章 屏東で食べる
 第6章 屏東の味を支える調味料
 第7章 大地と海からの恵み
 エリア別屏東のおいしいお店

第3部 異文化に出会う(大洞敦史)
 第8章 海を愛する人々
 第9章 山に生きる人々
 第10章 土地に深く根差すアート
 第11章 客家の文化に親しむ

大洞敦史 (だいどう・あつし)
1984年東京生まれ、明治大学理工学研究科修士課程修了。在学中、台北での映像制作ワークショップへの参加をきっかけに台湾好きに。2012年ワーキングホリデーで台湾の古都・台南市へ移住。2015~20年そば店「洞蕎麦」を経営。その後翻訳事務所を設立、翻訳家としても活躍する。

▼この記事で紹介されている場所


この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

よろしければサポートをお願いします。今後のコンテンツ作りに使わせていただきます。