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【あんこ愛を綴る】祖父母の愛とあまい思い出 川田裕美(フリーアナウンサー)

バラエティー番組をはじめ、ドラマ出演やコラム連載など多彩な分野で活躍中のフリーアナウンサー・川田裕美さん。自宅の冷蔵庫にあんこ缶を常備するほどあんこが大好物の川田さんには、あんこにまつわる大切な思い出がありました――。(ひととき2020年10月号特集「東京のあんこ」より)

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 物心ついた頃からあんこが好きで、側には常にあんこがありました。あんこを使った和菓子が好きなのはもちろんですが、自宅にはあんこ缶を数種類ストックしており、あんこを〝そのまま〟スプーンですくって食べるのも好きなのです。これってもしかして、ちょっと変わった食べ方なのでしょうか?

 そう気付かされたのは、読売テレビのアナウンサー時代。お昼の報道番組「情報ライブ ミヤネ屋」を担当していた時でした。司会の宮根誠司さんを含めた打ち合わせが終わって一緒に昼食をとっていた時のこと。前日も食事会でご一緒していたので、「昨日はごちそうさまでした。焼肉おいしかったですね。デザートもしっかり食べたのに、あのあと家であんこも食べちゃいました」と何気なく話すと、

「え? あんこって??」

「私、あんこ大好きなので家にあんこ缶を常備しているんです。缶からそのまま食べられますし」

 すると、周囲に「そんな食べ方、聞いたことないよ!」と驚かれたのです。大阪の実家でもそうやって食べていましたし、何の疑いもなく続けていたことでしたが、その時初めて、少し変わった食べ方なのだと知りました。けれど、あんこのおいしさをダイレクトに感じられるので、自信を持っておすすめする食べ方です。

 振り返れば、あんこと私をつないでくれたのは祖母の愛情だったように思います。幼稚園が終わると、実家近くの祖母の家に直行していた私。目当ては、祖母が用意してくれていたおやつです。ドロップやバニラアイス、フルーツなどいろいろありましたが、なかでも一番嬉しかったのが手作りの白玉だんご。白玉粉を練って茹でた素朴なお団子に、あんこやきな粉をつけて食べるのです。祖母と商店街に買い物に行ったら、おはぎを買って帰るのがお決まりコース。頼むと、目の前で作ってくれるのも楽しかった記憶があります。一般的に3色おはぎといえば、あんこ・きな粉・黒ごまが定番ですが、関西は黒ごまではなく「青のり」。青のりからほんのり感じる塩気と、あんこの甘さが絶妙に合わさって、これが一番好きでした。ちょっと渋いかもですね。

 自分のあんこ好きをハッキリと自覚したのは小学生の時。ある日、祖母がいちご大福を買ってきてくれたことがきっかけでした。大きないちごの絵が描かれた箱からほんのり甘い香りが漂い、最初はいちごのパックかと思っていましたが、開けてみると大福がぎっしり。白く半透明なお餅から微かにいちごが透けて、綺麗な薄いピンク色をしていました。食べてみると、柔らかな羽二重餅とほんのり甘い白あんが口の中でとろけ、その後にいちごの酸味・甘さ・果汁がいっぱいに広がります。

「こんなにおいしい食べ物がこの世の中にあったのか!」

 それ以来、祖母は出かける度にいちご大福を買ってきてくれました。夕食前でもお構いなしに4つも5つも食べたので、母から禁止令が出されたこともあるほど、いちご大福は私を夢中にさせました。

 いちご大福への愛は止まることがなく、大学生になると工場まで見学に出かけ、自宅に戻って見様見真似で手作りいちご大福にも挑戦。上京後は何店舗も食べ歩きして、粒あんのいちご大福のおいしさも知りました。でもやっぱり、祖母との思い出が詰まった白あんのいちご大福が変わらず好きで、取り寄せては関西の味を楽しんでいます。

 多くの時間を一緒に過ごしてくれた祖父母。私がアナウンサーを志したのも、祖父の存在が影響しています。警察官だった祖父は真面目で、厳しい一面もあったようですが、私にとってはいつもニコニコしている優しいおじいちゃん。よく本を買ってくれて、読み聞かせてくれたことを覚えています。自分で読めるようになってからは、私が音読する声をカセットテープに録音してくれました。幼いながらも、「これをあとでお父さんとお母さんに聞いてもらうんだから、丁寧に読まなくちゃ」と意気込んでいたようです。今も残るそのテープを聞き返すと、「もう一回読むね」と何度も祖父に録り直しをお願いしているのです。後にアナウンサーという職業を目指すことに繋がる「自分の言葉で伝えたい」という気持ちは、この頃すでに芽生えていたのかもしれません――。

 今も相変わらず、老舗の有名和菓子店、新しいオシャレな和菓子店、散歩中にたまたま見つけたお団子屋さんなど、様々なお店を巡っています。そして、お店の方がお忙しそうでなければ、あんこについてお話をうかがいます。食べただけではわからない、お店の歴史や作る人の思いを知ることができますし、そこに常連さんが買いに来るとまた違ったお話を聞けたりもします。

「そろそろ端午の節句だから柏餅を準備しないとね」

 祖母との会話を通して、和菓子から季節の行事を感じていました。日本人のこころを感じられるあんこのお菓子。世代を超えて愛され続けて欲しいと願っています。

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文=川田裕美

川田裕美(かわた ひろみ):フリーアナウンサー。1983年、大阪府生まれ。読売テレビを経て、2015年、フリーアナウンサーに転身。現在はテレビ番組「この差って何ですか?」「ぴったんこカン・カン」(共にTBS系)などにレギュラー出演中。著書に『あんことわたし 日日大あん吉日』(ぴあ)ほか。最新刊に『東京あんこ巡り』(KADOKAWA)がある。

出典:ひととき2020年10月号


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