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【ビモロシューズ】プロアスリートも選ぶランニングシューズの新定番

今日も日本のあちこちで、職人が丹精込めた逸品が生まれている。そこに行けば、日本が誇るモノづくりの技と精神があふれている。これは、そんな世界がうらやむジャパンクオリティーと出会いたくててくてく出かける、こだわりの小旅行。さてさて、今回はどちらの町の、どんな工場に出かけよう!(ひととき2019年7月号「メイドインニッポン漫遊録」より)

イチローも愛用するシューズ

 いよいよ東京オリンピックも来年にせまって来て、最近は各地で市民マラソンが開催されるほどランニングがブームになっている。実は筆者もいつかは東京マラソン出場を目指して、スポーツジムでコソ練しております。

 先日、見たことのないランニングシューズで走っている人をジムで見かけた。ナイキでもアディダスでもニューバランスでもない。アルファベットのBを斜めにしたようなマークで、いかにも速そうなデザインである。

 調べてみると、「ビモロシューズ」という日本のブランドだ。製造元はスポーツシューズのメーカーではなく、鳥取県でトレーニングマシンや医療機器の開発・製造をしている「ワールドウィング」というところである。

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機能だけでなく、カラフルでファッション性も高いワールドウィングのスポーツシューズ

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快適なランニングに適した薄くて軽量なソールと、日本製ならではの丁寧な縫製。写真は「VeLoエラスティックフェザー」19,800円(税別)

 なんと、あの引退したイチローが現役時代に履いていたスパイクもここが作っている。そういえば引退試合になった東京ドームでのマリナーズ対アスレチックス戦でも、確かにイチローの足元にBのマークがあったあった。

 イチローが履くスパイクを作っていると聞いただけでも、履いたら速く走れそうなランニングシューズではないか。すいませんね、ナニゴトもすぐ格好から入る性格なもので。

 そこで今回はビモロシューズを作っているワールドウィングを訪ねて、鳥取県を旅して来ました。目的地まで走って行きますよー!

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あいにくの雨でも絵になる鳥取砂丘。写真家・植田正治の作品を意識して

プロも高齢者も通うトレーニング施設

 ワールドウィングは昭和56年(1981)、神経と脳科学を専門とする動作科学の研究者・小山裕史(こやまやすし)先生が設立。平成6年(1994)に小山先生が発表した「初動負荷理論Ⓡ」に基づくトレーニング方法*で、多くのアスリートを指導するトレーニング研究施設である。イチローをはじめプロ野球選手や、サッカーの三浦知良、プロゴルファーの青木功など、そうそうたるトップアスリートが小山先生を訪ねてわざわざ鳥取までやって来る。

*「初動負荷理論Ⓡ」「初動負荷トレーニングⓇ」についてはホームページをご覧ください

 研究所に隣設した立派なトレーニングルームは、独自に開発した最新のマシンを完備しており、町工場というよりスポーツジムだ。

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トレーニングルーム棟

 しかもてっきりアスリートが身体を鍛えているかと思いきや、専用のマシンで「初動負荷トレーニング®」に励んでいるのは、シニアの人やリハビリ中の人たちである。その足には、みんなビモロシューズを履いている。

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研究室で専用の研究機器を実際に使い、小山先生(右)じきじきに「初動負荷理論®」を筆者へ説明

「驚いたでしょう。平日の午前中はいつもこんな雰囲気です。ここは会員制で誰でも利用できますから、シーズンオフになると、地元のご年配の方々がいっちゃんと同じマシンを使うなんてことも珍しくないんですよ」

 にこやかにそう言って、館内を案内してくれる小山先生。ちなみに「いっちゃん」とは、オリックス時代から体調管理に関わってきたイチローのことであります。

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イチローも使う最新のマシンで、トレーニングを体験

 小山先生は、知り合いになった人たちは親しみを込めてみんなあだ名をつけて呼ぶ。

 この日も来訪した元中日ドラゴンズの「マチャ丸」こと山本昌さんと「ヒトくん」こと岩瀬仁紀さんにビモロシューズを履いてもらい、ピッチングに立ち会っていたところである。

 ご自身はみんなから「コロニャン」と呼ばれている。実にチャーミングで、失礼ながら博士号を持つ先生にはとても見えません。

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ワールドウィングの人気者、小山先生がともに暮らすセラピー犬のコロ・マルセルくん。男の子、2歳

速さの秘密はソールの3本のバー

 ビモロシューズは、小山先生が提唱する初動負荷理論Ⓡをシューズで形にしたもので、「Beginning Movement Load Theory」の頭文字から名付けられた。

 最大の特徴はソールの3本のバー。歩行やランニングの際に本来の正しい動きを誘導して、脚の筋肉と関節の緊張を自然に解消してくれる。そうすることで足裏が着地した時の衝撃を加速の推進力に変換することができる。

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足の小指、薬指、親指の順に体重を誘導し、着地の衝撃をやわらげて推進力に変えるソールの3本のバー。硬度の異なるパーツを組み合わせるなど複雑な靴底設計のため、製造には職人の技が必須

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光学顕微鏡でアッパーのメッシュ部分を拡大すれば、肌理〈きめ〉の細かさから品質の高さは歴然

「シューズの着想は80年代からあったのですが、きっかけは平成16年にマラソンの宗兄弟から、選手に負担をかけずに最大限のパフォーマンスを引き出せるシューズを作ってほしいと依頼されたことです」

 当初は某大手スポーツウェアメーカーと共同開発を進めていたが、目先の利益ばかりを求めたメーカー側が無断で品質を下げようとしたため、シューズの製品化は頓挫する。

「本当に腹が立ちました! こんなシューズを作って売ったら、自分は筋の通っていない人間になってしまう。そう思いました」

 アスリートファーストを貫く小山先生は、改めて単独で自社ブランドの開発を決意する。

 平成23年、自分が描く図面を基に精緻なモノづくりをしてくれるシューズデザイナーや職人と、何度も科学的な分析と試作を積み重ね、信頼できる国内の工場に製造を委託して、ついにビモロシューズが完成。平成25年にはスパイクも発売。イチローが履いてブランドの知名度が広がり、今や年間3万6000足を販売。工場もフル稼働である。

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シューズのデザインと設計画を描く専属デザイナー

「大量生産に向かない特殊なパーツが多くて、商品化した製品には原価率が50パーセントを超えてしまうシューズもありますが、ぼくは今のやり方を変えるつもりはありません。なによりもトップアスリートたちの無償の協力こそが、ビモロシューズの最大の信頼と強みです」

 さっそく筆者も、ビモロシューズを履いて館内を走ってみる。おお、すごい! 軽くて、自然と後ろ足が前へ前へとスムーズに出て、「いだてん」の金栗四三(かなくりしそう)みたいに走れる。いであつしだから、いでたんと呼んでください。あんまり速そうなあだ名じゃないなぁ。

いであつし=文 阿部吉泰=写真

いであつし(コラムニスト)
1961年、静岡県生まれ。コピーライター、「ポパイ」編集部を経て、コラムニストに。共著に『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)など。
●株式会社ワールドウィングエンタープライズ
<所在地>鳥取市南吉方1-73-3
☎0857-27-4773
<URL>http://www.bmlt-worldwing.com/

出典:「ひととき」2019年7月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、価格など現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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