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傘がなくても自分の足で走る人を探して|山脇りこ『旅する台湾・屏東』より

台湾リピーターの日本人にもまだあまり知られていない屏東。そんな屏東に魅せられた3人の作家が語り尽くす貴重な旅エッセイ&ガイド旅する台湾・屏東より、第2部をご執筆された山脇りこさんのまえがきを抜粋してお届けします。

旅する台湾・屏東
一青妙, 山脇りこ, 大洞敦史 著
2023年11月20日発売

「無傘的囡仔 要比別人跑卡緊」。直訳すれば、「傘を持っていない子供は、誰よりも速く走るしかない」。

2022年まで屏東県長だった潘孟安パンモンアン氏が自身の8年の任期を振り返るムービー(YouTube)を見ていて、雨の中を走る少年の映像にのせて語られるこの言葉が、とても気になった。

屏東県の南、東港出身の友人に聞いてみると、彼女は「これは屏東のことだと思う。台北から一番遠い県で、貧しいし、資源もない。注目もされず、国の支援も後回しにされがち。となると、自分たちで自分たちの価値を見出すしかない。だから自分で走ろう、そういう意味が込められた言葉だと、私は思う。いい言葉だね」と。

自分の足で速く遠くまで走ろうとする人たち。自分たちの価値を自分たちで高めようとする人たち。私は食の分野で、そんな屏東の人に会いたいと思った。

世界的に有名なフレンチのシェフの下で修業した後、自分が生まれた村に戻り、子供の頃から食べてきたルカイ族料理のレストランを開いたシェフ。マグロの水揚げで知られる東港でマグロに勝負をかけたキャプテン。ほぼすべて屏東の材料でピュアな醤油を作る醸造職人。山を滑り降りてくる風と強い海風がおいしくするこの土地でしかできないマンゴーを育てる夫婦。屏東発→世界のTREE TO BARチョコレートを生み出した若きカカオの担い手。

みんな、ここ屏東でしか見つけられない宝物を見つけ、追いかけ、自分の成長と共に、屏東の価値をも高めてきた人たちだ。

「ふるさとは何があっても変わらずふるさと。ここが私の生きる場所。だからこそ大変でも、屏東・恒春に戻り、新しい名物を生み出したかった」。恒春の人気スイーツ店「洋蔥田ヤンツォンティエン伴手禮バンショウリー」のオーナー張嘉芬ヂャンジャフェンさんの言葉だ。彼女は台北から帰郷し、台湾で一番おいしいと言われる“恒春玉ねぎ”を活かしたスイーツを生み出した。

しかし先の東港出身の友人は「屏東って、台湾ではすごく田舎だと思われてるの、みんなよく知らないし、興味もないでしょう」と言う。なんだか切なく、悔しくなった。

なぜなら私は、屏東に来るといつも、出逢った人から心に染みるギフトをもらっていたから。それはあえて言葉にすれば、裏表のない真心、まじめさ、一生懸命さ。コンビニや屋台のようなささやかなふれあいでも感じてきた。そして今回も、傘がない雨の中を走り抜ける彼らの真摯な思いを知り胸が熱くなった。

友人に「あなたの故郷屏東には底力がある、魅力的な人がたくさんいる。可能性は無限だ」と伝えたくてこの本を書いた。

この本が屏東へ旅立ちたい思いの背中を押し、ポッと足元に灯りをともせたら何よりうれしい。

文=山脇りこ

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<本書の目次>
第1部 屏東に息づく日本(一青妙)
 第1章 懐古の街を訪ねて
 第2章 何者かになりたくて
 第3章 屏東のなかの「日本」
 第4章 歴史を知り、未来を考える

第2部 屏東の食を訪ねて(山脇りこ)
 第5章 屏東で食べる
 第6章 屏東の味を支える調味料
 第7章 大地と海からの恵み
 エリア別屏東のおいしいお店

第3部 異文化に出会う(大洞敦史)
 第8章 海を愛する人々
 第9章 山に生きる人々
 第10章 土地に深く根差すアート
 第11章 客家の文化に親しむ

山脇りこ(やまわき・りこ)
料理家・文筆家。屏東が故郷の友を得て、彼女にいつも癒され、大切なものが何か教えられました。彼女を育んだ魅力ある土地、行けば納得です。『食べて笑って歩いて好きになる 大人のごほうび台湾』(ぴあ)など台湾3部作のほか、ひとり旅先として台北を推す『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)など著書多数。

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