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【鶴来】石川県最大の河川、手取川扇状地で“水の信仰”白山神社の総本宮へ
日本三名山のひとつ、白山。白山を源流とする手取川は石川県最大の河川です。流域に生きる人びとは、山河に畏怖の念を抱きながら、その恩恵にあずかり、暮らしを成り立たせてきました。その貴重な地形から、ユネスコ世界ジオパークの認定を目指して地域が一体となっている今、手取川扇状地の要に位置する鶴来を訪れ、全国各地の白山神社の総本宮である白山比咩神社が鎮座する門前町を散策します。(ひととき12月号特集「白山、手取川 清らかな恵み」より)
山地での手取川は、勾配がきつく川幅も狭い。いきおい流れは速く、鋭い峡谷を創り出す。だが、山間を抜けて平地に出ると砂礫を運ぶ力を失い、ふいに手放してしまう。大荷物を背から下ろし、人が変わったように穏やかな表情になる。
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下ろされた大量の砂礫が積もり、長い歳月を経て放射状に広がった地形が扇状地、すなわち扇をめでたく全開にした形の平野だ。その扇の要につくられた市街地が白山麓の玄関口、鶴来地区である。
なにはともあれこの地を訪れた報告として、白山を神体山とする加賀国一ノ宮、白山比咩神社を参拝した。
木々に囲まれてゆるやかに続く表参道を進むうちに、すでに厳かな気分が満ちてくる。導かれた先の境内は壮観だ。太く高い古木が天へと聳え立ち、それらに抱かれるように並ぶ社殿はいずれも静穏である。
全国各地の白山神社の総本宮であるこの神社を、人びとは「しらやまさん」と呼ぶ。深い敬慕がこもっての呼び名にちがいないが、音読みのハクサンと訓読みのシラヤマとでは雰囲気ががらりと変わるのがふしぎだ。ちょうど、峡谷を駆け下りるときと平野に出たときの手取川の表情の変化のように。
権禰宜の田中天善さんに、日本書紀に登場する白山比咩神社の祭神について、そして紀元前の神話時代に遡った創建からの略史について聞かせていただく。スポーツマンタイプの引き締まった体躯の田中さんは凛々しく知的だ。
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「当社は水の信仰といえます」
白山から授かる水への尊崇である。
「水は、清める力と、生み出す力を合わせもつ生命のみなもとです」
北参道に湧き出る霊水はもとより、禊の場で使う水、手水舎の水にいたるまで、すべて地下およそ100メートルから伏流水を汲み上げているという。地層に浸透していくにつれ水は濾過される。1年に1メートル浸透すると計算して、ほぼ1世紀分、濾過に濾過を重ねた水が人の手に渡ることになる。境内に入るときはもちろん手水を使ったけれど、辞去するにあたってふたたび白山への敬意をこめ、わが不浄の手を念入りに清めた。
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田を潤す七ヶ用水
扇の要の市街地、鶴来は明るいまちだ。商店が並ぶ通りを行けば、その明るさがとても心地よい。足を延ばして手取川の方へ向かうと、手取川とは別の水の流れに出会う。案内板に「目の前の大きな水の流れは、手取川七ヶ用水の幹線水路です」とある。ちょうど真下に給水口と呼ばれる、手取川から取り入れた水が一束に集まって流れ出す場所がある、とも。暴れ川の手取川は、氾濫によって「七たび流路を変えた」と言われ、その分流の跡を利用したのが、七ヶ用水。この幹線水路が次第に細かく分かれていって、扇状地の水田をくまなく潤していく。栄養を運ぶ毛細血管のように。
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平野に入っておだやかになった手取川と、そこから導かれた七ヶ用水、どちらもほとりに立って眺めていると飽きない。いつまでも見ていたくなる。「川を見ていて心が落ち着くのは、川には迷いがないからだ」という言葉を聞いたことがあって、まさにそれを思い浮かべる。平野を豊かにする手取川も用水も、迷わず海に向かって旅をしていくのだ。
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監修=青木賢人 文=植松二郎 写真=荒井孝治
──この続きは本誌でお読みになれます。いのちの源である水を蓄えるために古くから信仰の対象となってきた白山や古寺に残る下山仏。豪雪地帯であるがゆえに栄えた養蚕業に、長い歴史を持つ織物・牛首紬。名水で作られた銘酒「白山菊酒」……。手取川流域の歴史と文化を、白山麓で暮らす写真家による春夏秋冬の美しいグラビアと共にお楽しみ下さい。
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目次
●フォトアルバム
白山、手取川のひととせ
●イントロダクション
白山手取川ジオパーク
●紀行1 白峰
●紀行2 鶴来
白山比咩神社
☎076-272-0680
白山市三宮町二105-1
*宝物館
[時間]9~16時(11月は9時30分~15時30分)
[休]12〜3月
[料]300円、高校生以下無料
青木賢人(あおき たつと)
自然地理学者。1969年、東京都生まれ。金沢大学人間社会学域准教授
植松二郎(うえまつ じろう)
1947年、兵庫県生まれ。作家。『春陽のベリーロール』(関西書院)で織田作之助賞、少年小説『ペンフレンド』で毎日児童小説賞を受賞。『人びとの走路』(NHK出版)、『テーブルの出来事』(幻冬舎MC)などの著書がある。
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