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もっとも“熱い”台湾の地へ|一青妙『旅する台湾・屏東』より

台湾リピーターの日本人にもまだあまり知られていない屏東。そんな屏東に魅せられた3人の作家が語り尽くす貴重な旅エッセイ&ガイド『旅する台湾・屏東』より、第1部をご執筆された一青妙さんのまえがきを抜粋してお届けします。

旅する台湾・屏東
一青妙, 山脇りこ, 大洞敦史 著
2023年11月20日発売

さあ、屏東へ

台湾の最南端にある屏東は、「台湾尾」の通称で呼ばれている。

なるほど、サツマイモの形をしている台湾の、下端のキュッとなったところで、尻尾に見えなくもない。

歴史を遡ると、あたり一帯は平埔族阿猴社の人々が暮らした場所で、AkauwまたはAck−auwと発音されていた。漢字表記として、最初は音が近い「阿猴」の文字が当てられていたが、1903年に「阿緱」となった。1920年になると、各地で語呂が悪いものや何と呼んでよいか判りにくい地名を適当な名称に変更する動きがあり、清朝時代に設置された屏東書院に因み、今日の名称──屏東に変わった。

台湾の友人に「どんな場所?」と聞くと「遠くて不便なところ」「よくわからない」などと返ってくる。

日本の台湾好きな人のなかでも、屏東に詳しい人はまだ少数派だ。

・新幹線や飛行機で直接行くことができない。
・熱帯地方で1年中暑い。
・台北から400キロ近く離れている。
・ガイドブックが極端に少ない。

一見、外国人としては積極的に足が向かない理由ばかりが並ぶ。

台湾きってのリゾート地「墾丁」の名が独り歩きして、屏東と結びつかないのも問題だ。

私も、台湾を何度も訪れてきたが、屏東についての印象は薄かった。

自転車で台湾一周「環島」の際に屏東を通った。抜群に美味しかった潮州のかき氷「冷熱冰」や果てしなく広がる檳榔の樹、最難関とされているヒルクライム「寿峠」を越えたことは覚えていても、細部まで知ることはなかった。

ところが、ここ2、3年の間に、屏東は台湾で大人気の観光都市となり、連休にもなれば、宿泊先を探すのにひと苦労するほどだ。コロナ禍で海外渡航が難しくなり、国内旅行に目を向けた台湾人が、「屏東なかなか楽しい」「屏東に遊びに行ってきた」「屏東最高!」と声を上げ、屏東の魅力に気がついた。

実は、屏東の玄関口「屏東市」から高雄市は、列車に乗ってわずか20分程度の距離にある。喧騒を離れ、自然が多い屏東に引っ越し、高雄まで通勤する人も多い。

屏東には特徴ある先住民や客家文化が残っている。サンゴ礁からできた離島の小琉球ではシュノーケリングでウミガメと泳げる。周囲には3000メートル級の山々が連なっており、太平洋、台湾海峡、バシー海峡に面しているので、山登りから海水浴まで何でも叶う。

マンゴー、蓮霧(ワックスアップル)、パイナップル 、タマネギ、レモン、ナツメなどが採れ、桜海老やマグロ、チョコレート、コーヒーは世界に誇れるほど美味しい。良質な温泉もある。台湾の歴史的転換点となるローバー号事件(1867年)や牡丹社事件(1871年)、台湾出兵(1874年)などが屏東を舞台に繰り広げられた。

自然豊かで、歴史と文化の薫りが漂う屏東。

前屏東県長の潘孟安は、屏東を気温も人情味も他の地域に比べて「總是多一度(とにかく1℃高い)」と言い続けてきた。

確かに、全てにおいて〝熱い〟屏東だ。

一方で、屏東初の女性県長となった周春米は、「最南端的屏東、最棒的旅遊(最南端の屏東、最高の旅)」をキャッチフレーズに、屏東の魅力を積極的にアピールしている。

台湾人は、屏東を見て、屏東を感じ、屏東を認識し始めた。

私は日本人として、屏東に地下ダムを建設した鳥居信平や日本の本を収蔵するアジア最南端の図書館・池上一郎博士文庫(本書の取材を行った2022年12月は改修中)、日本の軍人を主神とした廟、灯台、神社、日本統治時代の家屋群など、屏東と日本が深く繋がっているものを探しに、屏東の旅を一歩踏み出した。

さあ、屏東へ行こう。

文=一青妙

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<本書の目次>
第1部 屏東に息づく日本(一青妙)
 第1章 懐古の街を訪ねて
 第2章 何者かになりたくて
 第3章 屏東のなかの「日本」
 第4章 歴史を知り、未来を考える

第2部 屏東の食を訪ねて(山脇りこ)
 第5章 屏東で食べる
 第6章 屏東の味を支える調味料
 第7章 大地と海からの恵み
 エリア別屏東のおいしいお店

第3部 異文化に出会う(大洞敦史)
 第8章 海を愛する人々
 第9章 山に生きる人々
 第10章 土地に深く根差すアート
 第11章 客家の文化に親しむ

一青妙(ひとと・たえ)
台湾屈指の名家「顔家」出身の父と日本人の母との間に生まれ、幼少期は台湾で育ち、11歳から日本で暮らし始める。作家、女優、歯科医として活躍中。台南市親善大使や中能登町観光大使に相次いで任命されている。著書に『私の箱子』(筑摩書房)、『「環島」ぐるっと台湾一周の旅』(東洋経済新報社)など。

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