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【うきはの麺】小麦ときれいな水に恵まれた麺の聖地・福岡県うきは市

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2022年6月号より)

 青々とした麦畑が広がるちく平野。その東に位置するうきは市は、九州で「麺の聖地」と呼ばれている。小麦出荷量は全国2位、筑後川水系の豊富な地下水、麺の熟成や乾燥に適した寒暖差のある気候と、麺づくりにもってこいの土地なのだ。

ゆったりと流れる大河・筑後川。豊かな水が大地を潤し、健やかな作物を育んできた

 製麺所を前身とする「麺屋こばやし」で、人気の「とまとラーメン」をいただく。鶏ガラベースにトマトの酸味と甘みが溶け込んだコクのあるスープがしなやかなストレート麺に絡み、麺そのものにもうまみが感じられる。

麺にラーメン専用の小麦を使った「麺屋こばやし」の「とまとラーメン」。コシのある細麺は、かみしめるほどに小麦の味と香りが感じられる

「スープには地元産の桃太郎トマト、麺には『ラー麦』を使っています」と店主の小林としさん。ラー麦は福岡県でラーメン専用に開発された小麦。ラー麦を使った麺はコシが強く、風味豊かで歯切れがいいのが特徴だという。

麺屋こばやし[上]釜揚げの「めんたまうどん」は、ふっくらもちもちの手打ち麺にバターと明太子が絡む [下]小林稔男さんと奥さまの雅子〈もとこ〉さん。乾麺倉庫を改装して店舗にしている

 うきはの麺づくりのルーツは、江戸時代にさかのぼる。筑後川からかっすいを引く用水路が開かれ二毛作が始まると、水路に水車小屋がつくられ、精米や小麦の製粉、小麦粉を使った素麺づくりが行われるように。

うきはの麺いろいろ (左から)ラー麦使用のとんこつ味ラーメン(栗木商店・ちくご手作り村)、油不使用の「吉井素麺」(長尾製麺)、とまとラーメン(小林製麺・麺屋こばやし)、博多水炊きスープ味の中華そば(鳥志商店)、名前も楽しい袋麺(長尾製麺)、うきは産小麦使用の和風ラーメン(栗木商店・ちくご手作り村)

 当時の文献から道具を再現し、江戸時代に近い方法で手延べ素麺をつくっているのは、200年以上続く「長尾製麺」の7代目、長尾洋介さん。その最大の特徴は、麺を延ばす過程で油を使わないこと。「素麺は水のおいしさを味わうもの。だから水をはじいてしまう油は一切使いません」

長尾製麺 [上]研究を重ね麺のおいしさを追求する長尾洋介さん [下]ていねいに仕込んだ麺を延ばし、竿に掛けてゆっくり乾燥させる。油を使わないのでサラサラの手触り

 油は麺の水分蒸発や麺と麺がくっつくのを防ぐために使われるが、湿度管理や打ち粉の工夫で油を使わない方法を考案。井戸水で仕込み、通常は2日のところ3日間寝かせ、小麦本来の風味を十分に引き出す。茹で上がりを氷水で締めた素麺はみずみずしく軽やかで、喉をすーっと滑るよう。

 1918(大正7)年創業の「とり商店」では、素麺づくりのノウハウを応用した「鳥志掛け」というユニークな乾燥方法で、コシとうまみのある麺をつくりあげる。「ほかとは違う個性的なラーメンを」(鳥越久義社長)と開発した、かんすいや合成添加物を使わない中華麺シリーズは、水炊きスープやかぼす、九州しょうゆなど郷土色を打ち出した多彩な味のラインナップが楽しい。

鳥志商店 [上]年月を経た「麺」の文字が老舗の風格を漂わせる店の看板 [下]竿に麺をM字形に掛ける「鳥志掛け」で60時間じっくり乾燥させうまみアップ

 日常食として身近だった素麺の伝統技法を生かし、手間と時間をかけ工夫を重ねながらおいしい麺づくりに挑む人々。その情熱が、麺好きの足をうきはへと導く。

文=宮下由美  写真=阿部吉泰 

ご当地INFORMATION
うきは市のプロフィール
福岡県南東部に位置し、南部に雄大なのう連山がそびえ、北部には筑後川が流れる。山麓部には果樹園が広がり、いちご、桃、ぶどうなど年間を通してさまざまなフルーツが楽しめる。江戸時代から麦作、製粉・製麺業が盛んで、「九州三大麺どころ」のひとつとして知られる。
問い合わせ先
麺屋こばやし
☎0943-77-2249
長尾製麺
☎0943-75-3155
鳥志商店
☎0943-75-2214
栗木商店・ちくご手作り村
☎0943-75-2153

出典:ひととき2022年6月号

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