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香りの始まりの地・淡路島で生まれた和紙のお香

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2020年2月号より)

「これがお香?」小さな陶皿の上でほのかに香る和紙の木の葉。一枚一枚、葉脈まで繊細に刻まれ、ずっと眺めていたくなる美しさだ。

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和紙のお香HA KO。葉先に点火すると、清々しい森の香りがゆっくりと広がっていく

 置いても、焚いても、文香(ふみこう)として手紙に添えても。自由に楽しめる斬新なお香「HA KO」を生み出したのは、淡路市の「薫寿堂」。「忙しい一日の中で、好きな香りと過ごす時間を」と会長の福永稔さんが発案。和紙の開発からデザイン、自然な香りに徹底的にこだわり、3年をかけて作り上げた。

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置くだけでも香るHA KOは5枚の葉と不燃マット、陶皿がセット。2019年度グッドデザイン賞受賞

 淡路島は、実は全国の線香・お香の最大産地。明石海峡大橋を渡り南西へと車を走らせていると、風に乗ってふわりと甘い香りが流れてくる。西海岸の旧一宮町一帯には、多くの線香・お香会社が軒を連ねる。

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地中海を思わせる紺碧の瀬戸内海。明石海峡の向こうには神戸の街が

 島で線香作りが始まったのは約170年前。廻船問屋の冬枯れ対策として泉州堺から職人を呼び寄せ、7軒が副業として始めた。海からの風は線香の乾燥にうってつけ。たちまち地域に広がった。

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昔ながらの手づくりが守られている線香

 当時からの老舗「梅薫堂」の吉井康人さんは、ジャパンブランドプロジェクトとして活動する「あわじ島の香司(こうし)」の一人。聞き慣れないその呼称について、「昔から線香を作る家の主人を香司と呼んでいました。調香から仕上げ、品質管理まで全責任を担うプロデューサーのようなものです」と教えてくれた。家々には、守り継がれてきた独自の調香があるという。 

 地場産業を支えてきた香司の仕事を「香りのマイスター」として内外に発信する動きが始まっている。現在、香司を名乗るのは14人。天然原料による質の高い製品作りを守りつつ、現代にふさわしい香りの提案に挑む。それぞれの名を冠した「日本の香り」は、香司のプライドをかけた自信作だ。

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あわじ島の香司が手がける「日本の香り」は14種。「桜」は吉井康人さんの調香

 日本で最初の香木伝来伝承地として『日本書紀』に記される淡路島。海岸沿いの枯木(かれき)神社には香木がご神体として祀られている。香りの始まりの地で、匠の技と心意気は今も確かに息づいていた。

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薫寿堂のお香づくり体験は年間6万人が訪れる人気

文=宮下由美 写真=阿部吉泰

ご当地◉INFORMATION
●淡路市のプロフィール
兵庫県南部に位置する瀬戸内海最大の島、淡路島。北端から中央部にかけて島の3分の1の面積を占めるのが淡路市。明石海峡大橋で神戸市とつながり、海と橋が織りなす絶景は圧巻。
温暖な瀬戸内式気候に育まれた豊かな農産物、海の幸と食材の宝庫で、古くは朝廷に食料を献上する御食国〈みけつくに〉として都人を支えてきた。淡路ビーフやたまねぎ、牛乳、酒など多くの特産品があり、夏季はマリンスポーツや海水浴で賑わう。
●淡路市へのアクセス
山陽新幹線新神戸駅から市中心部までバスで約60分
●問い合わせ先
薫寿堂
☎0799-85-1301
https://www.kunjudo.co.jp/
梅薫堂
☎0799-86-1005
http://www.baikundo.co.jp/
兵庫県線香協同組合
☎0799-85-1212
https://awaji-kohshi.biz/shop/

出典:ひととき2020年2月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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