花火は一瞬、思い出は一生(花火写真家・金武 武さん)
花火との出会いは17歳の夏だった。横浜の山下公園、蒸し暑い大混雑の中でズドンッと大きな花火が輝き、衝撃波で身体が揺さぶられた。
「何て凄いんだ!」
次々開く花火が心に焼き付いた。感動もしたが、同時にショックも受けた。美しく輝いた花火は跡形もなく消えてしまう。なんて儚いのだろう……。感動、ショック、そして涙。あの日から花火を追い掛ける人生が始まった。
コロナ禍以前は国内で年間4000回以上の花火大会が開催されていたという。日本は花火大国だ。そして今年、各地で花火大会が再開される。大規模な花火大会に行けば大玉の花火が打ち上がり、その迫力を全身で浴びて心身を浄化するのも楽しみ方のひとつだ。
しかし、数年ぶりの大規模な花火大会は大混雑が予想される。打ち上げ数の多さやランキングなどは気にせず、花火が好きならば、小さなまちの小さな花火大会にも行ってみてほしい。たった数分間の花火でも、その裏には、花火でまちを盛り上げようと頑張っている人々がいる。地元の商店街、商工会議所、消防団の人々、そして花火師たち……少ない資金でも知恵を絞って花火を打ち上げようと努力しているはずだ。
数は少ないながらも1発ずつ丁寧に打ち上げる花火には味わい深いものがある(小規模な花火大会ならおそらく会場は空いているはず)。大きくても小さくても、日本の花火は世界に誇れる芸術作品なのだ。 家族で見た花火や好きな人を誘って行った花火大会はいつまでも思い出に残る。花火は一瞬でも、思い出は一生──そこに行かなければ味わえない感動がある。
文=金武 武
花火写真家・金武 武さんが捉えた、短夜に咲く花
静岡県袋井市の花火大会は、全国の花火師が渾身の作品を持ち寄るマニア垂涎の大会です。原野谷川の川面300メートルにわたって打ち上がる最後のジャンボワイドスターマイン*は大迫力で圧倒されますよ。
全国屈指の花火師が集まる豊田おいでんまつりの花火大会も必見。ラストのナイアガラが感動的で、何度見てもグッときます(金武さん)
[静岡県]全国花火名人選抜競技大会ふくろい遠州の花火2023
全国各地から選抜された日本煙火芸術協会会員の一流花火師による最高峰の花火が競演。内閣総理大臣賞の受賞実績がある花火名人も多数参加する。富士山を表現した、全長200メートルを超える仕掛け花火は必見
[愛知県]豊田おいでんまつり花火大会
豊田市の一大イベント、豊田おいでんまつり。そのフィナーレを飾るのが、東海地方最大規模の花火大会。著名な花火師による作品や、手筒花火、ナイアガラ大瀑布など、多彩な演出で豊田の夜空を彩る
手筒花火は、豊橋市・吉田神社の本祭で撮影しました。撮影の条件として僕も参加させてもらうことになったのですが、本当に熱いです(笑)。燃え尽きる直前、はね薬という最も強い火薬も爆発します。それでも、豊橋で生まれ育った男衆にとっては“手筒花火を上げてこそ一人前”。戦時中もコロナ禍の中でもこの伝統を460年以上守り継いできた、その姿が勇ましいです(金武さん)
[愛知県]第28回 炎の祭典
愛知県東三河地域の手筒花火は、火薬を詰めた竹筒を抱え、火の粉を体に浴びながら打ち上げるもの。その手筒花火発祥の地である豊橋市の「炎の祭典」は手筒花火を中心に乱玉、仕掛け花火など多彩な花火が楽しめる。10本以上の手筒花火が一斉に10メートルの高さに噴き上がるさまは壮観
[静岡県]熱海海上花火大会
1952(昭和27)年に始まり、夏だけでなく年間を通して10回以上開催されている熱海名物。熱海湾は、3方を山に囲まれたすり鉢状の地形のため、海で上げる花火の音が反響し、大きなスタジアムのような音響効果がある。フィナーレを飾る「大空中ナイアガラ」の美しさは、まばたきを忘れるほど!
写真=金武 武
──この続きは、本誌でご覧になれます。日本で最初に花火を見たとされる徳川家康公ゆかりの地であり、日本の花火のはじまりの地といわれる愛知県岡崎市を訪ね、一瞬の美から永遠の思い出を生み出す花火師たちの技と心に迫ります。ここではご紹介していない、金武さんによる各地の見事な花火写真もご掲載しているので、ぜひご一読ください!
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出典:ひととき2023年7月号
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