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終着駅に行ってきました

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終着駅という響きに、わけもなく惹きつけられる。この先にはもう線路がない、という最果てのロマン。そして一抹の哀愁。そこには、どんな街が広がり、どんな人たちが息づいているのか。憧れで… もっと読む
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記事一覧

息遣いが伝わる鉄道と町と、“頑張っている”人たち(阿下喜駅・三岐鉄道北勢線)|終着駅に行ってきました#13

「こんなに積もったの、半世紀以上ぶりなんですってよ」  風呂上りのミネラルウォーターを購入した僕に、レジの女性は、そう声をかけてきた。 「藤原の方では60cmも積もっているんですって」  ここは、三重県にある阿下喜駅。その斜向かいにある温泉に隣接した売店である。  窓越しに見える空は、痛いくらいに青かった。冬の透明な陽光が、雪を溶かして、軒先からぽたぽたと水滴が落ちている。朝一番に訪れた時は、建物へのアプローチも雪に覆われていたが、今は濡れた路面が姿を見せている。山間

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どこにもない”郷愁"を持つ町の、やさしい夜(岳南江尾・岳南電車)|終着駅に行ってきました#12

「あー、だから日本はダメなんだよ!!」  店内に大声が響く。声の主は、ついさっきまで地元話に興じていた隣の常連氏である。  何ごとかと、彼の視線の先にあるテレビ画面を見ると、サッカー日本代表のディフェンダーたちが自陣でゆっくり球を回しているところだった。  革命レベルの切迫した声だっただけに、スポーツが根源的に内包する平和さが心にしみた。少し落ち着いて観察すると、開始まもない時間帯で、双方無得点である。焦る局面ではなさそうだ。  攻撃を組み立てるための時間とってんじゃ

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港町の飾らぬ人々が織りなすひととき(仙崎・JR山陰本線)|終着駅に行ってきました#11

「おいしかったです」  中学生のその言葉に、それまで仏頂面しか見せなかった居酒屋の大将が、なんとも嬉しそうな笑顔をこぼした。隣で女将が、またおいで、と語りかけて、夜更けの長門市駅前の居酒屋が、やさしい空気に包まれた。  今回の旅は、中学を卒業したばかりのわが息子を連れてきた。終着駅の旅で、仙崎に行くことが決まり、軽い気持ちで「君も行くか?」と尋ねたら、「行きたい」と返してきたのである。 「誘っといてなんだけど、意外だな」 「一度、ミハラさんにも会いたいしさ」 「仕事

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哀愁の街を通りすぎる人と、とどまる人(三角・JR三角線)|終着駅に行ってきました#10

明治時代の国策に基づいて開港した三角港に、直結する駅として作られた終着駅、三角。時は流れ、港の規模も小さくなった今も、観光地・天草への玄関口として、地元の足として大切に使われています。穏やかに広がる海でとれた魚をいただきながら、中年男性ふたり組の夜は、静かに流れていきます。〔連載:終着駅に行ってきました〕 文=服部夏生 写真=三原久明  春の光を浴びた海が、突然、車窓に広がった。向かいの席に靴を脱いで座っている小さな姉妹が歓声をあげる中、ディーゼルカーは海辺を快走する。煙を

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赤い電車が連れていく、踏切が鳴る街(吉良吉田・名鉄蒲郡線/西尾線)|終着駅に行ってきました#9

かつては観光地への玄関口として名鉄特急もやってきた吉良吉田。三河線が廃線となった今は、その規模を幾分か小さくしながらも、地元の人たちに愛用されています。そんな終着駅のある、穏やかな街の食堂では、今宵も常連たちが贔屓球団の話で盛り上がります。〔連載:終着駅に行ってきました〕 文=服部夏生 写真=三原久明 「寺もあれば、自然もある。何を見たいか言ってもらわないと紹介しにくいのよ…」  吉良吉田駅前の喫茶店の女将は、幾分かの困惑とひと匙の憤慨が混ざった口調でそう言った。  苦

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うず潮の街でつむがれる半生記(鳴門・鳴門線)|終着駅に行ってきました#8

かつては日本を代表する塩の生産地として隆盛を極めた、鳴門。その街にある小さな終着駅には、今も昔も人々を乗せた列車が発着しています。多くのお遍路さんたちも歩いたという、撫養(むや)街道。その一隅にたたずむ小料理屋で、夜は、温かくしっぽりと更けていきます。(連載:終着駅に行ってきました) 文=服部夏生 写真=三原久明 「終着駅は始発駅って言いますものね」  居酒屋のカウンターの内側で、ぼくたちがこの街に来た理由を聞いた女将は、しみじみと言ってうなずいた。北島三郎が歌った名曲の

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夜更けの酒場で紡がれる、あの時の物語(仙台空港・仙台空港鉄道)|終着駅に行ってきました#7

東北を代表する政令指定都市、仙台。空の玄関口、仙台空港に隣接した終着駅は、東日本大震災による津波の被害を受けながらも、力強く復活をとげました。そこから出発する銀色の列車が連れて行ってくれる仙台の街は、今宵も皆の記憶を包み込んで、静かに更けていきます。〔連載:終着駅に行ってきました〕 文=服部夏生 写真=三原久明  個人的な話だが、ぼくは大学の5年間を仙台で過ごした。1年余分なのは、留年したからである。  仙台の街にはあまりいい思い出がなかった。何をしたいのかわからず、勉強

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轟音を響かせ、日本最東端の“ハイカラな町”へ(根室・JR根室本線)|終着駅に行ってきました#6

道東を代表する漁港を抱える町、根室。進取の気質に富んだ町には、ハイカラな洋食と建物、心地よいジャズを流す喫茶店と、よそ者を快く受け入れる酒場。そして轟音を立てて走り続けてきた鉄路がありました。〔連載:終着駅に行ってきました〕 文=服部夏生 写真=三原久明 「すみません、ちょっといいですか」  ここは、北海道の根室港。硬く凍った雪の向こうには海が広がり、かなたにはうっすらと国後島が見える。港の突端では、海から戻ってきた漁船が水揚げを始めている。それを目ざとく見つけた海猫たち

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開拓地の酒場に集う、心やさしき荒くれども(小島新田・京急大師線)|終着駅に行ってきました#5

工場地帯の入り口にある、昭和の香りを今もとどめる終着駅は、日本の産業を下支えしてきた京浜工業地帯に勤める人たちの玄関としての役割を今も果たしています。そんな駅のそばにある、スタンドの酒場には、ちょっぴりラフで、ほんのりあったかい空気が流れていました。〔連載:終着駅に行ってきました〕 文=服部夏生 写真=三原久明  小島新田駅に降り立った我々を出迎えたものは、風の音だった。  夕暮れ時。ミハラさんと待ち合わせて、京浜川崎駅から大師線の赤い車両に乗り込んだ。5キロにも満たない

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“ちょうどいい”町へと連れて行ってくれる、奇跡の電車(勝山・えちぜん鉄道)|終着駅に行ってきました#4

かつて織物の産地として名を馳せ、近年は、恐竜の町として再注目される町、勝山。白山連峰からの雪解け水が流れる静かな町に、奇跡の復活を遂げて、コトコト走る鉄道で訪れるとそこには人との繋がりを大切にしながら、背伸びせず、いいものを作り出す人たちがいました。〔連載:終着駅に行ってきました〕 文=服部夏生 写真=三原久明  昼下がりのえちぜん鉄道の電車には、女性の車掌が乗っていた。車内を忙しく動き回り、乗客ひとりひとりに声をかけ、無人駅から乗ってきた客には切符を発行し、降りる際にひと

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漁師町の外れにやってくる「奥ゆかしき」電車(加太・南海電鉄加太線)|終着駅に行ってきました#3

紀伊水道の恵みを受ける岬にある町、加太(かだ)。釣りに島巡り、温泉に海水浴……。観光地として抜群のポテンシャルを持つこの地に、和歌山市からコトコト走ってくるのは、明治時代からの由緒正しき歴史を持つ電車。そんな加太線のことを、地元の人たちに聞いてみると……。〔連載:終着駅に行ってきました〕 文=服部夏生 写真=三原久明  子どもの頃、南海電車がお気に入りだった。  父親の実家の徳島に帰省する際、和歌山港行きの特急に乗るのが楽しみだった。車体の緑の濃淡のカラーリングも、長大な

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美しい町を磨き続ける、気立て良き人びと(若桜・若桜鉄道)|終着駅に行ってきました#2

かつては木材の集散地として栄えた町、若桜(わかさ)。栄華の時代の記憶をとどめる町には、清冽な小川と、丁寧に掃き清められた庭を持つ名刹、体験運転ができる蒸気機関車に、おいしいサンドイッチを出す喫茶店があって、町と鉄道を大事に守り続ける心温かい人たちがいました。〔連載:終着駅に行ってきました〕 文=服部夏生 写真=三原久明 「昔は、駅前に留められた貨車に、材木がたくさん積んでありました。それを蒸気機関車がひいて走るんです。もう随分前のことになりますね」  ここは鳥取県若桜町。

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何もない街で語られた、美しき昭和の記憶(三峰口・秩父鉄道)|終着駅に行ってきました#1

終着駅という響きに、わけもなく惹きつけられる。この先にはもう線路がない、という最果てのロマン。そして一抹の哀愁。そこには、どんな街が広がり、どんな人たちが息づいているのか。憧れでもある地に降り立ち、周りを歩いて、ついでに一杯……。中年男性ふたり組の旅行記「終着駅に行ってきました」、はじまり、はじまり。 文=服部夏生 写真=三原久明 「ないよ、ない。ここにはね、なんにもない」  ここは秩父鉄道の終着駅、三峰口(みつみねぐち)。  駅前の餅屋の老婆は、この地の見どころを尋ね

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🎬何もない街で語られた、美しき昭和の記憶(三峰口・秩父鉄道)|終着駅に行ってきました

新連載「終着駅に行ってきました」のBGM付きスライドショーを作成しました🎬 ▼記事本編はこちら https://note.com/honno_hitotoki/n/n6cdf30cb4200

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