やっぱ沼津だらvol.3/桃屋
沼津市で生まれ育った。
東京都より新幹線で片道約1時間、静岡県東部に位置する海街だ。
街の真ん中に一級河川である狩野川の流れを有し、沼津アルプスと呼ばれる山稜線を望むことが出来、悠然とした自然と街並みが調和している。
狩野川の流れはそのまま駿河湾に注がれる。
のんびりとした解放的な空気が流れるこの街が大好きだ。
酔っ払い店を出た後、頬に当たる海風は気持ちいい。
そんな沼津の魅力や昔ながらの名店、新しくできた期待のお店等々を
『やっぱ沼津だら』
(「だら 」は方言で「でしょ」的な意味の言葉だ)
と銘打って定期的に紹介していく。
桃屋
東京銀座のように賑わってほしい...そんな願いを込めて日本各所の商店街に"銀座"と名付けられた通りがあるのだそうだ。
沼津銀座。
そう、ここ沼津にも存在する。
この沼津銀座入り口に
"沼津のソウルフード"と謳われる
桃屋の惣菜パン、通称"桃パン"は
鎮座している。
桃屋はパン屋ではない。
お惣菜屋さんだ。
ご主人が大の映画好きで映画のワンシーンを観てお惣菜をパンに挟んでみたのが始まりだそうだ。(冒頭記事より)
これなら焚き火の前でワイルドに手掴みで食べられる。
アウトドアスタイルの先駆けだ。
こだわりは桃屋特製の甘いタレ。
蜜のような、揚げ物に良く合うキラキラしたそれは強烈な個性を放つ。
昼前になると老若男女で店の前は賑わい小一時間で売り切れるパンもある。
何年も何十年も愛されている店。
親子3代共通の話題として通じる店。
ソウルフードは1日にして成らず。
ソウルフードは何だか口承文学みたいだ。
人から人へ伝えられていく。
口承味楽(こうしょうみがく)。
きっとこんな言葉はないし
たった今即興で用意した造語だけれど。
私自身が最初に桃屋を知ったのは
当時勤めていた職場の先輩から
「え、沼津市民なのに桃屋知らないの?」
という会話からだった。
その頃、沼津市民としての誇りはたいして持ち合わせていなかったけれど、なんだろうそれでもこの先輩から言われたこの一言は割と傷ついた。
疎外感焦燥感入り混じる中
長財布をOL持ちして買いに走った。
家に帰り家族に聞くと当たり前のように知っていた。
なんでどうして教えてくれなかったの?
と荒ぶる私。
理不尽な怒りだったと思う。
他にも沼津にはいくつかソウルフードに認定されている品がある。
それらは全て祖父母と母に連れられて通った店々の品々だ。
美味しいってことは大前提だとは思うのだけれど、多分きっとそれだけじゃない。
美味しいってだけじゃきっとまだ足りない。
美味しいにほんのちょっとの感傷と、心に灯る温かさを。
やっぱりソウルフードは1日にして成らず、だ。
平成生まれの君や
令和生まれの君にも
愛され未来永劫続いてほしい。
それは平和を願う心にも似た気持ち。
受け継がれる味、想い。