323 そういえばフランスへ行きたいと
思ったことのない話
そういえばフランスへ行きたいと思ったことがない。理由はわからない。わからないとか言っている場合ではないけれど。パリオリンピックの中継で開会式からいろいろやってくれていて、たくさんの名所も映し出されているのだけども。
恐らく、最初に読んだフランスの作品は、「813」だろう。モーリス・ルブラン著、堀口大学訳だ。堀口大学は文化勲章を受けたほど著名な詩人、歌人、フランス文学者、翻訳家。怪盗アルセーヌ・ルパンのシリーズを一通り翻訳していて、そのシリーズを読んだはず。まったく内容を思い出せないけれど。
私はコナン・ドイルから入ったので、ホームズ側である。ホームズ側の人間はどうもルパン側とは相性が悪い(そんなことはないか。気のせいだ)。あと、フランス文学でなにを読んだのか。ボードレーヌ「悪の華」。ジャン・ジュネ「泥棒日記」。マルキ・ド・サド「悪徳の栄え」。おいおい、なんだか悪い話ばっかりじゃないか!
子どもの頃は、アラン・ドロンの全盛期で「レッド・サン」とか「ボルサリーノ」を見た気がする。「太陽がいっぱい」はテレビで見た。ああ、まだ犯罪ものが続くけども。
いまむりやりフランスっぽいものをイメージしていて、そうだ、「死刑台のエレベーター」「男と女」「冒険者たち」「グラン・ブルー」「レオン」「恐怖の報酬」などを見た。映画は比較的、イメージが残っている。「グラン・ブルー」はよかったなあ、少し長い映画だったけど。「恐怖の報酬」は最初のモノクロバージョンをテレビで見て「最高だ!」と子ども心に思った作品だった。
フランスパンも嫌いではない。歯の関係で固いのはちょっと遠慮するけれど。
フランス料理は何度か食べている。いわゆるコース料理というやつで、ワインを飲みながら食べるやつ。なにがおいしかったか覚えていないけど。ワインはおいしかったなあ。フォアグラ、トリュフ、キャビアといったものも一応食べているはずだけど、そんなに印象は残っていない。高いってイメージが先行してしまっている。
すぐにイタリア料理のブームがきて、イタリアンに流されていった私。
シャンソンも私は上っ面である。銀座のシャンソンの店に行ったことはあるし、ある日本のシャンソン歌手の方と仕事でやり取りしていたこともあったのに。
そうだ、なんだかフランスと言えば敷居が高いのである。おいそれと行けない場所な気がしてしまう。だから旅先として一度も考えたことはなかった。TGVとかオリエント急行とかに一度乗ってみたいと思ったことはあるけれど。それぐらいかもしれない。
気付かせてくれるきっかけ
思いもよらないことの中にこそ、新たなフロンティアがある。自分のいつもの思考や嗜好ではカバーできていないところに気付かせてくれる「出会い」は大切だ。
今回はオリンピックがパリだった、ということで、ルーブル美術館やオルセー美術館にいつかは行ってみたい、と多くの人が思っているにもかかわらず、私は一度として自分が行くイメージを持ったこともなければ切望したことさえなかったことに、いま気付いた。
憧れたってよかったのにね。フランスやパリにもっと憧れていたら、私の人生は変わっていたに違いない。
いま急に思い出したのだが、幼少期に赤塚不二夫のマンガ(「おそ松くん」)で「イヤミ」というキャラクターがいて「おフランス」と連発していた。それが私にとってのフランスだったのである。
なんということだ、赤塚不二夫に私のフランスはブロックされていたのだ。いや、そんなことはないか。でも、心理的にはあるかもしれない。赤塚不二夫に心酔していた時期があったのだもの。
そんなこんなでもうすぐパリオリンピックも終わるけれど、きっとフランスに憧れている人にとっては楽しい日々だったのではないだろうか、と推測する。私もこれを機にフランスを少しばかり楽しめるようになるだろうか。いやあ、もはや手遅れかもしれない。