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303 夏の記憶

昭和 カブトムシとプール

 昭和の頃、子どもだった。夏になれば朝、ラジオ体操へ行きハンコを貰う。あとは自由。いや、宿題もあるけれどコツコツやらないタイプなので8月30日頃までボヤボヤしている。
 それよりも友達と自転車でプールへ行く。市民プールではなく、私営のプールがあった。「あそこは水が汚い」と悪口をよく言われていたが、そこへ行けばそこで出会う他校の子たちもいて、みんなで遊んでいた。帰りにアイスを食べる。あるいはチェリオを飲む。あるいは両方をする。そしてお腹を壊す。
 プールのあとの、怠い体で自転車を漕いで夕方の道を家へ帰る。「じゃあね、またねー」とか言って、交差点に来るたびに少しずつ友人たちと離れていく。最後には自宅の近い三人だけになっている。
「あそこにカブトムシが絶対にいる」情報を入手したその三人のうちの一人の誘いに乗って、今度は山へ行く。山といっても、小高い雑木林。道もあれば民家もある。その谷へ入っていく。藪である。笹がいっぱいある。そしてポッと開けた谷底に出る。
「すげえ」
 もうカブトムシどころではなく、「ここ、おれたちの秘密基地にしようぜ」的なノリで、ベニヤ板や角材を拾ってきて基地づくりをはじめてしまう。太い木々に囲まれた小さな谷底は、落ち葉がびっしり。だが草は少なく歩きやすい。
「これ、すごいぞ」と誰かが太い蔦を手にしてくる。蔦は巨木の上に伸びている。ぶら下がってみるが、なんともない。
「やったー、ターザンだ」と交代で蔦にしがみついてターザンの真似をする。しだいに競技化していき、蔦を使ってどこまで飛べるか競争だ。
 私の記憶ではカブトムシを捕りに行くと言って出かけて、カブトムシを捕ったことはない。クワガタは捕った。あとカミキリ虫。だがそれ以上にただひたすら遊んでいた。

平成 ドライブと旅行

 昭和の終わり頃から、鉄道の旅が好きになり、山登りと組み合わせて行くようになった。その頃は、東海道線を各駅停車で下って京都まで行けた。大垣で早朝、少し待つことになったはずだが、とにかく乗り継ぐことができた。いまはどうなっているのだろう。
 京都から神戸へ。神戸には親戚の家があり、夏は小さい頃からよくそこに泊りに行った。姫路にも親戚があり姫路城を見たり、赤穂の塩田を見たりした記憶はある。
 平成になったらすでに社会人でおカネも少しはあったので、もうちょっとマシな旅をする。たとえば、ウニを食べたくて利尻、礼文に行く。札幌でも函館でも食べることはできるのに、だ。かといって、それほど豪華な旅ではなく、忙しかったこともあって、慌ただしく日程をこなした。
 クルマを持っていたので毎週のように箱根にドライブをした。美術館、クルマ関係の博物館などもあった。なぜか箱根の関所だけは行ったことがない。テレビで、クルマの番組でよくテストに使う芦ノ湖周辺の道路を、自分でもドライブしてみた。こまかなRとアップダウンによって、アクセルとブレーキはとてもこまやかに操作しなければならない。当時、5速マニュアル、そして6速マニュアルに乗っていたから、クラッチとギアチェンジも重要。長い下り坂でフェードしないようにすることも大切。などなど、いろいろ楽しんでいた。
 旅行では、北は大雪山、そして函館が印象的だった。南は、与論島だろうか。飛行機で沖縄へ、そして与論島へ。小さな飛行機に乗り換えて飛ぶのもおもしろかった。そういえば、イギリスのアイラ島へ行ったときも、「大丈夫か」と心配になるような小さな飛行機に乗った。
 与論島はいわゆるリゾートなので、人工的なリゾートエリアでしばらく滞在した。グラスボートで夜の海を見た。レンタカーで島を一周した。ナマコでいっぱいの海も見た。料理もとてもおいしかった。

令和 十和田、弘前

 平成もそうだが令和になるとさらに旅をしなくなった。
 まず仕事での出張以外で旅をしなくなった。仕事の都合もあるけれど、もろもろかかる費用が大きくなってしまうのがネックだった。とくに夏休み期間は費用は膨らみがちなので、どうしても行きたい家族連れの人たちを優先して、私なんかはいつもずらして旅を少しする。
 たとえば、銚子電鉄に乗りに行く。夏気分を味わえる。
 そしてこれもまた親戚がいることもあって、用事もかねて十和田、弘前へ旅をした。新幹線で八戸。そこからバスで十和田市現代美術館へ。七戸にバスで行き再び新幹線で新青森。さらに鉄道で弘前。親戚の世話になって、青森県立美術館へも行く。棟方志功、奈良美智の作品をたっぷり。この頃、まだ赤レンガの美術館は建設中だった。
 そういえば大人になってからは、特に旅と旅先で見る美術の組み合わせがよかった。尾道は3回ぐらい行っただろうか。岡山でも美術館に寄った。それは、大人にとってのカブトムシなのかもしれない。
 またいつか夏の旅をすることがあるだろうか。カブトムシは捕れなくても、カブトムシを捕りに行くのである。それが夏だ。

これも季節は夏。


 
 
 

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